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75.濡れた箪笥


 バカ王子の入った衣装棚が流れていくのを見送ると、なんだか晴れやかな気持ちになってきた。

 棚の中からやいのやいのいう声ももう聞こえない。

 呪いの手紙を送り、父上を死地へ追いやり、泉を消し、魔物を配置した。それだけじゃない。俺のメイを襲い攫おうとした挙句にオーブ(ルッカ)まで奪おうとした。

 ひとにも勝手に入りやがって……許せん。このまま川底で眠るがいい。


 ……まてよ。

 これを全部あの馬鹿皇子あいつがやったなんて嘘だよな?

 馬鹿皇子あいつが1人で考えて行動した? ……嘘だろ。絶対嘘だろ。


 ローブの内ポケットに何か入っているのに気が付いた。

 たぐってみると、あのうさぎのぬいぐるみがあった。

 

 『どうだかねー。あの人自体が呪われてるみたいだったし』


 それは、どういう事?

 

 『どうにもこうにも。アイゴンがずっと威嚇してたわよ? 私でも解呪できないかもしれないし、アイゴンにも無理かもしれないわ。相当蝕まれているからもう殆ど自分の意思で行動できていないんじゃない?』


 呪い? そんな……そんな奴を川に流したらどうなるんだ?


 『それにあの人、一応は王族なんじゃないの? いいの? あんなことして』


 は!? ずるいぞ、ルッカだってノリノリだったじゃねーか。


 『まあ、そうだけど…私には責任がないわけじゃない? 死んでるし。あなたはバレたらまずいんじゃない? 私は面白かったけど』


 なっ……でもロイ爺だって止めなかったじゃないか!?


 「ロイ爺っ! あれ流した時、何で止めてくれなかったの?!」


 「ふむ。私は証拠を残さずに消さない方法は好みませんが、少々面白いかと思いまして……」


 「はぁっ!? 待ってよ……なんだよ2人とも面白いからって……」


 嫌な汗をかいてきた。やっぱりまずかったか…?


 「はい、拾ってきてあげたわよ」


 「ディアーナ殿、御足労ごそくろうおかけしました」


 ディアーナが流した衣装棚をロープで引きずりながら戻って来た。

 ロイ爺の言動からしても俺の行動は皆の予想通りだったわけか。

 

 「途中から見ていたけど、尋問が足りないわよ。もっと…もっと責めなくちゃ」


 ディアーナが責めるとかいうと、別の方向を想像してしまうな……ってそうじゃなく。


 「ありがとう、ルッカ。中にまだ入ってる?」


 『入ってる』


 よし……まずは逃げられない様に納屋に運ぼう。

 衣装棚の中からはあいかわらずうるさい声が耳に付く。


 いつでも魔法を出せる準備をしながら全員で囲んで棚の扉を開けると、ずぶ濡れで半泣きになったバカ皇子がいた。


 「っ!! きっ貴様! この私に何の恨みがある!!!!」


 「はっ? お前には恨みしかないわ! なぜここにいる? なぜ俺を狙う!! 話せ! 話さなければ今度こそ殺す」


 「…知らぬわ!!! なぜ私がこんな所におるのだ!! 誰かっ!! 誰かっ!! ……誰もおらぬのか!!!? ピエール!! ダリル!!!」


 そ知らぬふりを通す気か。


 「まだふざける気か? ……それならいい……死ね」


 俺は馬鹿皇子の顔すれすれにクナイを突き立てた。


 「ヒギィッ!! なななな……何をっ……私は知らん! 何も知らん!! 誰かに嵌められたのだっ……」


 馬鹿皇子クソの目の前でクナイに炎を纏わせ、頭すれすれに刺す。かなり手が火傷やけどしそうになったがここは我慢だ。


 「本当に知らん!!! 私とて近頃よく記憶を無くすのだ!!! そもそも貴様程度の田舎貴族など興味のかけらもない!!!」


 チッ……しぶといな。


 『……グルルルルルルルルルルルルルルルァアア』


 俺の懐に入っていたアイゴンが全身を震わせながら威嚇を始めた。

 アイゴン……まさか、馬鹿皇子アイツを食おうってのか?

 駄目だ。馬鹿皇子あんなものを食べてアイゴンがお腹を壊したらどうするんだ。


 「落ち着けっ! 落ち着けって!」


 アイゴンが飛び出さない様に両手で押さえてなんとか動きを抑えようとするが、力が強い。

  

 『……グルァアアッ』


 パアンッ………馬鹿皇子まで数cmという至近距離でアイゴンが突如膨張して弾けた。



 「………は……は、はは、ははは、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ」


 うるせえ

 無言で馬鹿皇子を思い切り殴ると、ゴロンっと軽く回転してぶっ倒れた。気絶した様だ。

 ……なんだこいつ。……めちゃくちゃ弱いじゃないか。

 ステータスを見てもレベルも低いし、MPは妙に高いが俺ほどでもない。

 

 はっ! それよりもアイゴン!!!!!


 …………増えてる。

 チビアイゴンが20匹……生まれたての様に小さい。

 ……頼むよ。無理だ。20匹は収集がつかなくなる。


 俺はアイゴン20匹を木桶に入れると、増えたての柔らかなチビアイゴンを優しく優しくもみ込んだ。

 もみ込む事およそ60分程で、何とかアイゴンを1匹に戻す事が出来た。


 『グルアアアアアアアアア』


 『……気持ち良かったみたいよ。……揉んでくっつけるとか…良くそんな事思い付いたわね。そして良く出来たわね。増えて喜ぶお嬢さん達もいるだろうに』


 いや……でも無理だよ。それは……絶対に収集つかなくなるから。

 

 馬鹿皇子こいつ、さっき咄嗟とっさに殴っちゃったから気絶してるけどどうしようか。


 呪われた皇子なんて家に置いておきたくない。ましてややかましいし。

 やっぱりもう一度封印して川に流すんじゃなくて沈めるか。

 

 ……ルッカ、なんかお札みたいなもの持ってない?

 

 『そんなもんないわよ。とりあえずこの人縛っている縄に呪いの制御でもかけとこうか? レオの魔力も借りる事になると思うけど。……それでも、気休め程度よ? アイゴンが弾けたのも見たでしょ? もう……手に負えないレベルなの。』


 分かった。それでも頼むよ。抑えられるだけは抑えつけておこう。


 縄で縛った皇子を再び衣裳棚に入れるとその上からまたロープで縛った。

 だが、安心できない。この屋敷には置いておきたくない。


 予定よりかなり早いけど、こいつを王都へ持ち帰るか。


 ……待てよ。

 こいつを拉致したまま『偽装』で馬鹿皇子に変身できたら……王都での情報を得られるかもしれないな。


 最近『偽装』試してなかったな。俺の『偽装』はそこまで高度な事がまだ出来るとは思えないが、身長もほぼ同じぐらいだし……いけるかもしれない。

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