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86.おじい2


 『ここなら大丈夫だ。この場所は私しか知らない。レオン、ローブを脱ぎ姿を見せてくれないか』


 暗闇の通路を通り、少しだけ広い真っ暗な空間に入ると国王が止まり、俺たちに振り返った。

 俺は暗視があるから薄暗いが周囲の様子が分かる。ルッカも国王も霊体だからか問題ないらしい。

 ルッカは居心地が悪そうにしているが、大蛇の腹の中やオーブの中よりはマシだろうから我慢してもらうしかない。


 国王から安全のお墨付きを頂いたので、ローブを脱ぐ。


 『……レオン、会いたかったぞ。ガルムもリリアもお前をかくまい過ぎだ。全く登城もさせんで……大きくなったな』


 立ち姿を見た記憶はほとんどないが、国王はおそらく大柄だった。それが……今の姿では俺より少し大きいくらいだ。

 国王は俺を抱きしめようと近づきスカッとすり抜けた。


 『……やはりだめか。忌々しい。すまないな、レオン。こんな姿で』


 俺をすり抜けてしまった自らの手の平をじっと見ながら落ち込んでいる。


 国王おじいちゃんとまともに話すのは初めてだと言っていい。

 だが、こんな状況だからだろうか、緊張もしないし、今は気軽に話せそうな気さえする。


 「国王様……一体なぜそのお姿に……?」


 『”お爺様” でよいぞ。今は余計な者は誰も居らぬ、いわば水入らずだ』


 「それではお爺様、一体、何が起きているのです?」


 『……そうだな、話は大分前に遡るが……』


 国王様の深い溜息から、この国の現状が語られていった。

 

 この数百年もの間、軋轢のあった公爵家、ドゥルム家とヴェンゲロフ家という構図が崩れ始めたのは、ドゥルム公の孫、ヨハンの頭がおかしくなってからだという。


 どうやら、幼少期のヨハン皇子は正妃様である俺の婆ちゃんの産んだ子ではないとは言え、その中でも抜きんでて優秀で性格も穏やかな周囲から一目も二目も置かれる皇子であったらしい。

 だが、ある年に何者かに暗殺されかけ、その時の後遺症なのか突然おかしくなってしまったのだという。


 ……それは昨日の夜に聞いた。兄貴リオネルにやられたんだろ。


 国王じいちゃんは控えめでありながらも優秀なヨハン皇子には目を掛けていたし、ドゥルムにいたっては将来一番の有望な孫として可愛がっていた経緯もあって、ヨハン皇子の錯乱状態ともいえるおかしな行動は一時的なもの、いつかまともに戻るのではないかという期待から、数年はずっと見守って来たらしい。

 だが、素行は悪くなるどころか時には残虐になる一方。

 もうヨハン皇子を見限るしかないと思っていた矢先に、リオネル皇子、マルク皇子が相次いで突然死んだ。


 実はこの事はすぐに公にはなされなかった。


 なぜなら……犯人が実の兄弟であるヨハン皇子の説が濃厚だったからだ。

 王族内での殺人とあれば外聞に漏らすわけにはいかないと、慎重に慎重に調査が行われたという。


 物質的な証拠は無いものの、言動があまりにもそれを示唆するものだった為に、国王おじいちゃんすら言葉には出さずともさすがに疑いを持ってしまったという。


 周囲の貴族たちはこれ以上自由にさせるのは危険すぎるという声が強くあがっていった。

 ヨハン皇子を廃嫡し、国外追放処分とするか、処刑するか……事故に見せかけて暗殺するかといった過激な案までもが出た程で、それぐらいここ数年のヨハン皇子の素行不良には王都中の多くの貴族が頭を悩ませていたらしい。


 ところがどっこい、ヨハン皇子はふらっと姿を消す事が多くなり、遂には王都付近での目撃情報すら滅多になくなっていったらしい。


 ……まじかよ。その間ずっと俺の領地に俺の屋敷に潜伏してましたとか……いうなよ。

 くそっここまで知ってたらあの時マジで殺しておくんだった。


 王国を揺るがすとんでもない問題児となったヨハン皇子の祖父であるドゥルム公の肩身はどんどん狭くなり、とうとうヴェンゲロフ公に擦り寄るしか道がなくなってしまった。

 

 そしてその頃に……父上の北の祠への遠征が決まった。


 二大公爵家の大きな声に逆らえる貴族はおらず、大多数の意見となり父上は死地へと向か羽目になったのだ。


 ……ヨハンは? あいつ、俺への呪いの手紙であたかも自分ヨハンの手柄とばかりに書いてあったが、あれは嘘なのか?……そうか、頭おかしいんだもんな。あいつ。


 父上の討伐の指示を表立って行ったのはドゥルム。

 国王のその後の調べによれば、討伐隊の半分はドゥルムかヴェンゲロフの息のかかった裏切り者だった。

 父上が祠に到着した途端に背後から襲われたってのは……仲間だと思っていた裏切り者の騎士団にやられたからなんだ。

 その辺は、父上も薄々気付いていて俺を領地に帰した後に行った国王への進言から調査を行ったらしい。

 

