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93.出張(日帰り)


 「俺も行く」


 『は?』


 「俺も虫に乗せてもらう。俺、軽くなれるし。様子見るだけだから往復5時間もあれば帰れるだろ。だから、ディアーナ、俺がこっちに帰ってこれる様に虫に血を吸わせてくれ」


 「……レオ、領地は大丈夫よ。あなたは兄妹の事を考えなさい」


 「嫌だ、確かにボン爺もロイ爺も強いのは分かってるさ。でもメイはこの間攫われそうになったんだぞ?」


 「メイは、一人で戻って来れたじゃない」


 「いや、それでも任せきりにして……後で後悔したくないんだ」


 どっしり構えて『アイツらの事は任せてるんだ、大丈夫だぜ』なんてワイルドな事言ってられるか。

 無事だろうが問題なかろうが、それでも駆けつけられるなら俺は行くんだ。


 「……いいわよ、その代わり様子を見たらさっさと帰ってらっしゃい」


 『えっ!? 良くないでしょ、ディアーナっちょっとあんたも止めなさいよ!ってああああもうっ聞こえないし!!』


 ディアーナは呆れた表情のままだったが、俺の意思は尊重してくれるらしい。

 そういう訳で、急遽俺達は領地へ里帰りする事になったのだ。

 俺が行くという事は、ルッカも一緒だ。俺の行動に反するものはルッカのみ。全く問題はない。

 

 現在、ルッカは虫への通訳を必死に行っている。

 虫サイドの意見としては、『ちょっと良く分からないけど……別にいいっすよ』と軽く許可がおりた。

 見た目の既視感から今まで気持ち悪がって悪かったと深く反省した。こいつとは仲良くやっていけそうだぜ。


 集中して自分の身体と荷物の重さを空気のように軽くなるイメージをして、虫の体に縛った糸を自分の体にも巻き付ける。


 よし、出発!


 『……それじゃあ、うまくいくかわからないけど、虫さんお願いね。ゆっくりね、ゆっくりでいいか……きゃああああああああああああああああああああああああ』


--------------------------------


 ジェットコースター並の速さで領地到着。


 まさかこんなにキツイとは思わなかった。

 領地到着と同時に何とか虫と結ばれている糸から切り離して着地。


 すぐに吐いた。


 グラグラしてまともに立っていられない。そんな時こそ回復魔法……うむ。高速でのぶら下がり移動は半端なく辛かったが……本当に早く着いたな。

 

 『レオ、私はもういや。帰りはゆっくり帰る』


 ルッカ、それはムリだぜ? まあほんの数時間耐えればいいだけじゃんか。大丈夫だよ!

 それよりメイを探さなきゃ! ボン爺もな!!


 「レオン……帰ってくるのは想定外でしたぞ」


 「ロイ爺! なあ、メイはどうしたんだよ? あの魔法薬が必要って何かされたのか? ヨハンなのか?!」


 「いえ……メイも、ボンも……至って元気ですよ……」


 「……え?」


 「……レオンからの連絡を受けて、2年後の予言の事を考えました。国王、王妃、旦那様、奥様が無事となれば、あとはご兄妹でしょう?……ならば少なからず我々にも予言の余波がくるのではないかと思いましてな。きちんと『問題はない、保険だ』と言ったでしょうに」


 「……」


 確かに、庭の木の枝をのんびり切っているボン爺が遠くに見える。

 こっちに来てもくれない。……絶対呆れてられてるに違いない。


 「あっ! にーに! おかえりなさいっ」


 なぜか屋根の上から俺の目の前に着地してにっこにこのメイ。泥だらけだ。


 「メイ、元気なのか?」


 「うんっ! いまはね、やねにのって森にいるまものを石をなげてたおしていたんだよ? メイ、とおくにいるまものもたおせるの!」


 両手を俺の腰ににギュッと周し、上目遣いで嬉しそうに話すメイ。

 あったかい。懐かしいな。


 『……はい。じゃあ帰りましょうか』


 えっもう? ちょっとみんなで飯でも食ってからでも良くない?


