85.おじい
昨夜の幽霊騒動が落ち着くのを待ち、下っ端料理人のゴミ捨てに合わせて外に出ると、俺たちは過ぎた悪ふざけに反省しながら一度屋敷に帰った。
両親とディアーナに事情を話し、しばらく王城に潜入する事にした上で、元騎士団長の父上からは城内への進入スポットや貴族の溜まり場を、元皇女の母上からは王族の居住区域を教えてもらい、本日は仕切り直して城内に再度進入している。
父上から教わった騎士団や使用人達の通用口は、王城の外れに目立たない様な造りとなっており、そこは確かに人通りが多く、俺たちも楽にすり抜けて進入に成功。
隠し通路のある小屋からはかなり離れているから懸念点はあるが今はよし。
両親ともに隠し通路の在り処までは知らなかったが、ディアーナによれば王族の部屋にはおそらく隠し通路があるはずだと言っていたから、今日は一気に王族の生活エリアに近づいてやるつもりだ。
おい、ルッカ今日は絶対に真面目にやるぞ。
『えっと……私はいつでも真面目ですけど? ふざけてるのはレオの方なんじゃない?』
いや、絶対ルッカがふざけるからいけないんだろ?
ガチ真面目なディアーナがいればもう少し締まるのにさあ、今回の作戦は重要な初動が全て俺たちにかかってるんだからな?
『うわ、男のくせにか弱いエルフの女の子を周りのせいにするとか……やっぱり人間って最低ね。ていうかレオが最低よね』
だからそういうのだって!
乗る俺も俺だけどさぁ。
『さっさ、なにごとも楽しみながらいきましょう』
両親が描いてくれた場内の構造図は頭に叩き込んできた。先頭をきって飛び回るルッカに付いて、誰にもぶつからない様に慎重に歩いていく。
鑑定には何もひっかからないな。
ん? ルッカが……鑑定出来る……だ、と?
ぐんぐん前に進むルッカを見逃さない様に見た途端、ルッカが鑑定に引っかかったのだ。
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ルッカ・ポラッカ(享年278+312)
職業:妖精使い、レオンの友達
好きな物:自由
嫌いな物:閉鎖空間、蛇、人間
『ステータス』
Lv:255
HP: 0/5057
MP: 0/8094
『スキル』
『火魔法』: Lv7
『水魔法』: Lv9
『風魔法』: Lv9
『土魔法』: Lv8
『俊足』 : Lv4
『ユニークスキル』
精霊使い
『エクストラスキル』
死の超越
千里眼
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やばい……ルッカ……かなりサバ読んでやがった。
200歳っていってたのに、実際は300歳に近いじゃないか。
……トータルだと600歳近い。
まあ、どうでもいいか。
桁が違うとどうでも良くなってくるな。
ま、見た目16くらいにしか見えないしそもそも死んでるし……見なかった事にしよう。
だが、見逃せないのはレベルとスキルだ。
ルッカ、今まで倒してきた魔族がゴミレベルに見えるぐらい強いじゃねーか。
……どうやったらあの蛇に喰われるんだよ。
逆に小指だけで八つ裂きに出来るレベルだろ……
ルッカって……もしかしたら、自分が強い事知らないのかな。
これも、きっと教えない方がいいのかもしれないな。
いや、でも……気づかないって……そんなの……
死んでから強くなったのかな……いや、それも……
もしかしてルッカって……バ
『なにぶつぶつやってんの? はやくこっちよー!!』
ごめん! 今いく!!
……ラッキー。ルッカは探索に夢中で俺の脳内を読んでなかったみたいだ。
もう、忘れよう……絶対に忘れなくちゃ。
俺は頭の中に、懐かしのミラ先生の美しい姿や愛らしいメイの笑顔を想像し心を落ち着かせて階段の先に見えなくなったルッカを追った。
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王族エリアは城の上の方にあった。
ひっそりと静まり返っていて人気がない。
全面が柔らかくて厚みのある絨毯敷きで、透明であろうと歩いたら足元が軽く沈む。
まだ慣れない魔法で身体を浮かしながら慎重に時間をかけてゆっくりルッカを追いかける。
ルッカ待って、もう少しゆっくり……
『ここここ! なんか変! 中に人いるけど扉空いてる!』
遠くの部屋の前でルッカがぴょんぴょん飛び跳ねて急かす。
待って、今行くから。きつい。これ慣れたら便利だけど、凄いきつい。
MPがガンガン減っていくぜ。
何とか追いついて部屋に入ると、女中が3人固まって怯えながら部屋の清掃をしているところだった。
そして……
『ね、アイサ達の話聞いたでしょう?』
『ええ、化け物のうめき声と子供の叫び声……やだわ。私……明日配膳の当番なの』
『しっ早く終わらせるわよ。明るいうちに全ての仕事を終わらせるの!!』
『お前達! 私に気付いてくれ、頼む……頼むっ!!』
怯えながらもひそひそと噂話の絶えない3人の女中の前で、両手を大きく振って存在をアピールする国王の姿があった。
えっ……国王様?
まぎれもなく、国王の姿がそこにある。
2回しか見た事も話したこともないけど、あんな眼光の強いザッツ国王を見間違えるはずはない。
だけど……身長が半分くらいしかない。
『あの人、国王様なの?!』
『!!!!! エルフ……なぜエルフがここに?』
『あっ……コホン。初めまして。私はあなたのお孫さんのレオンと一緒に助けにきたの』
『……?……レオンが?……ここに?』
ああ、王様はローブで隠れた俺の姿が見えないのか。
っていうか、なんで女中達には王様の姿が見えないんだ?
『レオ、この王様、霊体よ?』
なんだって?
『王様、レオは今私の隣にいます。体を秘密の道具を使って隠しているの。だから人がいない所に移動したいんだけど』
『……にわかには良く分からんが……やっと私の存在に気付いてくれる者に出会えた事に感謝する。こんな姿で情けないが、こっちだ。付いてきなさい』
さすが国王、突然のエルフと孫の登場にも関わらず、すぐに気を取り直すとスッと壁をすり抜けて続きの部屋へと消えていった。
『ちょっと待って、このお嬢さん達眠らすから、レオは耳を塞いでて』
……女中たちは、時が止まったように清掃をしている途中の体勢のまま眠ってしまった。
ごめん。掃除、日中に終わらなかったら、本当にごめん。
王様の消えた壁伝いにある扉をそっと開けると、そこは寝室となっており、ベッドの端に立っていた。
俺は、周りに注意を払うとローブのフードを取って顔だけ出した。
『なんと……それは国宝の……レオンよ。それをどこで……』
……念話でも大丈夫でしょうか?
『聞こえないみたい』
「国王様、お久しぶりです。……これは第8……ヨハン皇子より頂いた物です。父上より国の事情を聞き、国王、王妃をお助けに参りました」
つとめて小声で話す。
念話で話が出来るのは幽霊だからじゃないんだ。ルッカだからなんだな。
『変な妄想が聞かれなくて良かったじゃない』
『……なんと……なんという事じゃ。すまない。色々話したい事はあるのだが……今は甘えさせて貰う。レオンよ、助けてくれ』
国王は、ここではなんだからと寝室の壁模様の一つに触れる様に俺に指示をした。
言われた通りにすると、壁が一瞬透明になり体が壁の向こうへ移動した。
『ここは緊急時の秘密の通用口だ。もう少し行った所なら音の漏れん場所がある。案内しよう』