第一番前編「緊急依頼」
「はっ、はあっ」
朝早く、僕はギルドの周りを走っていた。早起きするのは苦ではないものの、長距離を走るのはどの時間帯だったとしてもきつい。そりゃあまだ三日目なのだから、仕方ないとは言っても……どうしても、早く体力がつかないだろうか、と考えてしまう。そんな甘い考えを振り払いながら、僕は走った。
この時間帯、フンフは役割である掃除に奔走している。なので、一緒に走ることはできないが、外の掃除もしにくるため、直接声をかけにきて応援してくれることも少なくない。ドライはまだ寝ている。すごく早く起きることもあれば、昼近くになってから起きることもあるみたいなので、習慣にしようと言うのは、土台無理な話らしい。
だから、僕は結局、一人で走っていると言うわけだ。このギルドは自然に囲まれいて、空気が美味しくて走りやすい。それに、あまり人から見られる心配もないからいいな。村のおじいさんやおばあさんたちは皆早起きだったから、こんなに落ち着いて走ることもできなかっただろう。フンフも僕のペースは遅いだろうに、何も言わずに笑顔で応援してくれる。身体を鍛えるのに非常に良い環境だ。
こうして走っていて気づいたこともあった。このギルド、なんと畑がある。しかもそこそこ広い畑だ。最初に見たときは驚いた。畑があるギルドなんて、そう聞いたことはない。基本的に誰が育てているのだろうか。これだけ広いのだから、当番制なのかな。そんな話は聞いていないが、もしかしたらもうちょっと慣れてきたら任せてもらえるかもしれないな。
……あれ? 今、畑に誰かいたような……? 気のせいだろうか。そういえばこの畑、少なくとも僕がこうして走っている時間帯には、誰も世話したりしてないな。村のおじいさんおばあさんは、この時間帯にはしていたと思うけれど。それとも、今よりもずっと前に始めていて、もう終わっている時間帯なのだろうか。まあ、フンフとかゼクスさんに聞けばわかるだろう。
ああ、あの日以来『俺』に会えてないな。現実に驚くこともやることも増えて、気にする暇はほとんどないけれど、こうして一人になるとやはり『俺』のことを思い出してしまう。夢なのだし、出てこないということは、僕が本心から望んでいないということか? ううん、そんなはずは、ないな。それだったら、以前は毎日出てきてくれないとおかしかったんだから……。
そう思っていると、ひゅっ、と何かが僕の首筋の横を通った。思わず足を止めてそれを見る。
「ひっ!?」
それは刃物だった。随分と大きく長い刃物。大剣、というのだろうか。実物を見たのは初めてだけど、きっと、いいや、絶対そうだ。そうでなければこれは何だと言うのだろう。
それは僕の首に当たる手前で止まっていた。後ろから刃が伸びてきているということは、後ろに、これを持った誰かがいるということだ。僕は後ろの気配に集中し始めると、低い声でその人は言った。
「誰じゃあ、あんた。こねーな時間に、ここで何しよる。それとも、ここがわしらのギルドじゃと知ってきちょるんか?」
……えっと、この口振り、このギルドの人? だけど、大剣を首の近くに持ってきているということは、完全に敵対心を抱かれている。そんな、ちゃんと説明しないと、僕の命までも危ないか!? 言わなきゃ! 説得できる情報を言わなきゃ!
「い、いえ、違います! ぼ、僕は、フィ、フィーアと申します! 先日から、このギルドに所属させていただくことになりました! 決して、決して怪しいものではございません!」
何言ってるんだ僕! 言ってることは寸分狂いなく正しいのに、最後のを付け加えると、途端に怪しさが増すじゃないか! もしもこの人が僕のことをおぼろ気にしか聞いていなかったら、嘘をついていると考える可能性もある、かも!
