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98.魔法陣


 クリスタルの下に現れた魔法陣の文字をルッカが読み解いている間、俺はあえて剣をしまわずに白装束の囮となりルッカから離れて逃げ回る。


 クリスタルの割れる音がかなり激しかったから外に響いていないといいのだが……それはあまり期待しない方がいいだろうな。

 時計を持っていないから礼拝の時間がいつ終わるのか分からないが、事前情報では兄妹のパフォーマンスと讃美歌らしき歌を皆で歌って終わりらしいからそんなに猶予はないはずなんだ。

 ここの事も……おそらくすぐにばれるだろう。


 うおっと! 広い室内には、カキンッ……キンッっと剣の交わる音も響く。

 防戦一方の戦いは初めてだ……面倒くさいな。白装束こいつらは大して強くないから避けるのは簡単なんだが、無言で延々と仕掛けてくる攻撃がウザったい。ぶっ飛ばしてさっさと終わりにしたいぜ。


 攻撃を避けながらも横目チラチラとルッカを確認する……まだみたいだな。


 白装束の奴らがヴェンゲロフと同じなら『死霊使い』のスキル持ちの俺が支配出来るはずなのだが、なぜだかうまくいかない。奴らの行動を抑える事は出来るが、完全に止める事は出来ない。

 なんでだ? 俺のレベルが低いからなのか? だけどスキル説明には『レベルに依存する』なんて書いてなかったはずなんだが……


 『お待たせ! レオ、この魔法陣に剣を突き立てて壊してちょうだい』


 おう! お疲れ。

 剣を突き立てて壊すだけでいいのか?

 

 『この魔法陣は、いわゆる転送陣なの。この部屋に溢れている力を転送しているんじゃないかしら。転送先がかなり遠くの大陸っていうのに違和感があるけど……』


 さっすが年の功。

 ルッカって頭が悪いんだか良いんだか分からないよな。もしかして天然なのか?


 『えっ? なに? もしかして今、悪口いったの? このタイミングで?』


 ちっ違うぞ! 決して悪口じゃない!

 ルッカの意外性にはいつも驚かされるなっていう、ど、どっちかっていうと……ほ、褒め言葉だよ。


 『紛らわしくて分からないわよ。とにかくっこれは良いものじゃないからさっさと壊して』


 ……分かった。その魔法陣を壊して意味が無いものにすればいいんだろ。

 まかしとけ! 俺の一撃でぶっ壊してやるからよ! 


 急いでルッカのいる方へダッシュしつつ、手前で思い切り踏み込むと高くジャンプをしながら剣を大きく振りかぶって……綺麗な大理石の床に直接彫り込まれている円を両断する様に床に剣を叩きつけて削る。


 『あっだめっ!! すぐに離れて!!!』


 床ごとヒビの入った魔法陣は……破壊されたとなるや、文字盤が赤色に鈍く光り出し、そのまま赤黒いもやが立ちのぼってきたのだ。

 そして螺旋を描くようにグネグネと伸び縮みしながら動き、迷いなく女神像の方へ向かう。


 『なにこれ……信じられない。破壊したのに発動する魔法陣なんて……むしろ制御できないってことじゃない』


 ……ルッカも動揺しているし、これは明らかにマズそうな感じがする。

  

 だが……神様しょうじょの像に触れるなんて俺が許さねえっ!!


 女神像の前にダッシュするも、ルッカには即座に止められた。

 

 『だめよ! その文字に触れたら 絶 対 にだめ! 早くその像から離れなさい!』


 女神の前に立ちふさがる俺など関係なく襲い掛かる赤黒い光を寸での所で避けると、それとは関係なく俺を追って来た白装束がその螺旋らせん状のもやに絡み取られ……まるでロープで絞めあげられるようになり、そのまま壊れた魔法陣の中へと吸い込まれていった。

 

 あ……あぶなかった。


 白装束を3体取り込み、いったん動きの止まったもやが、また女神像に向かいグネグネと伸び始めた。


 ……この魔法陣、女神像を引きずり込もうとしてるんだよな。

 だけど、それはどうしても避けたいと俺の本能が言っている。

 それに……たとえ女神像を犠牲にしたとしても、暴走したこの魔法陣の勢いが止まるとも思えない。


 と、服の中がごそごそと動き、首にくすぐったさを感じた。


 いつの間にか俺のローブの中にいたアイゴンが、首元から這い出して俺の首にスリスリと優しく体を擦り付けて『グロァァ』と甘えた様な声を出すと、直後、迷いなくアイゴンが魔法陣の中に飛び込んでいった。


 『グアアアアアアアッ』


 アイゴンっ!!!


 「ダメだ!!! アイゴン!!! 行くなああああああ!!!!!!」


 魔法陣の鈍く光る赤黒い靄の中に飲み込まれていく。

 アイゴンが飛び込んだことで女神像へと伸ばす動きを止めて……元の円陣に収束していきもぞもぞとうごめいていている。


 魔法陣の中のアイゴンの姿は見えない。


 ……馬鹿。なんで勝手に飛び出すんだよ……


 アイゴンを助けるために魔法陣に近づくのを止めるルッカの声が騒音にしか聞こえない。


 魔法陣は靄がひどく立ち込め、近くで見ても中の様子がまるで分からない。小さなアイゴンの姿が見えるはずもない。

 落ちているクリスタルの破片が黒い灰のように変化しているから、ルッカに言われた通り、このもやに直接触れるのはまずい。

 だが、何もせずじっと見ていられるはずもなく、袋から凍ったままの泉の水を取り出し円陣に投げ入れた。


 力が弱まったかの様に見える。


 効果があるのか!? さらに投げ入れ続ける。


 もやが収まってきた。


 『グエエ……』


 アイゴンの鳴き声だ!

