0話 部活な世界1 8/20
こゆきは絶対権限を発動したあと、再びPCがある部屋に戻ってきた。画面を見ると状況は変わっていない。幸運にも設定は時間無制限だった。19×19盤での囲碁は中盤に差し掛かろうとしていた。
「負けたらあかりが悲しむから……」
戦況はほぼ互角……より少しこゆきが不利だった。あかりがきっかけのミスが尾を引いている。
こゆきは次の一手を長考した。そしてしばらくした時にカーソルを動かす。
こゆきとPCの激しい攻防は一瞬の油断を許さぬ状況だった。一手の気の緩みがそのまま最後の「地」に影響した。
そして終盤……
「どうしようー」
あと2、3手で決着というところ、重要な場面が訪れた。打つ候補は2つ。攻めの一手と守りの一手。
攻めの一手が間違えだとすると、PCにつけこまれ負ける。
守りの一手が間違えだとすると、PC優勢のまま終わる可能性がある。
両方正解かもしれないし、両方間違えの可能性もある。
こゆきには今、それが判断できなかった。
「んーー…………数える!! 絶対権限発動!! カウンターをしょうかーん」
こゆきがそう言った瞬間、教室にキッチンカウンターが出現した。ステンレス製のシンク、白色のキッチン台とその下には食洗機までついていた。
「ごめーん、カチカチの方」
こゆきが訂正するとキッチンカウンターの上に、数取器とも呼ばれるカウンターが現れた。
そしてこゆきはそれを右手に取り、画面を凝視しながらカチカチとカウンターを鳴らし、敵の陣地、こゆきの陣地の総数を数えていった。
持ち時間が無制限だからできるずる(?)だった。
数えるのに10分、そして未だ陣地が決まっていない場所をシミュレーションするのにもう10分を要したが……
「んー勝てる! 勝てる! 最善の手は守りの一手だーー!」
こゆきは決定打となる一手を放った。
「ただいま!!」
ちょうどその時、あかりが部屋に入ってきた。
「おかえりー」
「こゆき! 囲碁は……」
「ふふーん」
PCが自動でダメ詰め、整地を行い結果が表示された。
『WIN』
「おおおお!! すごい!! うちのせいで間違っちゃったやつだよね!! ありがとおお!!!!」
あかりがこゆきの頭部に抱きつく。
「いたい……いたいー」
9個目の課題をクリア。