そうだ、相手の反応を身近な人で考えてみよう。フンフだったなら、信じてくれるだろう。初対面の時だって、偽物だと疑うこともなく、新入りだと歓迎してくれていた。この人もフンフみたいに言葉通りに受け取ってくれたら、この大剣を首から離してくれるはずだ。
けれど、ドライの場合はどうだろうか。ドライはフンフよりも、ずっと冷静に物事を考えている、ように思える。フンフみたいな感覚派だったら、きっと僕が石碑の場所を調べたいと言った時に、承諾してくれただろう。だからそう簡単には怪しい奴の言っていることを鵜呑みにしないはず。つまり、ドライみたいに用心深く考える人だったなら、最悪僕の生命が絶たれる可能性もある。
一体この人はどう考えているだろうか。怖くて後ろは振り向けない。ああ、フンフがこの場に来てくれれば一番良いのだけれど、彼の元気な声も足音も聞こえはしない。聞こえるのは、僕の速く煩い心臓の音と呼吸だけ。どうやら、そんな都合の良いことは起こらないらしい。
そんな時、高く、そして聞き覚えのある少年の声が、僕達の間に割って入るように響いた。
「はあ、何してんの?」
「ツェーンくん!?」
声がした方を見ると、ギルドを囲む柵の上に、ツェーンくんが座っていた。呆れたような顔で僕を一瞥した後、それよりも格段に冷めた目で、後ろの人を見たようだった。
「猛獣が猛獣してんのは結構なことだけど、ギルド内で殺り合わないでくれる? 仲間が仲間に殺されたなんて、アインス様が笑ってくれないから洒落にもなんないんだけど。あーあ、こいつにアインス様の素晴らしさを叩き込む予定だったのに、すっかり冷めちゃったよ」
ツェーンくんがそう言うと、大剣は離され、緊張感のある雰囲気もなくなったので、僕も振り向くと、そこには大きな男性がいた。今まで見てきた人とは違って、筋肉質な人だ。だから、こんなにも大きな剣が持てるのか、と感心してしまったくらいだ。
僕が呆けていると、男性は僕を見た。何かされるかと思って身構えたが、彼は僕に手を上げることはなく、そのまま頭を下げた。
「……ごめん。まさか、あんたがギルドの新人とは知らんかった」
「い、いえ、普通、初対面なんだからわかりませんよ。だから、ほら、頭を上げてください……」
謝ってくれたということは、第一印象よりは優しい人なのだろうけど、若干まだ怖かったので、徐々に声が小さくなっていってしまった。だが、彼はきちんと聞き取ってくれたらしい。のっそりと言う感じで身を起こすと、彼は僕を真顔で見つめながら、口を開いた。
「わしの名前はアフト。よ、よろしゅうしてほしい……?」
首を傾げながら釈然としない様子でそう言うアフトさんに、僕も同じように首を傾げていると、見かねたように溜め息をついて、ツェーンくんが言った。
「ばーか。それは別の地域の方言だよ。自信ないなら使わないでくれない?」
方言……さっきからアフトさんが不思議な言い回しをしていると思っていたけれど、それが方言というものなのだろうか。
「それは、できん。わしは何としても習得せにゃならん」
「そうは言っても、一切進歩してないじゃん。はっきり言って、中途半端で聞き苦しいんだよね。あーあ、アインス様が心の広いお方じゃなかったら、こんな奴……」
ツェーンくんは最後の方には独り言のように呟くと、どうでもよくなったような素振りでアフトさんに背を向け、僕の方を向いた。
「ねぇ、君たち今日暇だよね?」
口調は普通だけど、何故か圧を感じる。その圧に押されるように、僕は半ば慌てて返事を口にした。
「へ、ええ? 特に予定はないけど……」
「それならこれやっといて」
そう言って、何かが書かれているであろう紙を無理やり押し付けてきた。反射的に受け取ると、ツェーンくんは僕からも視線を外し、ギルドに身体を向けて、捨て台詞を放っていった。
「他のには緊急依頼って言えばわかるから、じゃ」
何だか、あっという間に去っていってしまった……。だけど、彼が来てくれたおかげで、アフトさんの誤解はとけたんだし。何か押し付けられてしまったみたいだけど、とりあえずはツェーンくんには感謝しないと。
視線をギルドの方向から正面に戻すと、アフトさんと目が合った。無表情に見えるけど、どこか申し訳なさそうな目をしている。
「……フィーア、じゃったか。ごめん、や、ごめんで済まされんことをしたと思っちょる。久しぶりに畑に出たら、知らん人影を見つけたけぇ、取っ捕まえにゃいけんと……ああ、まったく、我ながらわやじゃった」
「そ、そんな、本当に気にしないでください。挨拶しそびれていた僕も悪いんですし……」
どうしよう……まだすごく気にしてしまっているみたいだ。全然顔が明るくならない……。もうこうなったら、話題を変えてしまうしかないだろう。話題……話題……そうだ!
