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マスク男子とマッシュ男子の探偵事務所(読み切り)

作者: 江菓

 暑い夏の日。窓を閉めているのに聞こえる蝉の声に風流を感じつつ、クーラーの温度をまた一つ下げた。

「あつー!クーラー16度なのにまだ暑く感じる!なんで!?」

「僕にしかクーラーの風向けてないからじゃない?」

「なんでお前が独占してんだよ!俺にも来るようにしろよ!」

「はいはい。わがままだなー」

「わがままはどっちだよ!」

マッシュがクーラーのリモコンを操作し、クーラーの風がマスクの座るソファーにも来るようにした。

「あー涼しい~」

「よかったねー」

ニコニコとしているマッシュの猫のような顔にイラつきながらも、スマホでゲームをしていると、外の階段を駆け上がってくる音が聞こえた。

「ヒールの音、女性かな。」

「マッシュはほんと耳いいよな・・・」

そう言いながら、顎にかけていたマスクをもとに戻した。扉が開いて入ってきたのは小柄な女性だった。汗を滝のように掻いている。

「助けてください!!」


 事務所に駆け込んできた女性をソファーに座らせ、水を出す。

「大丈夫ですか?」

「ドアのカギを閉めてください!!入ってくるかもしれないから!!」

叫ぶように言う女性を落ち着かせるために言うことを聞き、鍵を閉めた。

「鍵は閉めました。もう大丈夫ですよ。」

「あぁよかった・・・」

「どうしたんですか?」

「実は・・・」

五ヶ月前からストーカーにあっているらしい。はじめは会社から後ろをついてきていたらしい。怖くなってストーカーに気付いた日から彼氏の家に帰っているらしい。はじめの二ヶ月はただ帰り道をついて着たり、家の近くをうろうろしていたが、三ヶ月目からポストに「どうして男の家にずっといるの?」「君の家に上がらせてもらったけど何ともなってなかったよ?」「ねぇどうして?」などと書かれた手紙を入れ始め、最近では家の電話に留守電が入ったり、ゴミがあからさまに破られていたりしていたらしい。警察にも言ったが、本人に危害が加わっていないため動けないらしい。

