69.決着
回復ポイントの泉が復活し、アイゴン達はせっせと魔素吸収してはドロドロになり俺に泉に戻されるという仕事をしている。
今のところ数は増えていないが、ルッカに言わせれば魔素の濃度が徐々に薄くなっているらしい。
その結果……とても修行がやりにくい状態になってしまった。
修行前に『鑑定』を使ってアイゴンを探しては泉に運ぶ作業が最近の俺の担当だ。
俺がアイゴンを運び、ボン爺、ロイ爺、ディアーナがローテーションで俺のサポート、つまり襲いかかる魔物を倒す仕事をしている。
まるで牧羊犬にでもなった気分だ。
しかし、昨日判明したのだが、アイゴンを泉に入れてあのドロドロを落としてやると、1匹あたり5000Pも貰えるんだ!
何ともおいしい作業である。
アイゴンもドロドロを落としてやると、俺の足元へコロコロ転がってくるようになった。
それだけではない。自ら飛び跳ねるようになったのだ!
こう懐かれてしまうとペットのようで確かに可愛い。
ちなみにメイはそんなアイゴンをつい追いかけ回してしまうのでいつも逃げられている。
『呪い』スキルは無いとはいえ触れてもし殺してしまったらいけないと、メイは泉付近ではいつも誰かに抱えられアイゴンを見る事しか出来ない。
付近の魔素濃度が低くなればなるほどアイゴンは泉から離れた所に行ってしまうから大変だ。
修行の間だけは、泉の側で大人しくしていて欲しいものの、ルッカが意思疎通を図れるのは俺限定でアイゴンからの一方的な受信しか出来ないらしい。
早く”主”といわれる魔物を倒さなくてはいけない。
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”主”の居所は案外すぐに見つかった。
泉から100m程離れた森中央部に存在するとてつもなく大きな”大木”だ。
幹を取り囲むように6つの目があり、鼻は無いが口はあり、その口からは常にどす黒い息を吐いている。
口の無い裏側に回って近づこうとすると、センサーとなる目に見つかると、瞬時に口が現れるんだ。
枝と根は先端が蛇の頭でグネグネと動きながら攻撃してくる。また蛇だ。
『鑑定』では、魔物の名前はなし。
この地でのボスなのに名前はなし。
HPは2500、MPは3000
『スキル』に『猛毒』とある。
こちらは俺を含めて4人プラスメイ。
メイは危ないから外したかったが、仲間外れはどうしても嫌らしい。
だが、メイは身体能力が高く、小さく軽い体で素早く攻撃を避ける事が出来るし魔物狩りも上達した。
という訳でこの討伐に参加する事になった。
5人に分かれて木の周りを囲み、それぞれの位置から攻撃を躱し、枝や根をぶった切って何とか本体に近づこうとしているが叶わなかった。
こいつは、周囲の魔素を使ってすぐに回復するんだ。
口から吐かれる猛毒の息は魔法攻撃を相殺してあまりダメージを当てられない。
ナイフを投げても毒霧で溶かされる。
俺が長年愛用していた父上からのプレゼントはこいつにより失われた。
”主”に挑むこと2日目。
全員の安全を図って昨日は中距離攻撃を図ったが、やはり近距離戦をしないと倒せないだろう。
誰かが本体の幹をぶった切る必要があるという意見に一致した。
その役目を果たすのはディアーナ。
「私がやる」というその言葉に誰も反対しなかった。
俺はディアーナがぶった切った瞬間”主”に産まれる一瞬の隙をついて本体内部を燃やす役だ。
主に近づいていくと昨日と同じように枝と根を激しくうねらせて威嚇をしてきた。
ただ、今日は俺達にも策がある。
ロイ爺、メイ、ボン爺が一方から囮役として激しく攻撃を始めた。