「ここの畑、すごく広いですよね! 当番制なんですか?」
極力、声色を明るくするよう意識しながらそう聞いてみた。すると、アフトさんは緩やかに首を振った。
「いんや、この畑はわしの役割じゃけぇ、基本的にわし一人で管理しちょるよ」
「ひ、一人で……!? すごいですね! あれ? でもさっき、畑に来るのは久しぶりって言ってませんでしたか?」
なるほど、畑に人影が見えたのはアフトさんだったのか、と理解しかけたが、それ以上に驚きが勝った。さっきよりも、おそらく幾分か穏やかな表情のアフトさんに、純粋な疑問をぶつけると、彼は嫌な顔をせず言葉を口に出した。
「それは……恥ずかしい話じゃけど、先日まで風邪を引いちょって、寝ていなけりゃならんかった」
風邪? そういえば、風邪を引いている人がいるって、聞いていたような……。
「あっ! そうだ! もしかしてアフトさんって、ゼクスさんの相棒さん、ですよね?」
僕の言葉を聞いても、アフトさんから反応はなかった。何を考えているかが読み取れないため、気分を害してしまったのだと思い、僕は慌てて言った。
「あ、あれ? 違いましたか? 仲間にお知らせ掲示板?みたいなところに、ゼクスさんがそう書いていたと思うんですけど……」
まさか人違い? 風邪を引いていた人は二人いて、アフトさんはゼクスさんの相棒じゃない方だったとか? そうだったらどうしよう。折角良い方向に向けられたと思ってたのに。こうして話している感じでは穏やかそうなだけど、機嫌を損ねてしまったら今度こそ、手に持っている大剣で首を斬られるかもしれない。人生がここで終わる覚悟をしておいた方がいいだろうか……。
内心焦りながら、アフトさんの言葉を待っていると、彼は僕の予想を裏切るように、言葉を発した。
「それは、違ってはないっちゃ。ただ……」
「た、ただ?」
ごくりと唾を飲み込みながら、僕はアフトさんの次の言葉に集中した。僕を見て僅かに首を傾げた後、彼は言った。
「ただ……照れるじゃろ? 知らんところで、そねーなこと言われちょったら」
「……そう、ですか?」
数秒の間、ポカンとしてしまった後、やっとのことでそう聞くと、アフトさんは小さく頷いた。
相棒と言われると照れる……のか? 仲のいい人にそう言われたのなら、普通は誇らしく思うところではないのだろうか。正直なところ、僕はそんな経験がないから判断がつかない。少なくとも、アフトさんにとってはそう言うものだと言うことしかわからなかった。
ここで突然、ハッとなって時計を見た。走り始めてからもう結構な時間が経っている。そういえば、アフトさんも畑の世話があって出てきてたんだった。
「もうこんな時間に……すみません! 僕のせいで、畑のことまだ何もできてませんよね!」
「……は、本当じゃ。はよ終わらせにゃ」
あたふたとした様子でアフトさんは駆け出しそうだった。それを見て僕は、その後ろ姿に別れの言葉を言おうとしたが、彼はすぐには走り出さず、また、くるりと顔をこちらに向けたのだ。
「あんた、ぶちええ奴っちゃね。わしのこと嫌じゃなかったら、また」
微かに笑みを浮かべて言うと、今度こそ彼は走っていった。大柄な見た目と、そう変わらない表情のせいか、随分と怖く見えるけれど、中身はそう怖い人ではなさそうかな。改めて考えると、ツェーンくんが割りと酷いことを言っていた気がするけど、アフトさんに怒ったような感じはなかったし。性格は穏やかな人なのかもしれない。
ああ! そんな場合じゃなかった! 僕も今日の分、きちんと走り終えないと! ツェーンくんに押し付けられたものをフンフとドライに見せなきゃいけないし、急がないと。
そう思いつつも、まだ運動を始めて三日目の僕には、どう足掻こうとも無駄であった。急げば急ぐほど、疲れて歩みが遅くなるだけ。気持ちだけは走っている状態で、それでも歩き続けてはいたものの、僕が遅くて心配して来たフンフに回収されてしまった。まだ今日の目標に到達していないと言っても、彼は聞く耳を持ってくれなかった。逆に、無理は禁物だ、と怒られてしまったくらいだ。