「今日はどうしたんですか?」

「いつも通り帰っていたら急に追いかけてきて・・・怖くなって・・・探偵って言葉が見えたので駆け込んだ次第です・・・。」

「なるほど・・・」

「助けてください!!このままいったら・・・いつか殺される気がするんです・・・」

肩を震わせながら泣く女性を見てマスクは昔も似た光景を見たことを思い出した。

「マッシュ。」

マッシュのほうを見ると、困ったような笑顔でこう言った。

「いいよ。マスクならやるっていうと思ってたし。」

「ありがとう。」

うずくまって泣く女性の前にしゃがんだ。涙を必死で拭っている。

「俺たちであなたを助けます。」

「ありがとう・・・ありがとうございます・・・」

「お名前だけ、お聞きしてもいいですか?そのほかは話せるようになってからでいいので。」

「はい・・・川島友梨と言います。」

「川島さん。とりあえず椅子に座ってください。床は座るところじゃありませんから。」

「そうですね。」

にこっとした顔はとてもかわいらしいと感じた。川島さんが椅子に座ると机の上にマッシュが準備よく紅茶を置いた。

「レモンバームです。レモンみたいな匂いですが酸味はなく、すっきりとしていて飲みやすいですよ。精神的に弱っているときに気持ちを落ち着かせてくれるハーブなんです。」

「ありがとうございます・・・」


川島さんを一人で返すのは危ないと思い、彼氏さんにお迎えに来てもらえるように連絡した。ついでに彼氏さんにも話を聞くことにした。

「友梨!」

「たつ君・・・」

彼氏さんは入るなり川島さんに駆け寄る。ひとまず安心した。

「あの、いいところですみません。お話を聞いてもよろしいですか?」

「あっすみません・・・」

彼氏さんを川島さんの隣に座るよう誘導し、俺は反対側のソファーに座る。マッシュも彼氏さんにお茶を出して俺の隣に座る。

「では、二、三個質問させてください。」

「はい。」

「ストーカーをしてくる人に面識はありますか?」

「私はないです・・・」

「・・・あいつは俺の同僚の寒田です・・・」

「なるほど・・・どうしてストーカーになったか思い当たるものはありますか?」

「えっと・・・」

「そういえばたつ君、ストーカーが始まる前に飲み会で私のこと自慢しちゃったって言ってなかった?」

「そういえば・・・彼女自慢みたいな感じになって彼女を紹介した・・・。」

「多分それですね・・・」

「ごめん友梨・・・俺のせいで・・・」

「たつ君のせいじゃないよ・・・」

「そうです。ストーカーになるのは基本勘違い男ですから、きっと勝手に勘違いしてきたのでしょう。あなたが気に病むことはないです。」

「ありがとうございます探偵さん・・・」

「次の質問をしてもいいですか?」

「はい。」

「相手は何処までこちらのことを把握しているかわかる範囲で教えてください。」

「えっと・・・寝る時間とか出勤時間、帰宅するおおよその時間走っているはずです。」

「あと、私のテンスタグラムをフォローしているので好きなカフェや友人関係も知っていると思います。」

「なるほど・・・ありがとうございます。」

俺がどうするか考えているとマッシュが口を開いた。

「おうちはどの辺ですか?」

「えっと、五丁目の〇×マンションです。」

「五丁目の〇×マンション・・・でしたら、帰りは少し遠回りですがこっちの道を通って帰ってください。ここは人通りが多くてストーカーをまくのに便利です。不安だったらこの通りにある『BARペクーニア』に入ってください。赤い髪のバーテンダーに「マッシュにここに入るよう言われた」と言えばかくまってくれます。」

マッシュは手慣れたように棚から出した地図に胸ポケットから出した赤ペンで書きながら説明した。はい、はい、と真剣にうなずきながら聞く川島さんと彼氏さんの顔は真剣そのものだった。

「今日のところは一度おうちに帰ってゆっくり休んでください。何かあったらこの電話番号にご連絡ください、僕が出ますよ。「無事帰れた」などでも大丈夫ですよ。」

「あ、ありがとうございます!」

「これが仕事なので。この地図は一応差し上げます。こちらからも連絡することがあるかもしれなので一応ここに電話番号を書いてもらってもいいでしょうか?」

「はい!」

近くにあったメモ帳に二人の電話番号を書いてもらった。

「ありがとうございます。」

「それでは!今日はありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

二人は深々と頭を下げる。

「感謝されるようなことはしてませんよ!ではお気をつけて。」

「はい!」

同時に返事をし、手をつないで外に出て行った二人の後姿を見てマッシュの顔はにこやかになっていた。

「マッシュ。今日はもう終ろう、作戦会議だ。」

マスクをまた顎まで下げ、マッシュに指示する。

「あーい」

マッシュが扉にカギをかけ、窓のカーテンを伸ばしている間に玄関とは逆の扉を開け、リビングに行き、机にノートと二本のシャーペンを置いた。ソファーに座りうーんと頭を抱えた。事務所のかたずけが終わったマッシュが長い前髪をピンでとめ、切れ長の目が見えるようにした状態でリビングに戻ってきた。

「紅茶いる?」

「いる。」

「りょうかーい。」

マッシュは鼻歌を歌いながらキッチンでてきぱきと紅茶を作り、机に持ってきた。青いマグカップを俺の前に置き、黒のマグカップを自分の前に置いた。

「もうマスク外したら?僕も前髪あげてるんだし。」

「・・・まあそうだな。もう会うのマッシュだけだし。」

マスクを外し、ゴミ箱に捨てる。

「やっぱ夏はマスクあついな~」

「前髪は年中邪魔だよ~」

はははと笑いあって息を抜くことができた。昔から息を抜くのが苦手だったためマッシュが適度に息抜きのタイミングを与えてくれる。

「マスク、ちゃんと休憩して。息を抜かないと判断能力が落ちちゃうよ。」

「あぁ、分かってる。ありがと。」

紅茶を飲み、一息ついて作戦会議を始めた。

 机の上に作戦を立てるためのノートとシャーペン、付箋の貼られた星宮町の地図、今月のイベント情報をまとめたファイルなどを広げ二人でいろいろな作戦を考えていた。

「うーん・・・なかなかいいのが思いつかないな~」

「うーん・・・」

マッシュが頬杖をつきながらテレビのチャンネルを変えている。ピッピッとチャンネルを変えていたマッシュの手が止まった。テレビには全国女装コンテストの様子が生中継で映し出されている。

