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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

私の名を知る人間はもう貴方だけで良い

作者: てと
掲載日:2021/02/06

リハビリ中ですので温かな目で(土下座)




「……生きろ。命ある限り、生き抜け」



貴方の最後の言葉は私を縛り付ける呪いだ。貴方と共に生きたかった。貴方と共に終わりたかった。貴方が最後に遺した言葉は、私の存在意義をあやふやにした。


貴方が居ない世界に自分が居合わせることにより生み出される価値、この世界に生きているということの尊さや不可欠性。何もかもが分からなくて、貴方の呪いの言葉に縛られ私は生きながら死んでいる。


ただ、貴方と過ごした日々を思い出し、貴方の面影を追う毎日。


でも、私は分かっている。分かっていても見て見ぬ振りをしていた……。そう、貴方の思い出を終わらせること……。私は見て見ぬ振りをして、貴方との思い出に留まろうとしている……。


残酷に過ぎていく時間の中で、私は忘れていた。進むことを忘れ……変わることを恐れていた。私の中で生きる貴方が消えてしまうのでは無いかと。


だから私は貴方の呪いの言葉に従い、死ぬ為に生きるのだ。戦場で数多の人間を殺し、殺される為に戦う日々を過ごす。


……誰か私を早く殺して。




ーーーーーーーーーー



「お前、死にたがるのなら自ら死ねば良いのに、何故生きようとしている」



敵国の将軍に取り押され剣を首に当てられ、身動き一つ出来ない。これで貴方の元へ逝ける。貴方はまた微笑んでくれるかな。敵将の言葉に私は、長年変わらなかった表情筋が動き、微笑みで返す。

 

ああ、やっと死ねる。



「……お前も狂っているのか……哀れだな。此奴は捕虜として連れて行く。くれぐれも逃すなよ」


「……何故……何故殺さない」 


「お前を生かすか殺すかは俺次第だ。覚えておけ、紅き死神」



どんな死に方だって良い。拷問されようが、首を刎ねられようが、何だって良い。私を殺してくれるなら……愛しい人の元へ逝けるのならば。


なのに……なのにこの男、敵国の将軍のハインツは私を生かした。何故、何故、何故!!多くの軍人を屠ってきた憎しみの対象の私を殺さない。


殺される為に憎しみを集めたのに。






ーーーーーーーーーー

 





それからの私は捕虜では無い扱いをされ、将軍が褒賞として私を妻にと譲らなかった為、ハインツの妻として生きている。


名前すら名乗らず、唯の動く人形の様に将軍に言われた通りに毎日を過ごす。毎日の様に自分の命を自らたってしまいたい衝動が、愛しい人の呪いの言葉を思い出し留まる。


私はいつになったら貴方の元に逝ける?



「スカーレット。そろそろお前の本当の名を聞きたいんだが?」



アネモネが咲き誇る庭で茶会をする私達は側からみれば仲の良い夫婦だろう。でもその相手はハインツでは無い。前にうっかりアネモネの花をジッと見ていたら、アネモネが好きだと悟られて数日後には庭がアネモネばかりになった。


「あの人がもう私の名を呼ばないなら、私の名前なんて意味が無い。必要が無い」


「お前の想い人は今のお前を見たら悲しむだろうなあ。まるで喋る死人だ」


「あの人の声が聞けるなら、この声帯だって要らない」


私の何もかもを差し出してあの人が戻ってくるのだったら、私は迷わずそうするだろう。そんな私にハインツはクッキーを差し、私はゆっくりと味も感じないものを口の中でグチャグチャにして飲み込む。毒でも入っていれば良いのに。



「スカーレット、……。此れは俺の独り言だから聞かなくて良い。……お前は俺の親友に似てるんだよ。恋人を失って、今のお前の様な状態になって、、、殺してくれと言われた。恋人に生きてくれと言われたばかりに、自ら死ぬ選択を消されて……」


「……その人はどうなったの?」



ハインツは下を向き口を閉ざした。後悔、懺悔、焦燥、色々な感情を強く感じる表情をしている。……ああ、この人はその親友を殺したのだ。



「親友は……断る俺に切り掛かって来て、本気で俺を殺しにきた。……仕方ないとはいえ、俺は、親友を手にかけてしまった」


「……私をあの時殺さなかったのは、その親友に似ているから。貴方の親友に対する懺悔。それで貴方が多くの人間に恨まれる形になっているのに……哀れね」



それだけ私は人を殺した。憎まれて死にたかった。私はどこまでいっても許されないだろう。あの人もこんな私にはもう微笑んでくれないだろう。何故、最初からそれに気付かなったのか……見ようとしなかったのか。 



「……生きるってなんだろう。あの人が居ない世界に価値も意味も無いのに。……生き抜けって……本当に最期まで残酷な人」

 


何故か涙が流れ頬を濡らす。泣く権利なんて私には無いのに。神様は残酷だ。善人が死んで、悪人が生き延びてるなんて。



「……生きろ。多くの人間に恨まれてたとしても」



私の涙を拭い、苦しそうに笑うハインツがあの人と一瞬、重なって見えた。



「……アネモネ。私の本当の名前。アネモネ」


「……そうか。スカーレットより良い名前だな」


「……スカーレットで良い。私の本当の名前を知る人はもう貴方だけで良い」



私達はこれからも茨の道を行くのだろう。でも、この人と生き抜くのなら悪く無いと思えた。





ありがとうございました!!

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