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73.ぬいぐるみ


何だこの気味悪いぬいぐるみ。

突然、俺の後ろに落ちてきたグロイ小さなうさぎのぬいぐるみに心臓が飛び出す程驚いた。


誰だ!?

誰が落とした!?


鑑定で周囲を見渡すが怪しい物は何も無い。

うさぎのぬいぐるみは、『うさぎのぬいぐるみ、素材:麻』そして見逃す事の出来ない表記『”ヨハンのお気に入り''』とあった。

ヨハン……バカ皇子か?

何でこんな所に、ありえないだろ!


地面に落ちたぬいぐるみから目を離さないままでいると、抉られた腹から紫色のうじの様な物が出て来た。


呪いだ。呪いなんだろ。


『グラアアアアアッ』


バッシャアアアアアと木桶に入ったアイゴンが勢い良く木桶から飛び出すと真っ直ぐにぬいぐるみ目掛けて飛び、どこにあったのか分からない大口を開けてぬいぐるみごと丸呑みした。


アイゴンの小さな体はぬいぐるみ程大きくなり、体中の目は赤くなっている。体は縦横斜めにぐねぐねと伸び縮みし…『ブエッ』と音を立ててぬいぐるみを吐き出した。


「アイゴン…?」


大丈夫なのか?


鑑定ではアイゴンに異常はない。体の大きさも元に戻った。むしろレベルが上がっている。ぬいぐるみも、表示自体は変わらない。


目の前のアイゴンはコロコロと遠慮がちに俺の側で目をぱちぱち瞬きしてもぞもぞとしている。


「あ、アイゴン…大丈夫か?」


『グルァ…』


ぶるぶると激しめに揺れてまだ俺を見ている。

そうか、褒めて欲しいのか!


「ありがとう、アイゴン。凄いな!」


アイゴンの頭らしき部分をそっと撫でるてやると


『グルァッ! グラアアアアッ』


と俺の手に自らグリグリと体を擦りつけた。

目を全て閉じていて気持ち良さそうにグリグリグリグリとやっている。

なんだ、嬉しいのか。


アイゴンを撫でながらぬいぐるみを見る。

ヨハンのお気に入りってのはヨハンのぬいぐるみってことだ。何でここに? いくら何でも皇子がこんな所にそう簡単に来れるとは思えない。

思えないが、目の前のぬいぐるみは消える事もない。

さっきだって。アイゴンの反応を見ればあれはやっぱり呪いだったんだろ?

…ルッカに聞かなきゃ!

アイゴンの通訳も…今は難しいかな、いやそんな事は言ってられないだろう。


ぬいぐるみを見る。触りたくはない。

アイゴンがおそらくスキルで体内に吸収してくれたんだろうけど、それでも…


「キャアアアアアアアアアアアアアアッ」


悲鳴だ! メイの声だ!


叫び声の方へ向かって走る。

屋敷の外でデカいカラスみたいな鳥がメイを掴んで飛び立つ瞬間が見えた。


「メイッ!!!!!」


腹の底から叫び追う。


メイの悲鳴を聞いて駆けつけたらしいボン爺もカラスの進行を食い止めようと風を起こし進路を邪魔をする。


メイがいるから攻撃はしにくい、だが俺はやる。出来る…メイを助ける。

懐からクナイを出すと走りながらバサバサと向かい風に抗うカラスの頭を狙った。

高度は高くない。カラスを撃ち抜き落ちたメイを拾える。


「メイッ! 待ってろ! 今助け…」


「あっ! にーにっ! まって」


「なっ!?」


メイはカラスに捕まりぶら下がった不安定な状態にもかかわらず、紐でたすき掛けにして縛ってあるナイフを鞘から抜き取ると、柔らかい体をひねり体勢を変えるとカラスの腹にナイフを突き立てて抉り、切り裂いた。


「ギャアッ! ギャッ! ギャアア!」


今度悲鳴をあげたのはカラスの方だ。


メイはカラスの血を思い切り浴びながら抉った傷に更にナイフを突き立て、最後にはメイを掴んでいる足を切り離し、そこからくるくると回りながら地面へと着地した。


メイ…


「にーに! メイ、こわかったぁ!」


血まみれのまま満面の笑みで俺の胸に飛び込むと、


「こわかったけど、でもさいごはたのしかったぁ!」


と嬉しそうに言った。


「……メイ、良くやった。…成長したなあ、偉いぞ」


後から来たボン爺がメイの血まみれの頭を撫でる。

メイは耳をぴょこぴょこと振りながら嬉しそうに言った。


「えっへへー! ディアとひとりでたたかえるくらいつよくなるってやくそく、したんだぁ」


地面に落ちていくカラスを焼き、鑑定をしたが何もなかった。アイゴンも特に反応は示さなかった。


屋敷に戻り、メイの汚れを軽く落とすと何があったのか聞いた。


「うん、とりさんがねかぞくに会いたいってきいたの。会いたいって言ったら、きゅうにつかまれてとんたんだよ?」


「鳥が喋った?」


「うん」


「どういうことだ」


理由は分からないが、いや分からなくない。一つ思い当たる節がある。


「 ボン爺、メイも! メイは離れないで。ボン爺! 話さなきゃいけない事があるんだ…待ってて!」


裏庭にダッシュで戻る。


あのぬいぐるみは、無くなっていた。

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