「ねぇ、マスク。」

「ん?なんか思いついた?」

「マスクが絶対必要なすっっっっごくいい作戦思いついた。」

「そんなにか!聞かせてくれ!」

「いいよ!よーく聞いてね!」

「おう!」


 あの日からちょうど三日後・・・

「マスク~友梨さんに借りてきたよ~」

「おう・・・」

「心配しないで!きっと似合うから!あ、あとこれもつけてね!わからなかったら呼んで~」

マッシュはそう言ってリビングから出て行った。しぶしぶマッシュに渡されたものを身に着ける。

「はあ・・・なんで俺が・・・」

そう言いながら女物の服を着る。ちゃんと前日に足の毛をそったりもした。ウィッグを付け、スカートの裾を直し鏡の前で一回転する。

「背が小さいのがこんなところで役に立つとは・・・」

まじまじと自分の女装姿を見る。たまに街中で見かける買い物中の女の子感が強いな・・・と思いながらマッシュを呼ぶ。

 マッシュは部屋に入ってきて一言。

「かっっっわいい!!!!」

「はいはい。」

「やっぱりね!マスクは童顔だし背も低めだから女装いけると思ったんだよ!あとはメイクして、アクセサリーつけて!」

とても楽しそうにメイク道具とアクセサリー入れを持っているマッシュにあれよあれよという間にメイクアップされ、かわいらしい女の子にさせられた。

「完璧!」

「す、すげぇ・・・」

ふんわり黒髪にナチュラルメイク、明るめの服、友梨さんと同じ位置にほくろを書き、友梨さん愛用のバッグを貸してもらった。もちろんマスクもしている。

「す、すごい・・・ほんとにわたしみたい・・・」

「後姿と横顔は完全に友梨だ・・・」

「でしょ!本人と彼氏さんが言ってるんだから大丈夫だな!」

「そうだな・・・じゃあ、今日の作戦をもう一度おさらいするぞ。」

彼氏さんは元気に「はい!」と答え、マッシュは友梨さんに新しい紅茶を入れた。

「友梨さんは今日、水族館に行く予定になってる。だからテンスタでそうやっていうように頼みました。でも、実際に行くのは友梨さんに成りすました俺です。一人で行くといっているので犯人は今日、何かしらしてくると思います。そこを狙って捕まえます。」

「俺は何をすればいいですか?」

「あなたは友梨さんのそばにいてください。」

「わかりました。」

そう返事して彼氏さんは友梨さんの隣に座る。

「マッシュ、準備できた?」

「できたよー」

リビングの方から出てきたマッシュが返事をする。

「了解。車回してくれ。」

「はーい。」

マッシュが事務所を出ていく後ろをついていく。事務所の鍵を閉め、下の駐車場に止めてある黒い車に乗り込んだ。

「多分もうつけてきてるよな。」

「うん、さっき窓から見たとき電柱に人影を見た。」

「わかった。このまま、水族館に向かってくれ。」

「はーい」

マッシュは水族館まで車を走らせた。


 「着いたよ」

「ん。ありがと」

車を降り、水族館に入った。入場しパンフレットをもらい、周りだした。

「何見ようかな・・・」

パンフレットには熱帯魚コーナーや水生生物コーナーなどがあった。

「あっラッコいるじゃん。」

行動などを友梨さんに合わせるために好きな動物などは聞いていた。友梨さんの一番好きな動物はラッコだ。ラッコがいるなら一番に見に行かねばばれてしまう。マスクはラッコのいるコーナーに歩いて行った。自分の歩く後ろを誰かがついてきているのがはっきりとわかった。