はちゃめちゃなようで、意外とこういうところはしっかりしているんだな、と思いつつ、ドライとも合流して少し遅めの朝食を食べ終えた後、僕はやけに上機嫌なゼクスさんに呼び止められた。フンフとドライが野次馬しようとしたが、やんわりとゼクスさんに拒否されたため、二人には待っていてもらうことになった。
「フィーアくん、アフトと会ったんだね」
「あ、はい。そうですよ。アフトさんと会ったんですか?」
「うん。あいつ仕事早いから、ちょっと疲れてたみたいだけど、大体いつも通りの時間に来たよ。……それで本題なんだけど、フィーアくんはアフトのことどう思った?」
「どうって……」
第一印象は当然、怖い人である。もちろん、今はそう思っていないけれど、ゼクスさんには今の印象だけ伝えた方がいいだろうか。けれど、正直、印象が真逆だし、今の印象だけ伝えたら、嘘をついていることにはならないだろうか……?
考えすぎて口に出せないでいる僕に、ゼクスさんはそんなに言いづらいのか、と怒る様子はない。むしろ、笑顔でまた言ってくれた。
「そんなに心配しなくても、怒らないから。思ったことをそのまま伝えてくれればいいよ。さ、アフトはどんな人間だと思った?」
そう言われたのなら、遠慮なく言ってしまおう。僕はそう思い、一呼吸置いた後、正直に言った。
「最初は、大きくて無表情で、ちょっと怖い人かな、と思いましたが、言葉を交わすうちに優しくて穏やかな人じゃないか、と思いました」
言った、言ってしまった。アフトさんの相棒のゼクスさんに対して、怖い人だと思ったと言ってしまった。やっぱり、自分の大事な人の悪い評価って聞きたくないよね? 言ったのは間違いだっただろうか。でもそのまま伝えてくれと言われたし……。
とりあえず弁解はせず、ゼクスさんの様子を伺う。すると、彼は一つ、大きく溜め息を吐いた。や、やっぱり怒ってるのか!?と思ったが、顔をあげたゼクスさんは、予想外の言葉を口にした。
「はー、よかった!」
「……ええ?」
よかった、ってどういうことだろう。まさかゼクスさん、アフトさんのことを怖いと思いつつ仲良くしてるのか? いや、そんなはずないと思うけど、言葉があまりにも、僕の想像の上を行ってしまっていたから、どうしてもそんな風に思ってしまう。
けれど、ゼクスさんは良い意味で、僕の予想を裏切ってくれた。
「いやね? アフトってば、優しいのに見た目で勘違いされるタイプだからさ、最終的には好意的に思ってくれるのは嬉しくって」
「あ……ああ、そういうことですか」
「うんうん、そうだよ。アフトもフィーアくんに対して好感触だったみたいだから、フィーアくんからの印象も気になっちゃって。こんなこと急に聞いてごめんね? でもこれからも、アフトのこと嫌わないでやってほしいな。あ、もちろん、オレのこともよろしくね?」
そ、そうだったんだぁ! よかった、僕も安心した。ゼクスさんはただ相棒思いなだけだったんだ。口振りから察するに、今までもアフトさんが怖がられることは多々あったということだろう。僕もそうじゃないかと心配していたということか。それならば、僕の答えによかったと言うのもおかしくない。
もちろんです、と伝えると、それじゃあいってらっしゃい、とゼクスさんは手を振って僕を見送ってくれた。そういえば、彼は僕達の名前を呼ぶときに敬称をつけるのに、アフトさんのことは呼び捨てなんだな。それだけ仲も良いということだろうに、話している間にはまったく気付かなかった。
名前と言えば、ツェーンくん、アフトさんのことを名前で呼ばなかったな。いや、そもそも彼は、アインス様、という名前以外は、全然名前なんて呼んでないけど、特にアフトさんには刺々しい感じだったというか……少なくとも、好意的な人に、猛獣とは言わないと思う。もしかして仲が悪いのかな?
