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79.反逆


 母上の肩を左腕で抱き寄せながら、父上は俺の方を厳しく真剣な表情で見据え、王都の現状について語った。


 父上がカシニルナ山脈から帰還した後、国王はあの時の言葉通り自らも深く調査に入る事になったらしい。

 だがおそらくそれがまずかった。

 現在の王都荒廃の発端となってしまったのだ。


 調査を始めてからの国王は、徐々に、だがそう時を置かずして生気を失ってゆき、今では王座に座っているだけのただの人形状態になっているという。

 ミイラ取りがミイラになったってやつだ。


 その結果、王妃様は王城にて軟禁状態。次期国王のはずの第一皇子が謎の死を遂げ、第二皇子第三皇子は行方をくらましたとかなんとかで現在捜索中らしい。……どう聞いても既に殺されていそうな気がする。


 そこへ来てこの国の我が家を除いた2つの公爵家、ドゥルム公とヴェンゲロフ公が国を我が物顔をして好き勝手な政治を行うようになり、権力に流されやすい他の貴族共は一斉に右にならえのやりたい放題となっていった。

 反対する貴族にはあらゆる難癖をつけては身分剥奪の上の国外追放、見せしめの為に濡れ衣を着せられて処刑された者もいるらしい。


 元商人の新興貴族らは早々に国を捨てて夜逃げ同然にいなくなり、その他の下級貴族も遠くの領地に引き籠り王都からは姿を消してしまったという。


 国の事情がまだ入りやすい王都の住民達は早々に逃げてしまった者も多く、代わりにどこからかふらっと国に入って来たならず者どもが住み着き始めている。


 滅茶苦茶だ!

 こんな事をしていて国が成り立つはずがない。


 それなのになぜ、こんな事をしているのか。


 理由は簡単。乗っ取りだ。


 国王の名のもとに無意味な重税を課し、国王は気がふれて贅沢三昧だと噂を流す。

 国民を疲弊させるだけ疲弊させ、全てを国王と王妃になすり付け国を新たに塗り替えるつもりなのだ。

 そして国王と王妃を処刑した後には、ドゥルム公の孫第8皇子かヴェンゲロフ公の孫の第4、第6皇子を新たな国王に充てるという算段らしい。

 ちなみに第5、第7皇子は既に他界。こっちも暗殺によるものらしい。

 第5、第7皇子はドゥルムの孫だったから、ドゥルムにはあのバカ皇子しか手駒が無いという惨状さんじょうだ。


 どう考えてもヴェンゲロフ公の勝ちだ。


 ドゥルムばかりがやたら前に出てきていたが、本当の曲者くせものはこっちだな。

 ま、初めて名前聞いたけどな。

 ……でもそれは言わない。

 俺は真剣な面持ちで、ああそいつ前から知ってたとばかりの表情で父上の話の続きを聞く。


 それにしても酷い。やり過ぎだ。

 明らかにおかしいだろう。頭が痛くなってくる。


 「そんな事をしていて……例えば今、もし隣国が責めて来たらどうするつもりなのですか」


 「ああ。……隣国へは、リリアの姉上が嫁いでいるからもうしばらくごまかせるかもしれないが、国をるなら、他国から見て今が絶好の機会だとは私も思う」


 父上も国防の観点からそして公爵という立場から、国を護る為に声を上げ続けているらしい。

 

 「それでな……実はとうとう私も国家反逆罪などと糾弾されていてな……」


 「なっ?! それは冤罪では!?」


 「そうだ。もちろん冤罪だ。今のところは糾弾されているだけだ。まだ国王から正式に言い渡されたわけではない。……だが私が幽閉される日も近いと思わないか?」


 『すぐに逃げましょう!』


 そうだ。今すぐに逃げるべきだ。ってルッカいきなり入ってきたな。


 『何かアツいものが込み上げてきたの! こんな国さっさと捨てて逃げましょうよ! 私達エルフは人間から逃げて逃げて逃げて逃げて……そして逃げて生きてきた種族よ。結局絶滅してるんだけど。でも逃げるのも生きるための術だわ。さあ! とっとと金目の物を集めて夜逃げよ! ほらほらっ!』


 だがルッカの気持ちは分かる。


 「……父上、ここは逃げましょう」


 父上が目じりを下げて優しく微笑んだ。


 「……そうだな。家族と使用人を連れて逃げられたらどんなに良いか。だがな、王城にはリリアの父上と母上がいるんだぞ? リリアの兄弟は亡くなってしまった。そして神殿にはアンドレとアイリスがいる。私達は動けないんだ……」


 最後は悲しそうな溜め息交じりの息の漏れる小さな声だった。


 「父上、お…僕……じゃない。私が、この私が何とかしてきます」


 咄嗟に言葉が出た。

 事情はさっき初めて聞いたばかりだし、正直ノープランだ。


 ……やらなければならない事は2つ。

 王城から国王と王妃を連れ出して、神殿から兄妹を救い出す。

 


 ……どうやってやるんだよ。



 『なんとかなるわよ! 私がぎったんぎったんにしてやるわ! 気持ちの上でね!』


 ゾッ……と急に背中に鳥肌が立って振り向くと、ディアーナの身体の周囲が赤く燃えているようなオーラを放たれている。

 このディアーナる気に満ちている。


 ……なんでこううちの女子は血の気が多いんだ?

 メイを見倣ってほしい。


 言い出しっぺの俺の方が後れを取っている気がするぜ。


 父上からは「余計な事はするな」と何度も何度も念を押されたが、俺はともかくルッカとディアーナに至っては全く耳に入っていない。

 比較的まだ冷静な俺だって、事情を知って何もしないなんて……出来ないに決まってる。

 母上が弱り切っている理由もしかと承知した。


 きっと大丈夫だ。……俺には溜めたポイントがある。


 父上は、ディアーナの前に行くと膝をついて俺達の行動を止めようと懇願している。

 なぜ、身分の高い父上が一般人のディアーナの前で膝をつく必要があるのか。

 ……そんなに怖いのかな。俺はもうあの殺気には慣れてるけど。

 ああなると、ディアーナの意思は固いぜ? 単独でも乗り込んで行きそうだ。 


 さて、これからどういう作戦で行くか考えなきゃな。

 幸いな事に、最近バカ皇子から強奪したローブがある。

 このローブを着て姿を消した俺がまずは偵察。

 戻って再度作戦を練り直して、奪還作戦の開始としよう。

 燃えているディアーナには悪いがしばらくこの屋敷に待機していただくしかないな。



 まだ予言まで数カ月あると思っていたが迂闊だった。



 ……予言の日は、もう近いんだ。

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