閑話.ヨハン視点
私は、ヨハン・ドゥ・ナリューシュ。
5歳になり王族の掟に従い魔法と剣の適性を調べられたところ、私は優れた魔法の才能があると分かった。
魔法の才能を伸ばすために、宮廷魔導士の先生に師事すると、魔法の面白さに夢中になった。
先生からは『素晴らしい! ヨハン様は数百年に一度の才能がございます。その力は是非この王国を支えるものとなりましょう』と言われ嬉しくなり、ますますのめり込んでいった。
魔法の稽古が終わると、私の身の回りを世話をしてくれる侍女サリスへいつも嬉しくなって報告してしまう。
『ヨハン様は素晴らしいですわ』
サリスも嬉しそうに微笑んで話を聞いてくれるのが私はとても嬉しかった。
10歳の時、宮廷魔導士と同等かそれ以上の力があると賞賛され、私の周りにはいつも貴族が集まるようになっていた。
『ヨハン様は、第8皇子というのが勿体ない』『ヨハン様こそ次期国王におなりになられると宜しい』などのお世辞まで言われるようになった。
私には兄上も沢山いるし、この国を支える力となれればそれで良い。その為に魔法を習得したのだから。
父上からも褒めて頂く事が増えてきたが、同時に兄上達からは疎まれつつある事を感じ寂しかった。
しかし、サリスからは『ヨハン様の気のせいでございますよ』と励まされ、気を取り直し魔法の勉強に打ち込んだ。
私は本を読むことも好きで、良く宮殿内の図書室に入り浸っていた。魔法の本は勿論、見た事もない魔物の図鑑を見ることも好きだった。
ある日、本を探していると、図書室の奥の床に隠し扉を見つけた。鍵がかかっていたが少し錆びていて、好奇心から魔法を使い鍵を壊し開けてみると、階段があった。秘密の地下室を見つけた喜びから少々の恐怖を抑えつつ静かに階段を下りて行った。
薄暗い階段を下りると目の前に扉がありまた鍵がかかっていた。『中が見てみたい』なぜかそのような衝動を抑えきれなくなり、私はまた魔法で鍵を壊して中に入った。
地下室の中は暗かったがかろうじて多くの本が見え、魔法の明かりを灯しながら慎重に奥に歩みを進めるとある一冊の装飾の付いた本が目に留まった。
その本に導かれる様に手に取ると、表紙が光りはっきりと文字が浮かんできた。見た事のない文字だ。
不思議な本のページをめくると、びっしりと細かい文字が書かれていたが、文字が浮かび上がり、私の中へすっと入って行くような感じがした。もう一度見ると、文字は無くなり全て真っ白なページしか残っていなかった。
突然の出来事にしばらく本を持ったまま呆然としていたが、途端に怖くなり元の場所へそっと戻すと急いで自室へと戻った。
その日は怖くなり、深くベッドに潜ると眠ってしまった。
12歳の私の誕生パーティーの時、事件は起きた。
貴族からの挨拶がひと段落した時に、『ヨハン様、喉が渇いていらっしゃいませんか』とサリスが飲み物を持ってきてくれた。『ちょうど何か貰おうかと思っていたところだ。ありがとう』受け取るとそれを飲み干した。
パーティーも半ばに差し掛かった頃、徐々に気分の悪さを感じしばらく我慢したが耐えられなくなり、何とか席を立つと隣に座る父上に断り退席すると、控えの間のソファへ倒れ込むように横になった。
そこからの記憶はない。
『……あれ? ここはどこだ』『っ!! ヨハン様!?』
私が気が付くと、見知らぬ侍女が小走りで近寄ってきた。
どうも未知の毒に犯され、半年の年が経ったようだ。……半年だと!? この私が!
あの時サリスに渡された飲み物を飲んでからほとんど記憶がない…
サリスなのか…
私に毒を持ったのはサリスなのか……
……この神に愛された私に毒を持ったのは、あの優しかったサリスだと言うのか!!!!
サリスを呼ぶように頼んだが、誕生パーティー翌日から姿が見えず、騎士団総出で探したものの、遂には見つける事は出来ず、犯人はサリスでもうどこかに逃亡して探しもしていないだと。
いつからだ……いつからサリスはこの私を狙っていた!!!!
何としてでも見つけ出してやる。
私兵を使い国中を隈なく探させたが…見つからないだと!
数百年に一度の神より選ばれしこの私の命を果たせぬなど愚行も愚行…愚行である!!!
貴様らの様な無能は使えん、極刑っ……極刑にしてやるっ!
牢屋へぶち込んだ奴の数などもう分からん。使える人間はいないのか!?
サリスが憎い。憎い。憎い。憎い。
私に色目を使って近づき、毒を持ったあ奴の気味の悪い皮を剥ぎ、斬り刻む夢を幾度も見ては昂りを抑えきれず、私は目の前の侍女の腹を割いた。
ふん。人間とはやはり醜い化け物なのであるな。
この一件で、私は一人離宮へと追いやられた。
次期国王とも言われるこの私への扱い、許されるものではないぞ、覚悟せよ。
私も18歳になった。
忌々しい事にあの毒のせいか身体の成長がほぼ止まってしまい子供の様な出で立ちである。
サリスだけはまだ見つからん。
私の署名入りのチラシを城下町中にばら撒いたのに見つからないとは!
……この天才自ら動くしかないか。
城下町のゴミ共はなかなか使えるな。
騎士団も私兵もゴミ以下よ。
私はパーティーにはいつも変装して参加している。
その日も薄紫色の柔らかなドレスを纏い化粧をしブロンドの長い巻き毛の鬘をかぶり鏡の前で軽く小首を傾げてみる。おお、なんと美しい姫君であることか。
父上に挨拶をする初顔の少年がいるのを見つけた。
近づいて密かに話を聞けば茶金の髪の少年は、テルジア公の息子だと分かる。
レオンという名なのか。
確か病弱だと聞いていたが、その様には全く見えないであるな。
最近は退屈で仕方ない、どれ後でも付けてやろう。
かなり近くを追わねば気配も無くすぐに見失いそうになる。何度かぶつかりそうになった。
なんだ。随分と元気そうじゃないか。
嘘つきレオン君はどうして領地隠れていたんだい?
なぜこんなに気配が薄いのか。
ハハハハハハハハハハハハハッ!!!! よいぞよいぞ!!!
この者はこれまでのおもちゃとは違って面白そうであるな。
城下町でぶつかった無礼なガキの後姿に、すぐに天才の私はあのガキがレオンだとすぐに分かったぞ!
昔忍び込んだ宝物庫から姿を隠す事の出来るローブを持っている私は、護衛を巻いてローブを羽織ると後を付けた。
こんな裏道に何の用だ?
一体なにを企んでる?
……いないではないか!!
どこへ行った!! どこへ行った!!!
おや? 店のなかにいたのか? さあ次はどこへ行くんだ?
後をつければ、この高貴な私にはそぐわない犬小屋の様な店に入って行くではないか。
なんと、この私をこんな店へ……まあいい。面白そうだ。盗み聞きしてやろう。
……降霊祭だと!?
あれは私も楽しみにしているのだぞ!?
しかし面白そうであるなぁ。
レオンが絶望する顔を私が見せてやるというのはどうだ?
それはいい!
ハハハハハハハハハハハハハハ
我ながら天才である!!
レオン君への絶望は私が導いてやろう。