「おーい、フィーアー!」
「あ、ごめんね、待たせちゃって! すぐに行くよ!」
いけないいけない。待っていてもらってたんだった。いつも二人のことを待たせてしまって、申し訳ないな。多分、二人とも気にしていないだろうから言わないけど、僕が意識して、極力待たせないようにしなければ。
急いで二人のところへと寄っていくと、ドライが口角をあげて言う。
「さあて、今日はどうすっかねぇ」
それを聞いて、僕はツェーンくんから渡されたもののことを思い出した。服のポケットに入れていた紙を取り出し、二人に見せる。
「これ……今朝、ツェーンくんに渡されたんだ。緊急依頼って言ってたけど……」
「はあ? 緊急依頼? ……あー、まじか」
「へー! さいきんはあんま見かけなかったな! ひさびさなんだぜ!」
広げた紙を見ると、一番上に赤い字で緊急依頼と書かれている。その内容は、巨大な魔物一体と、それよりも少し小さい、けど大きめの魔物を一体討伐してほしいと言うもの。これだけだったら、普通の依頼でもありそうだけど、緊急と書いてあるし、何か違いがあるのだろうか。
そう思っていると、ドライが面倒そうな顔をしつつも説明してくれた。
「緊急依頼ってのは、他の依頼と違ってよっぽど切羽詰まってるところが出す依頼だ。何年前だか忘れたが、そのくらいの時はどれから手えつけたらいいかわからないくらい出されてたんだが、ここ最近は全然見なかったなー。フンフが一回しかやったことないくらいだろ?」
「おう、そうだな! きんきゅー依頼って、どれくらいの強さかわかんねーから、結構強いかもしれないけどさ、その分もらえるほうしゅうも多いんだぜ! それに、めちゃくちゃこまってる人をたすけれるぜ!」
「ま、緊急って言うくらいだから、他のギルドの奴らと競争になることも多いけどな。その辺りは早い者勝ちだな」
ふむ、つまりハイリスクハイリターンってことかな。でも、頑張っても早い者勝ちだから、報酬が一切貰えないということもあるのか。一気に稼ぐには大事な依頼だけど、そう旨い話と言うわけではないらしい。
「でもまあ、ツェーンがわざわざフィーアに押し付けるくらいなんだから、どうにもならないくらい強いってわけじゃないんだろうな。でかいとは書いてあるけど、どうせ低級、良くて中級くらいのだろうな。てか、それよりも強いんだったら新人に任せるわけないし。さて、行ってみるか? 緊急依頼」
ドライは顔をあげ、そう僕に問いかけてきた。緊急依頼か……。大きな魔物って言ったら、初日に倒したあのきのこみたいなのくらいだ。だから、二人と一緒でも不安はあるけど、こんな機会、二回目はずっと後になってしまうかもしれない。挑戦することが大事なんだよね……それなら。
「行こう。僕、始めてだから他のギルドの人に取られちゃうかもしれないけど、が、頑張ってみたい!」
僕がそう言うと、二人とも、楽しそうに笑みを浮かべた。
「そうだぜそうだぜ! だめだったとしてもだいじょーぶ! うちのギルドの奴は笑ってゆるしてくれるんだぜ!」
「そうだ。成功しなくても、責めるような奴はいない。まあ、ツェーンはちょっと何か言うかもしんないけど、気にしてたらやってらんねーからさ。もしもの時は小言くらい、一緒に聞いてやるよ」
「あ、ありがとう……せめて、ダメダメだって言われないようにやってみるからね!」
ドキドキする……けど、きっと二人と一緒なら今回も大丈夫だ。足を引っ張らないようにと考えるんじゃなくて、役に立てるように意識しないと。僕は二人についていきながら、そう思い、転送装置へと入ったのだった。