 事態が急に動き出したのはそこからだ。


 悪事がばれそうになり焦ったドゥルムとヴェンゲロフは国王の暗殺を謀ろうと企んだ。


 まずは王位継承権第一位のクラスト皇子の暗殺。

 真昼間の庭園で奥方と姫君とお茶を飲んでいる時に突然椅子から転げ落ちて死んだ。

 ……毒殺だろうが、あっけなさすぎる。

 犯人はその場にいた女中という事になり、そう日も置かず即座に処刑されたらしい。


 国王、王妃が気を落とし悲しんでいる隙をついて、すぐさま国王が狙われた。


 ある夜中、国王の枕元に神殿の使いの者が数人、国王の眠る寝台を囲むように立っていたらしい。

 そして、何やら呪文を唱え徐々に魂が身体の外へ引っ張られる強い感覚が起きたという。


 この国の王様は代々伝わるその身に結界を張るオーブなる物を肌身離さず持っているらしい。

 ただ、その夜は就寝中であったいうこともあり、少しだけ身体から離れた所にずれてしまっていた。


 国王おじいちゃんは魂の漏れ出る感覚に抗いながら必死でオーブを手探りで探し当てると力を込めた。

 そこで一端記憶が途切れる。


 気が付くと、国王は霊体となって身体から切り離されてしまっていた。

 本体を探しにいけばまだかろうじて身体は生きているものの廃人そのもの。


 それから、国王は昼も夜もなく、城中を動き回っては城内の様子を見聞きしていれば、第二、第三皇子の姿が次々と消え、それに便乗してドゥルムとヴェンゲロフは第五、第七皇子の暗殺のニュースを発表。


 国王が動けないのを良い事に、2人の好き勝手な行動が始まってからの事は……この間父上からも聞いたのと大体同じだ。


 国王おじいちゃんは、まだほんの少しでも信頼の出来そうな者の前では存在を気付かせようと必死に行動していたらしい。

 

 ……それが女中や使用人達とは。

 国王様おじいちゃん……完全に貴族不審になってるな。

 女中達も最低でも末端貴族だったりはするんだろうけど、ま、権力とはほど遠いもんなぁ……

 

 『暗くなるとうっすらとだが私が見えるものもいるようでな。それにたまに物を動かす事が出来るのだ。

だから夜は特に使用人達の所へ行くようにしていた』


 『おじいちゃんったら、それは怖がらせてただけみたいよ?』


 『なんだと? そうか、それは失敗したな』


 『そうよー。今じゃこのお城お化け屋敷になっちゃったわよ』


 『そりゃいかんな。私がその犯人とは』


 『うふふっでもね、昨日はレオが間違えて大声出しちゃったんだけど、お化け騒動のお陰でごまかせちゃった』


 『ハハハ、それなら少しは私も役に立ったかな』


 国王様おじいちゃん凄いな。

 ルッカのかなり無礼な軽口に俺の方がひやひやするんだけど。

 

 そんな俺の心配などは必要なさそうだ。

 2人も霊体だからかお互いにあまり遠慮なく喋っている。


 それにしても、ルッカは幽霊なのに身体の形も色もあってつい生身なんじゃないかってのに対して、国王おじいちゃんはどうにも半透明だし足もくるぶしまでしか見えないからこれこそが幽霊の見本みたいなんだよな……

 ……でも何か、違和感……


 「お爺様、先ほどより姿が薄くなられているのでは……?」


 『あっ! ……大変。おじいちゃん、あなたまだ完全に死んでないのにむやみに動き回るから、魂を消耗してる! このままじゃ本当に死んじゃう!!』


 『それは困るな。しかし……』


 「お爺様、このオーブの中に入って下さい」


 俺はルッカのお下がりのオーブを袋から取り出して言った。


 『見事なオーブだな。しかしそんな小さなオーブの中に入れるだろうか?』


 「このオーブには、ルッカ……このエルフが入っていましたので、可能なはずです。今は消耗を減らす事が大事でしょう。私がお爺様を安全に運びますから」


 『わかった。やってみよう』


 『狭いオーブ内での快適な過ごし方は私が教えてあげるわよ。……道案内のおじいちゃんがオーブに入っちゃうのはちょっと困るけど、まっその辺はこのルッカ様が力を貸してあげるわよ、レオンの魔力使ってね』


 だいぶ前に、俺の魔力を使う事を遠慮していたはずのルッカの発言は……既になかった事になってるな。


 それにしても、オーブの中で消耗をどの位しのげるだろうか。

 時間が無いのは事実だ。

 ……くそっどうすりゃいいんだ!

 

 『レオン、焦りは禁物だ。……まずはお前のお婆様、王妃デリアを救い出してくれんかね』 

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