「出し惜しみはなしじゃ!」
ロイ爺が毒の息の囮となる様に素早く動きながらフェイント攻撃を仕掛ける。
メイもロイ爺の側で第二の囮役をやっている。
ボン爺はロイ爺とメイの補助をすべく毒の息に向かって魔法を放ち相殺しながらも、
枝や根と同じくすぐに再生する目をも目がけ大量の火の矢を用意して連続攻撃をし続ける。
俺はその裏で限界まで大量の魔素を集めていく。
早く集まれ……もっとだ……
俺の前に堂々と剣を構えたディアーナは全身にほんのりと赤い光を纏わせている。
……これが、『覇王の器』の証か。
そして……十分な間合いで蒼白い炎を纏わせた剣を持つディアーナが幹に切りかかり……大木の太い幹をぶった切った。
「今よ! 」
俺は溜めた魔素を瞬時に炎に変えると本体にぶつけた。
ボン爺もすぐさま反対側から炎の塊を放つと、大木はゴオオオオ……と音を立てて燃えていく。
枝と根が激しく波打つ。
ディアーナ、ロイ爺、メイが切り割き、俺とボン爺をサポート。
炎を送り続け本体をこれでもかと燃やし続けると、枝と根の再生が止まった。
倒せた……
『いえ、まだよ』
よく見れば燃え盛る炎の奥に黒い塊がある。
黒い靄が、炎を少しずつ侵食している。
「ボン爺! 炎の中に黒い塊がある! しかも炎より強い!」
「クソがッ」
ボン爺が更に炎を送り込むが、漏れ出す黒い靄がどんどん溢れてきて抑えきれない。
しかも徐々にその勢いが増している。
黒い靄の正体は、『毒』ではなく『魔素』と鑑定表示されている。
”主”の体内に蓄えられていた大量の魔素が本体が切られた事により外へ漏れ出しているのだ。
ただの魔素だから大丈夫なのか。
『いえ、この辺りの魔素は空気中に分散しているから大丈夫だけど、一度に大量の魔素を浴びれば体内で中毒を起こして死ぬ可能性もあるのよ。魔素だから魔法では抑えられないなかもしれない』
「ボン爺ごめん。魔力が切れる。ちょっとだけ頼む! 急いで回復してくる!」
言いながら、俺はすぐさま泉へ走った。
100mの距離だ、泉でMPを回復してすぐ戻れる。
泉の淵で手で水を掬って飲み、ステを確認して戻る。
ボン爺だけではなく、ロイ爺も応戦して炎で魔素の塊をを押さえつけていた。
「お待たせ! あの黒い塊は魔素だから魔法はこれ以上効かないらしいんだ。
でも、魔法でも重力なら……地面に押さえつけて消せるかもしれないと思うんだけど試してもいい?」
「……この際、試せるもんは何でもやるしかない」
今にも炎を破って出て来そうな魔素の塊に上から押さえつけるように魔法を発動。
炎ごと、魔素を飲み込み、ズズズズ……と音をたてながら周囲を潰していく。
このまま地中深くに呑み込まれてしまえ!
「にーに、すごぉい!」
「メイっ! こっちに来ちゃ駄目だ!」
しかし、一部に隙間があった。
俺の所に駆け寄るメイにでどす黒い魔素が物凄いスピードで向かう。
慌ててメイを突き飛ばしたが、俺は……
『危ないっ!』
当たるっ!
……目を瞑り身構えたが、何も衝撃がない。
すぐさま目を開けると、目の前にアイゴン達が魔素の黒い靄に取り込まれていた。
……アイゴン達は俺の後を追ってきていた。
そして俺に向かう魔素に体当たりして黒い靄の中に取り込まれていったのだ。
いや、違う……逆だ。アイゴン達がどす黒い魔素を取り込んでいる。
空中にあった魔素の黒い靄が徐々にドロドロしたアイゴンの塊の中に入っていきゆっくりと地面に落ちる。
15匹いたアイゴンは3mほどのでかいアイゴン1匹になった。
そして……あの巨大オロチを倒した時と同じように”主”の魔素を取り込んだアイゴンは白く光って、消えた。