【表紙:こげ茶と白のまだら模様】
森のさんぽは、ぼくの日課。いつもちがう道を歩く。そして今日は、十才くらいの女の子に出会った。ぼくらの背丈の二倍か三倍ほどの高さしかない、若い真木の前だった。その真木は、太い枝が一本折れていた。女の子は幹にそっと抱き付いていた。
「どうしたの」
ぼくがたずねると、女の子は答えた。
「元気になってねって、声をかけているの。この木はわたしなのよ。わたしが生まれた日に苗木を植えたの。私はマキで、この子も真木」
ぼくは木の精霊を探した。見つけておどろいた。木の精霊は、マキとそっくりな姿をしていた。こんなふうに精霊が人の姿をするのは、相当その人物に思い入れがあるからだ。きっとマキは、今までもいつもこうやって、この真木に寄りそってきたのだろう。
精霊は木の幹のかげからそろりと出てきて、マキの頭をなでたけれど、マキはそれに気づいた様子を見せなかった。マキはぼくに言った。
「あなた、精霊は見える?」
「見えるよ」
「それなら、わかるかしら。この子は元気? 大丈夫?」
「さっきまでは疲れていたみたいだけれど、今は笑って君の頭をなでているよ。きっと君のおかげで元気になったんだ。ありがとうって、言っているんだと思う」
すると、マキはうれしそうに笑った。
「よかった」
彼女の笑顔は、とても無邪気であたたかかった。精霊が見えている人たちの中でも、ここまで精霊のことを思っている人はどれくらいいるのだろう。すでに、見える人の人数は二けた。ほぼ全員が見えていた時代があったなんてうそみたいだ。