(尾行が下手なのか、人の多さで苦労しているのか、わざとなのか・・・とりあえず、ある程度回ったら人の少ない場所にいって捕まえよう。)

そうして、ラッコを見たりサンゴ礁に隠れるクマノミを見たりした。友梨さんに借りたスマホで写真を撮り、随時テンスタに投稿した。テンスタに投稿すると一分以内に寒田のアカウントからいいねが飛んできた。

(投稿して一分以内にいいね・・・ガチのストーカーだわこれは・・・)

寒気を感じつつ水族館を周り、最後におみあげを見ることにした。

(結局水族館内で人の少ない場所は見つけられなかあったな・・・どうするか・・・)

ラッコのぬいぐるみやマッシュへのお菓子を買い、自分のご褒美にペンギンのストラップを買った。

(このままマッシュを呼んで車で帰るより歩いて電車で帰ったほうが寒田も手を出しやすいか。こんな格好する羽目になったんだ。今日絶対捕まえてやる。)

お土産コーナーを出て外が薄暗くなるまで水族館をもう一周した。

 日が暮れ、水族館を出ると寒田が下手な尾行で飽きずにしっかりついてきている。適当な路地裏に入り、寒田と二人きりになった。

「ねぇ友梨」

寒田は二人になったとわかると話しかけてきた。

「だ、誰・・・」

紙で顔を隠しつつ頑張って友梨さんに近い声を出した。

「誰だなんてひどいなぁ・・・ひろとだよ。寒田ひろと。忘れちゃった?君の彼氏の同僚だよ。」

「あったことないですよね・・・」

「ないけど・・・君のことは何でも知ってるよ?誕生日もお気に入りのお店も職場も趣味も何もかも、全部知ってるよ?きっとあいつより知ってるよ?」

「えっ・・・」

「大好きなんだ。愛してるよ。初めて話を聞いたときに一目惚れしたよ。きっと幸せにする。だからあんな奴といるより俺と一緒にいよう?ね?」

そういうと寒田はポケットから何かを取り出した。暗くてよく見えないが目を凝らすとかろうじてスタンガンらしく見える。

「やべっ」

「その声・・・お前友梨じゃないだろ!!!!!!くそがああああ!!!」

走ってきた寒田はスタンガンをバチバチ言わせている。もうだめだそう思った瞬間、寒田は横から何かに体当たりされ壁に激突した。

「ぐはっ」

「大丈夫?マスク。」

「マッシュ!?」

「帰りは呼んでって言ったよね?スカートだから戦いにくいんだから。あとは任せて、近くの駐車場に車あるから先行ってて。」

マッシュは手短にそう告げ、車のキーをマスクに渡した。

「・・・わかった、今回は頼んだ!」

そう言って走りずらいスカートで懸命に走りマッシュの車にたどり着いた。

 車で待つこと五分。気絶した寒田を肩に担いでマッシュが戻ってきた。寒田を車にあったロープで縛り、事務所に戻った。


 事務所に戻り、友梨さんと彼氏さんの前に寒田を座らせた。寒田は友梨さんを見るなり唾をまき散らしながら愛してるだの結婚してくれだの叫んだが友梨さんは動じず「あなたのような気持ち悪い人は無理だし、もう彼と結婚するのでやめてください。」と一括し寒田はまな板の上の魚のようになった。友梨さんたちはお礼を言って帰った。寒田は何かをぶつぶつ言って怖かったので免許証の住所に送った。

 すべてが終わり、マッシュとリビングで紅茶を飲んだ。

「マスク。もしまた、今日みたいなことしたら次は怒るからね。」

「わかったよ。ごめんな。」

「うん。」

「あっこれ。」

「何?」

「水族館のお土産。」

「わぁ~!ありがとう!なになに・・・水生生物クッキー?」

「うん。やけにリアルなクッキーがあると思って、買ってみた。」

「うわぁほんとにリアル・・・でもありがと!」

「うん。」

マスクとマッシュは紅茶を飲みながらクッキーを食べた。


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