7.閑話(メアリ視点)
私は、メアリ―・リーブス。
テルジア公爵家に使用人として仕えている。
実家は没落貴族で、8歳の時に公爵家に奉公に出て、もう今年16歳になるわ。
私が公爵家に来た当時は、もうすでに”光の御子”アンドレ様が5歳でいらっしゃった。
アンドレ様はこのナリューシュ王国の守護者として神より賜れたと謳われているの。
アンドレ様はご事情により養子なのだそうだけど、そのあたりの事情は実は良く分からない。
旦那様も奥方様もご自身の子の様に愛してらしたから、女中達からその噂を聞いた時は驚いたほどだ。
アンドレ様は産まれた時から聖なる力をお持ちだったので、王国直轄の大神殿にお勤めする必要があった。
だから旦那様も奥様も主要な召使い達はみんな王都で生活をしており、私もずっと王都の方でお仕えしていた。
アンドレ様は神殿にいらして滅多に王都の屋敷に帰ってくる事がなかった。
屋敷にいらっしゃる時も護衛やお付きの方も多かったし当時は私も見習いだっだから、遠目で見る事しかできなかった。
だけど、とても温かく優しそうな美しい少年だったのを記憶している。
私が13歳の時、奥様が双子の御子息と御息女を御産みになられた。
生後5か月の時に、アイリス様も聖なる力をお持ちだという事が分かり、アンドレ様と同じく大神殿への勤めを義務付けられてしまったの。
旦那様と奥様は、お子様が国に奪われた様な思いで大変悲しまれた。
そしてレオン様だけは奪われない様に、早々にテルジア領にレオン様を移されたの。
当時は国中から、アンドレ様に次ぐ聖なる力を持つアイリス様の話題で持ち切りだったから、まだ生後間もなかったけれど目立たぬように保護するのはその時しかなかったのよね。
で、その時にレオン様に付いてきたのが私ってわけ。
レオン様はとても元気な可愛らしい男の子だった。
そしてとても賢かった。
言葉を話し始めるのもすごく早かったし、私達使用人同士の話の内容や冗談も理解しているみたいだった。
・・いえ、あれは理解してたわね。
あんまり思い出したくない事なんだけど、
ある日レオン様のお部屋を掃除していた時に、つい女中同士でこの屋敷のボスであるロイの事を冗談めかしく話していた事があったの。
その時、レオン様がずっと「メア、うしり、うしりょ」ってしきりに言うの。
何かと思ったら・・・後ろでロイが聞いていたの!
本当に怖かったわ。
でもその事で、レオン様にもやっぱり特別な力があるんじゃないかって仕様人達で持ち切りになった。
だけど、2歳を過ぎてから徐々に必要以上の事は話さないとても大人しい子になってしまった。
年に数回帰ってくる、旦那様と奥方様の事が恋しいのか良く庭に出て門の方を見ている事が多くなった。
この屋敷は、必要最低限しか使用人がいないからあまりレオン様に構ってあげられなかったのも原因かもしれない。
そんな、レオン様が3歳を迎え、しばらくしてから何だかとても活発になったの。
鏡の前で剣をふる練習をしたり、庭を走り回ったりするようになった。
貴族の御子息様なのに、大きくなったら剣士になって冒険に出るんですって。
庭師のボンなんて孫みたいに可愛がっていて、この間は手作りの”剣”をプレゼントしていたわ。
私からみたらただの棒きれなんだけどね。
ボンも昔は冒険者だったみたいだから、とても楽しそう。
どうやら10年寿命が延びたらしいわよ。
お食事も良く召し上がるようになって、うちの料理人達も最近は妙に張り切っている。
レオン様はいつも厨房の勝手口を使用されるのだけど、きっと人が恋しいからだと思うの。
厨房なら、料理人達が常にいるもの。心の中では寂しいって思っているんじゃないかしら。
だから、本当は公爵家の御子息様としてはいけない事だと思うけど、今はみんな黙認している。
ご主人様達がこちらに帰られた時には、いつも皆でヒヤヒヤしてるけどね。
最近のレオン様は、なぜかみんなに挨拶をしてまわる様になった。
このレオン様の”お遊び”には最初はみんな少し戸惑ったけど、今では、今日何回”こんにちは”って言われたか皆で競い合って楽しませて貰っている。
今のところはだいたい私の勝ちね。
・・・多分レオン様は、一番私に懐いていらっしゃるんだと思うわ。
今もまだ私の事を「メアリ―」って言えなくて、「メアリ、メアリ」って呼ぶのよ。
とっても可愛いでしょ?
ま、少し変わったところはあるけど、とにかく元気になってくれてみんな喜んでいるわ。
やっぱり、男の子だから活発な方が安心するわね。
旦那様や奥方様にもレオン様の元気な姿をお見せ出来ないのが残念なくらいだわ。