 『あんたには仕事が残ってるでしょ』


 「ちょっと待って、でもここに来ないといけないって使命感があったんだよ。メイ、ロイ爺、最近おかしなことってなかった?」


 「うんとね。へんなとりさんがずっといるんだ」


 「首から上がヨハン皇子の顔をした黒いカラスの様な鳥が、ここ数日裏の森に住みついてましてな」


 「ずっとこっちをみてるんだよー」


 「それは……異常事態じゃないか。俺も確認出来る?」


 「そうですな、せっかく来たのですから確認して行くのも良いでしょう」


 先ほどまでいた屋根の上にピョンピョンと軽く飛んで案内するメイに付いて、屋敷の壁伝いに付いて登る。


 「あれだよ、へんなとり。ずっと見てるの」


 本当だ。ヨハンの顔が付いた黒い鳥がこっちをみてニヤニヤしている。気味が悪い。

 ……何をしてるんだ?


 「不吉な物です。姿ははっきり見えるのですが、魔法攻撃も、物理攻撃もすり抜けただそこにいるだけなのです。向こうから攻撃をしてくることはありませんが、今のところ交代で常に見張りをしているのです。メイは夜は屋敷に寝かせていますのでご心配なく」


 「いや、あんなのどう考えてもおかしいだろ? 早く倒さないと」


 「それが出来ないから、現在対処法を考えているのです。あの場所から動く事もありませんし、実体もない、気味も悪いし予言の事もある。その為、魔法薬を頼んだのですよ」


 実体が無い……? 


 「なるほど、ちょっとルッカに見てきてもらうよ。ルッカ、もし倒せそうなら頼む」


 『かよわい私に何が出来るっていうのよ……ま、確かに気味が悪いし、ちょっとみてくるわ』


 文句をいいつつも行ってくれるルッカの優しさには感謝だぜ。


 ふわふわとルッカが正面から近づいても、鳥はなんの反応もしない。

 鳥の周りをくるくる周回して確認した後に、戻って来た。


 『あの鳥が止まっている木の麓に埋められている人形があるんだけど、多分そこからあの鳥の姿だけ映すようにしているみたいよ、で、たぶんその人形を掘り起こして燃やすなりすれば消えると思う』


 「また人形かよ!? 嫌がらせも過ぎるだろ! ロイ爺、あの木の麓に人形が埋められてるらしい。で、そいつを燃やせば何とかなるかもってさ」


 「なるほど、レオンが考えなしにここへ来た時は少し情けなくなったのですが、そういう事ならアイゴンもいて助かります。さっそく掘り返しに参りましょう」


 「情けないって……俺、一応心配して……」


 『はいはい、さっさと行きましょ。そして王都に戻らなきゃっ』


 何かあったらいけないので、付いてきたがったメイをロイ爺に任せると、サクッと塀を飛び越え、鳥のいる木の麓をルッカの指示のもと掘り返す。

 ……あった。またうさぎのぬいぐるみだ。どんだけうさぎ好きなんだよ。メイは絶対ぜってーに渡さないからな!


 またもや腹わたが出ている、グロい人形からはあの時の様に濃い紫色の蛆の様な物がにょろにょろとうごめいているのが見てとれる。

 俺の肩にスタンばっていたアイゴンの出番だ。


 『グロオオオオオ………』


 ……長いな。この間よりも咀嚼そしゃくの時間が長い。

 ん……アイゴン?


 パアンッッ!!!


 ……


 『また、増えたわよ』


 アイゴンが3匹に増えた。

 ステータスは変わらない。同レベルのアイゴンが3匹。

 ……ただ、増えた方には名前の表記に番号がふられている。

 『アイゴンダーク』『アイゴンダーク2』『アイゴンダーク3』てな具合だ。


 『ほらレオン、さっさと一つにまとめて。あれ結構時間かかったじゃない、早くしてよ』


 「いや、2匹は……ここに置いて行こう。オリジナルだけ一緒に連れていく」


 『でも、3匹ともあんたにしか懐いてないじゃない』

 

 俺の足元でピョンピョン飛び跳ねる3匹のアイゴン……


 ……いや、分かってくれるさ。領地ここを守ってもらおう。

 アイゴンは、やたら追いかけまわすメイ以外はそこまで怖がらないし。ここには泉もある。


 ここには守り神がいてくれた方がいいんだよ。その方が俺も安心できる。

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