95.降霊祭
降霊祭当日。
とうとうこの日が来た。
城下町の活気はまだ戻ったとは言えないが、治安自体はだいぶ良くなった様に思える。
ディアーナとほぼ毎日のように夜回りしたからな。ガラの悪い奴らはだいたい片付けたし、騎士団の見回りも行われたお陰で、町人も安全と感じ取ったのか外に出歩く様になり笑顔も増えた。
それに清掃活動。
これも俺とディアーナで夜な夜なやった。道端に生えた雑草を抜き取ったり、水魔法を使ってゴミで汚された道を綺麗にしていった。その成果か、町中の皆もめいめいが自分たちの街を綺麗にしようと活動を始めたみたいなんだ。お陰でこっちは最初の数週間やっただけだったけど、だいぶ街並みが以前のように戻りつつある。後は人が戻ってきてくれればなー。
俺達はそんなに表に立って目立つ行動は避けたかったからこっそり活動するだけだったけど、自分が住んでいる街だもんな。町人のやる気がもどったきっかけにでもなってくれただけでやったかいがあるってもんだ。
そんなわけで、俺は最近、良い事しかしていない気がする。ポイントもかなり溜まったんだ。
デカかったのは、死霊使いを取ってルッカをオーブから出すのに成功したら80万P、国王の霊体を本体に戻したら200万P。この2つはかなりの善行だったらしい。
ルッカが肉眼で見られる様になったのは俺にとっても嬉しい事だし、別にいい事しようとしてやった訳じゃなかったんだが、棚ぼたってやつだな。外に出られた事でルッカは確かに楽しそうに見えるが、かといって俺に感謝しているように見えないし。
ちなみに王妃の回復でも50万Pゲット。
王妃様にはあのあと2度会ったが、だいぶ回復してきている。パッと見は目力がありすぎてもうすっかり元気に見えるが、人払いして会うと結構涙もろい人だったりする。ハンナみたいな人だ。ま、自分の息子が何人も死んでるんじゃどうしようもないよな。
後は、夜回りと清掃活動、アイゴンの入浴でポイントを獲得していった。
気がかりなのは、この城で王様以外の霊体を確認出来なかったことだ。
ルッカにも見回って貰ったけど、暗殺された皇子や処刑された貴族の霊体はどこにもいなかった。みんな成仏出来たんだろうか。
まあ、国王も妙に張り切ってるし、会う機会があったら回復魔法をかけてるから大丈夫だと思いたい。
さてと、近況はこんなとこでいいか。
それよりも今は神殿だ。
中止にするはずの降霊祭をひらくのに、神殿サイドはかなりごねたらしい。だからといって後見人となる権力者がいなくなっては国王様に交渉できる奴はいないらしくごり押しでいったらしい。
普通はさ、法王みたいな神殿の長みたいなやつがいるんじゃないかって想像するじゃん。だけどこれまでその役割を担っていたのはヴェンゲロフだったからネゴれるような奴はいないんだと。なんだ楽勝じゃんか。
だけど、油断していいことないじゃん。
俺が王都にいる事はもうばればれなんだけど、目的は兄妹を奪還することだから身を隠して行くに越したことはない。
つーことで、現在、俺とディアーナはまたもや透明人間となり神殿の前でずっと待機中だ。
祭だからさ、朝から人通りが多い。馬車も行き交えば城下町からおめかししてやってきた町人もいる。神殿へは人がどんどん流れていくから俺達も移動しやすくて本当に助かるぜ。
さてと、そろそろ行くか。
人の流れに沿ってぶつからない様に、神殿の中へ入る。
すげえ。
神殿の中は、大理石の様な白くて綺麗な石の床でひんやりとした感じだ。
高い天井には、女神が光を注ぐようなステンドグラスの絵が貼られてあり、そこから差し込む光しかないから薄暗いのだが、それもまた神秘的で外とはまるで別の空間のようだ。
広いホールを抜け、礼拝に参加する多くの人について廊下を通ると、祭壇のあるこれまた広い空間に来た。
国王からもらった地図と俺のマップスキルを照らし合わせると、やばそうな場所はもっと奥にあるはずなんだが……今日は兄妹もここに現れるはずだから、ここで待ってればいいんだろうか。
神殿の使いの服装をしている奴も、鑑定ではただの人間なんだよな。
つーか、白装束を着てるだけで中身は騎士団のやつらだし。
人手不足で最近は、王国側がどんどん神殿に介入してるって話は父上からも話は聞いてるから、祭りの間の監視と護衛を兼ねてやっている奴らだろう。
……本物の神殿関係者が一人もいない。
『ねぇ、まだ時間もあるし……ちょっと探検しましょうよ!』
でたな。ルッカのその発言……止めといた方がいいって、今日は。ディアーナもいるんだぞ。ふざけた事すると怒られるだろ、主に、俺が。
『でも、レオも気にしてる通り、神殿の奴ら一人もいないじゃない。何か企んでるのかも。……これは、神殿の悪の部分を暴くチャンスよ!』
そう言われると気になるんだよなあ。
ディアーナに小声で相談する。
「そう、それならここは私に任せなさい。この姿だと私からはレオの姿が見えないから一緒に動き回るのは難しいもの。私はここで様子を見てる。何かあったら、ここにいる人達を守るわ。レオも何かあったら私を呼びなさい。地図は頭に入っているからすぐに迎えると思うわ」
反対されるかと思ったのに……意外と柔軟に対応してくれるディアーナにちょっと惚れそう。
ディアーナには何かあったら虫を使って連絡する約束をして俺達は祭壇のある広間を後にした。
『ディアーナと別れるとちょっと不安になるわね……強い魔族が出て来たらどうしよう』
え? 俺じゃ不安かよ。まあそうだよな、でもルッカも強いから大丈夫。俺のMPはルッカに託した。やばくなったら一面を燃やし尽くしてくれ。
『無理よ、最近ちょっとレオの私への過大評価がプレッシャーなんだけど、やめてくれない?』
まあまあ……で、こっちの方向で合ってるんだよな?……静かだな。人がいな過ぎで気味悪いな。
『ねえ。あの部屋……ちょっと見てきてもいい? 多分あなたの兄妹がいるわよ?』