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94.誕生日


 領地を後にした俺達はまた虫に乗って王都へのとんぼ返りを果たした。

 帰りの移動も楽ではなかったし、到着後はその場で吐いたがその程度だ。

 飛んでいる時はきゃあきゃあとさんざん怖がって大騒ぎしたルッカは、幽霊だから当然かもしれないが到着後はケロっとしてるしな。

 

 むしろ行って良かった。あのまま領地の事が気がかりのまま神殿の調査を進めるなんて出来るかよ。

 メイには会えたし、魔法薬も渡して来た。アイゴンは2匹もいるし領地はひとまず大丈夫だろうと思いたい。

 ヨハンの嫌がらせは気になるが、あいつの目的が俺にあるなら、王都こっちにも何かしら仕掛けて来そうな気もするしな。ていうか俺があいつに何したってんだ。マジで面倒くさい。

 ま、気にしても仕方がないっつーか今後俺の前に現れなきゃそれでいいか。


 ひとまずはメイ達への不安も拭い去ったし、今は兄妹をサクッと回収して今度こそゆっくり領地へ帰ってやるぜ。


 ディアーナは案外母上やハンナと仲良くやっているみたいで、俺達が戻って来た時には優雅にティータイム中だった。

 なぜかディアーナがドレスを着ているのが見慣れないが、おそらく母上が無理やりやった事だろう。

 国王と王妃が無事だと分かったからか、あの薬草の効果が出たのか、母上が少し元気になってくれたと思えば悪くない。

 それに、いつも動きやすいズボンにタンクトップという男みたいな恰好してるから、ドレスを着たディアーナにはドキッとする。良い意味で珍しいものを見れた気分だ。

 うっかり見とれてしまったが、中身は全く変わっていないディアーナは帰宅した俺を見るやいなやすぐに領地での報告を促した。

 あまり穏便な話ではないので、この場では問題なかったとだけ説明し、詳しい話は俺の部屋でさせてもらう事にした。


 「……なるほどね。あの皇子は確か王都に向かって消えて行くのを見たけれど、その後見かけていないものね。何か企んではいるのでしょう。やはりあの時に始末しておくべきだったわね」


 「うん。俺がバカ皇子の事を甘く見過ぎたんだ……」


 その事については俺も後悔しかないから、悔しそうなディアーナに対しても申し訳ない。

  

 「ま、今後ヨハン皇子が目の前に現れたら有無を言わさず殺す事にしましょう。リリア奥様から少し聞いた話では、昔はとても将来性のある良い子だったみたいだけど、今はどうみてもおかしいし」


 「分かってるさ」


 「ところで、レオが出かけている間に、降霊祭については聞いておいたわ」


 降霊際は、王国の奉るテレーズという女神に対してその年の感謝を示す祭りらしい。

 ここ数年は、神殿にある礼拝堂に集まり、感謝を示し翌年の平和の祈りを捧げた後に、アンドレアイリスからテレーズ神に代わり加護を捧げるという儀式イベントが行われ、その後はどこの国や街でもあるようなお祭りが開かれてどんちゃん騒ぎで日ごろの鬱憤を晴らして楽しむといったものだ。


 本来ならもうすぐ行われるはずだが今年は異常事態だし、そもそも今は、王都には貴族も国民も逃げ出して閑散とした有様だからな。

 国王が意識を取り戻したところで他にやる事は山ほどあって忙しいだろうし、そもそも人のいない今お祭りを開いたところであまり意味はないんじゃないかと思う。

 

 ただ、うちの使用人達から得られた情報としては、国王が意識が無い間に、ヴェンゲロフが仕切って降霊際の準備は形だけは進めていたようなんだ。

 もしかしたらその時に合わせて何かを企んでいたのかもしれないが、ヴェンゲロフ亡き今どうするつもりなんだろうか。そっちの悪企みにしても俺達のお陰で予定が狂ってる可能性は高い。

 なんせ、国王が復活した今となっちゃ国の乗っ取りなんて出来ないもんな。


 だがあそこまでガードの固い神殿に侵入するんだったら、俺にとっては神殿サに何かしらの行事は行って貰いたい。むしろやって貰わないと困る。

 降霊際の間は日中神殿が解放されて多くの人が参列するらしいから、ロイ爺が言っていた様に侵入のタイミングで一番いい時ってそのくらいだもんな。

 もともと慣例行事でもあるんだから、王都が閑散とした今、他の街から人が集まってきてくれるといいんだけどな。

 

 父上はしばらく家に帰って来ないかもしれないしな。国王おじいちゃんに一度確認しにいくか。


 『そういえば、ヴェンゲロフまだ持ってるの?』


 あっ! 忘れてた。せっかく領地行ったんだから燃やして来れば良かったか。


 『ヴェンゲロフを使って神殿に入れないかしらね』


 マジで!? ルッカ、またヴェンゲロフやってくれんの?


 『……あ。間違えた。やっぱりおじいちゃんにお願いしに行きましょう。その方が早いわ。ヴェンゲロフは、そうよ。彼は旅に出たんだもの』


 なんだよ、いい案だと思ったのにさ。

 まあ……いいよ。


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 国王に会うのは今度は簡単に出来た。

 むしろかなり歓迎された。

 王妃の容体も大分良くなってきたらしくやたら感謝されてしまった。それは俺っていうか、あの薬草のお陰なんだけどな。


 そして、降霊際についての相談もうまくいった。

 どうやら今年の降霊祭は取りやめにする予定だったらしい。

 だが、逆に神殿を我が物顔の様に仕切っていたヴェンゲロフがいなくなり、更に貴族の勢力が弱体化している今は、国王が全て取り仕切る事にどこからも反対が起きないからうまくやってくれる約束をしてくれた。

 

 持つべきものは国王おじいちゃんだぜ。

 

 その代わり、少しだけ父上の補佐の手伝いをするようには言われたが、まあそれまで神殿に入り込めないんなら特にやる事もないし、子供の俺でも出来るような事をするだけだろ。楽勝だ。


 父上は忙しそうだったがそのせいで逆に生き生きとして元気そうだ。

 しばらく屋敷に帰るのもままならないらしいが、対抗勢力の激減で仕事も滅茶苦茶捗るらしい。

 テルジア派というか、残っていた貴族たちも貴族もやたら父上になびいてきているらしいが、信頼できる貴族たちは大急ぎで王都へ呼び戻している最中だとか。

 まったく政治ってのは胡散臭いな。父上用のアイゴンも必要だったか。


 ひとまず帰ろうとする俺に父上が駆け寄ってきて言った。


 「レオン、そなたの誕生日になにもしてやらなくてすまない。10歳になったというのに」


 おっ、俺10歳になったか。忙しくて忘れてたぜ。ま、そんなのどうでもいいや。


 降霊際が無事に行われる方が大事だからな。

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