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裸の男

作者: 内海

恐らく意味が分からないでしょう。

いえ意味は分かっても何で書いたんだと不思議に思われるでしょう。

1話完結のちょっと変わったシリーズでも書いてみようかと考えましたが、気分次第です。

 ある男が店から出てきた。


 その男は黒いコートに黒いシルクハットをかぶり、左手には紙袋、右手には傘を持っていた。

 『今日一日は人に親切にしておくれ』という父の願い通り、沢山の人の手助けが出来たと思う。

 締めくくりの親切は、今日が誕生日である父だ。

 町並みは雪で白く覆われているが、道路わきに並ぶガス灯の(あか)りが温かさを演出してくれる。


 レンガ造りの店を出た男は傘をさし、雪が解けて出来た水たまりを避けながら歩道を歩きだす。


 ―今日はブーツを履いてきて正解だった―


 今朝までは寒くはあったが雪は降っていなかったため、靴とブーツで悩んでいたのだ。


 町から少し離れ、ガス灯の数も少なくなったところで1人の男を見つけた。

 かなり距離は離れているが、あまりにも目立つ格好をしていたのだ。

 そう、一糸(いっし)まとわぬ姿だ。


 衣服どころか靴も靴下も履いていない。

 雪を踏みしめて近づくと、裸の男は歳は40前後で黒縁メガネをかけ、キレイに切りそろえられた髪にはうっすらと雪が積もっていた。


「一体どうされたのですか? そのような格好では風邪をひいてしまいます」


 男の話しはこうだった。

 家に帰る途中で強盗にあい、持ち物を全て奪われてしまったのだ、と。


「なら街へ戻り警察へ行きましょう。コートを貸します、さあどうぞ」


 裸の男はコートを受け取るが、首を横に振る。

 ここからだと家に戻った方がはやく、この姿で警察へ行っても信用されないかもしれない、と。


「では家へお送りしましょう、どちらでしょう」


 裸の男はまた首を横に振る。

 この姿では家族が心配してしまうから帰れない、せめて身なりは整えなければ、と。

 

「それならばこの袋に入った服を貸します。サイズが合うか分かりませんが、無いよりはマシでしょう」


 本当ならば父への誕生日プレゼントなのだが、今は目の前の男が哀れで仕方がない。

 紙袋を手渡すと、裸の男は首を横に振る。

 息子の成人祝いを渡す約束をしているのに、手ぶらでは帰れない、と。


「それでは私の家に来てください。遠くはありませんので服をお貸しします。紙袋は息子さんへのプレゼントにしてください」


 家の方向を指差すが、裸の男は首を横に振る。

 親切にしてくださる方の家族に迷惑がかかる。何とか服を貸してもらえないだろうか、と。


 確かに優しい父や妻に会えば、必要以上に物を渡してしまうかもしれない。

 それはこの裸の男にとっても本意ではないのだろう。


 ならば仕方がないと、男は自分が来ていた服を脱いで渡した。

 スーツを脱ぎ、シャツを脱ぎ、下着を脱ぎ、シルクハットを脱いだ。


 裸の男は喜んで服を着たが、服を渡す際に男は寒さに震えて、裸の男に足を向けて尻もちをついてしまった。

 ありがとう、靴下と靴も貸してくれるのですね。

 尻もちをついた男から靴と靴下を剥ぎ取り、裸の男……服を着た男はすっかり紳士の様相(ようそう)になった。


「ご親切な方、ありがとうございます。これで安心して家族の元へ帰れます」


 服を着た男は傘をさし、振り向くことなく歩いて行った。


 一糸まとわぬ男は立ち上がり震える体を抱きしめていると、町の方から一人の男が歩いて来るのだった。

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