 

 「アイゴン?! 生きてるのか? 早く戻ってこいよ!!!」


 大量に持ってきた泉の水も残り少ない。

 だが、確実に魔法陣の力は弱まっている。


 アイゴン、アイゴン、アイゴン……


 魔法陣は最後、パアっと白く輝き、一瞬で光が消えた。

 床には燃え尽きた様な文字の羅列が、少し確認できる程度に残っているだけだった。


 アイゴンはといえば、体中に赤黒いべとべとした物がまとわりついたまま魔法陣の端に転がっていた。

 すべての目を閉じたままピクリとも動かない。


 体長が気持ち大きくなっっている気がする。5cmくらいだろうか。

 一匹だけだ……だけど、もしかしたらあの魔法陣の中で何回も分裂を繰り返してしていたのだろうか…… 

 

 不安な気持ちをぐっと抑えつつ、ステータスを確認する。


 ---------------------

 アイゴンパープル(1)

 職業:レオン・テルジアの眷属


 『ステータス』

 Lv1

 HP  7/ 18

 MP 10/157


 『スキル』

 ・呪い無効 Lv10(MAX)

 ・毒無効  Lv 5

 『ユニークスキル』

 ・浄化

 ・呪い吸収

 ---------------------

 

 ……名前が変わっている。

 レベルもだ。ついこないだLv7に上がったばかりだと思ったんだけど、1になってる。

 それに『呪い無効』をカンスト……あんなに上がりにくいスキルレベルをカンストするって、あの魔法陣、どんだけだよ。


 つーか、アイゴンはそれに耐えたんだよな。死んでないもんな。

 つまり、これって……もしかしてアイゴンのやつ……『進化』したのか?


 『アイゴンは……『浄化』のスキルを持っているから魔法陣あそこに飛び込んだのね……それにしても命知らずよ、急に飛び込むなんて……本能的な行動なのかもしれないけど』 


 ……ごめんな、アイゴン。俺たちを助けようとしてくれたんだろ。

 でも、もう無茶はしないでくれよ。

  

 回復魔法をかけてステータスを回復させてやっても、まだアイゴンは動かない。


 『疲れて眠っちゃたのかしら』

 

 「アイゴン……? 大丈夫だよな? 待ってろよ。まだ少し泉の水、残ってるから」


 『レオ、今のアイゴンには直接さわらないようにして、危ないから』


 袋から木桶を出すと横に倒し、風を起こしてアイゴンを木桶の中に転がす様に入れる。前に何度もやっていたから簡単だ。


 アイゴンに触れた木桶の一部が一瞬で腐った。


 なんなんだよあの魔法陣……やべっこのままだと底に穴が開くぞ。


 急いで泉の水を溶かし入れてその中にアイゴンを入れると、ぐったりしているようだがぶくぶくとした反応があり、体に纏わりついていたべとべとしていた物が取れると、暗めの紫色の体のアイゴンが目をぱちぱちと瞬きしてみせた。


 薄緑色から灰色。そして……紫色か。良く分からないが、体の色に合わせたネーミングなんだな。きっと。


 とにかく、大丈夫そうで少し安心した。


 『アイゴンのバカっ! 心臓が止まるほど驚いたんだからっ! 心臓すらないけどっ……そのくらい驚いたし心配したのよ!!!!』








****************************************



 ナリューシュ国から遠く離れた大陸。そのとある国。


 数年前、欲にまみれた人間を騙して行われた計画が見事成功し、その国の王族貴族、そして逃げ遅れた国民達は、冷酷にも全て殺されたと謂われている。


 その国の王皇一族は500年前この地上を脅かした魔王を倒した歴史に名高い勇者の末裔とも謂われ、その一族は特に剣の才に明るく、小国であり他国との外交もともすれば消極的でありながらも、多くの修行者や観光客に賑わう明るく豊かな国であったという。


 シンプルな造りでありながらも無駄のない美しい景観を誇る城や城下町には、未だ血の臭いの跡も臭いも生々しく残っている。


 その城内には現在人間は一人として住んでいない。そもそもこの国にはもう人間は死体しかいないだろう。


 かといって、そこは廃墟となった訳ではなく、別の種族-魔族-により占拠されていた。

 

 現在、殺害された元国王の玉座であった場所に座る者が一人。


 魔族達を束ねる者として、長い眠りから覚めた魔王と謂われる存在である。


 考え込むように顎に手を当てたまま微動だにしないさまは周囲に控える配下達にとっても薄ら寒い恐怖を与えていた。


 魔王の機嫌を取る為に、気晴らしに殺す為の生身の人間を狩るのも、この大陸では難しくなってきている。

 そうなれば同族である魔族じぶんたちが殺される日が来るのもそう短くない、と感じているのだ。


 暫く、微動だにしないままの魔王が小さく微かにその口角を幾分か上げ、ポツリと呟いた。



 『ほう、ナリューシュの陣が破壊されたか』



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