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68.森の守り神2


だめだ、アイゴンの事が気になって仕方がない。


 屋敷を飛び出すと庭の木を暫定しているボン爺の元へ駆け寄り、少しだけ魔物の様子を見てくると伝えた。


「様子を見るだけだぞ。もう分かっているだろうが死ぬような事はするな。あと帰ったら報告しろ」


「ありがとう! 行ってくる」


 最短距離で移動するため塀を飛び越え森に入った。


 陽が落ちかけていて魔物が増えている。

 倒してもどうせいくらでも沸いてくるんだ、木の枝を飛び渡り無駄な攻撃を避けつつ急いでアイゴンのいた場所へ向かう。


 確かこの辺りだ。

 いた……さっきよりでかくなっている。

 3m程の球体が更に大きく、5m程にはなっている。


 基本的には無害な魔物なんだ、もう少し近くで様子をみよう。

 鳥の魔物以外は届かない高い木の枝へと移動し、2メートルほどの距離からアイゴンを観察。

 触るだけで死ぬ程繊細な魔物だ、見られてショック死されるなんて事はないと願いたい。

 メイは可愛いと言っていたが、あのどろどろした体中にびっしりとある目玉の集合体のどこが可愛いのか俺にはちょっと分からない。


 でかい体はパンパンに膨らんだ風船の様なっていて微かに震えている。


 ……震えている。

 

 心なしか小刻みな震えが、少しずつ大きくなっている気がする。


『大丈夫かしら、なにかをしようとしてる』


 なにかって?……自爆?


『魔物にはあまり感情がないから分からないけど、だけど……不思議なんだけど悪い事は起きない……と思う』


 視えるルッカがそういうなら……

 でも、震えが結構激しくなってないか。


『そうね……』


 今すぐ屋敷へ逃げ込んだ方が良いのかそれともルッカの言葉を信じて様子を見た方が良いのか。


『あっ!』


 アイゴンのドロドロした体が中うねうねと伸び縮みして……15匹に分裂した。


増えた。


『増えたわね』


・・・・・・


 大きさは全てが同じぐらいの大きさ、つまり15分の1くらいになっている。

 30cmぐらいの目玉の球体が15匹。

 元の大きさから考えれば、この大きさならまだかろうじて可愛いと……いや言えないな。


 増えたっていうよりは分割だな。


 アイゴンはこうやって森を浄化しようとしているのか。

 確かにこいつは良い魔物だ。


 だけどもしこのまま森の入り口で増え続けられたらうっかり踏んでしまうかもしれない。

 その時の『呪い』を浴びるのは危険だ。


 なんとか移動させられないかな。

 あの本には風で移動するって書いてあったけどこの森は木が密集しているから風なんか吹かないし。


 風……もしかして、


『魔法で風を起こしてみたら?』


 俺も同じこと考えたよ。

 だけど、魔法の風だから大丈夫かな攻撃ととらえられるとまずいんだけど。


『あそこの一番離れてるアイゴンで試してみない? 1匹だけなら、もし失敗しても私がなんとかして解呪してあげるわよ』


 そうだな。やってみるか。


 まず、何もない所に風を起こす。

 なるべくそよ風のような優しい風に調節する。

 こんな感じなら大丈夫かな。


『もう、覚悟を決めてやりましょう!

 死んだらごめん。一緒に神様の元に逝きましょう!』


なんだそれ。…でもそういや神様しょうじょはこの世界に出張中だからなあ。


『うそっ!? ここにいるの? 一度会ってみたい!』


 うん、俺と一緒に入ればいつか会えるぜ?


『分かった。それなら耐えてみせます!』


 ルッカさ……ひど過ぎない?


『しょうがないでしょ? ていうか分かってるでしょ?

 私は誰よりもあなたの心が分かるんだから。』


 ……とにかくやってみるよ。


 気を取り直し、離れたところにいるアイゴンに近づき、そよ風を作ってアイゴンへ放った。


 コロリ。


 動いた……


『やったわ! 成功ね!』


そうだな。よし、このまま移動させよう。


『どこまで?』


 もっと行った先に、広い空間があるんだ。少し前まで泉があったんだけどさ。

 とにかくそこに15匹運ぶよ。


『とりあえず、ボン爺さんのところに帰ったら?

 さっきから魔物が多いしレオン1人じゃ無理じゃない?』


 確かに。頭上から襲ってくる鳥の魔物はそのレベルの割に一撃で倒せるから問題はないものの、アイゴンを運ぶには敵を避けるもの面倒だ。

だけど、不思議と他の魔物はアイゴンの周りにはいないんだよな。


『魔素を吸い取られるから嫌なんじゃない?』


 なるほど。

 じゃあ、このままアイゴンをその辺で増やし続ければ魔物はいなくなるのかもしれないな。


『そうでしょうね。でも多分”主”には効果ないんじゃないかしら。

 ”主”がいる限りは魔物も延々と増え続けるでしょうし』


 いたちごっこ……

 元を断たなければだめか。


 それじゃ、そのためにはやっぱりアイゴンを移動させるしかないな。

 うっかり踏むわけにいかないし。


「レオン、どうだ?」


「ボン爺、なんで来たの? ちょうど良かったけど」


「庭仕事が終わったからな、様子を見に来た。なんだ? 魔物が増えとるじゃないか!」


「そうなんだよ! さっきあの大きかった魔物が分割して増えたんだ」


 ボン爺にアイゴンの事を簡単に説明して、早々にあの空き地へと移動させる事にした。

 魔物が寄ってこないのを良いことに、手分けして15匹のアイゴンを森の奥まで移動させていく。

 優しく、慎重に……慎重に転がすこと約1時間。

 俺たちは魔物から襲われることもなく、かつて回復ポイントだった泉のある場所へ来た。


 泉は本当に姿を消していた。

 だが、良く見ればもと泉があった場所の中央部分にはまだほんの小さな水たまり程度の水があった。

 以前の様な輝きはあまりない。良く見れば光っている程度だから反射かもしれないし、ただの水たまりの 可能性の方が高い。


 これから増える事を予想して、アイゴンをなるべく空き地の中央へ移動させていく。

 と、一匹だけ勢いよく転がり水たまりに入ってしまった。


 しまった! やばいっ! ショック死……


・・・・・・


 結論から言うとアイゴンが死ぬことはなかった。

 むしろ、水たまりに入った瞬間に表面のドロドロが溶けていき、たくさんある目玉の周りが薄緑色の表皮が見えてきた。

『鑑定』をすると、スキル『呪い』が消えている。



『えっ? うそ!』


 何が?


『あのアイゴン、話しかけてきたの!……”ありがとう”だって』


 え?どういうこと?


『ちょっと待って!……魔素ばかり吸ってドロドロになって苦しかったみたい。それが取れて嬉しいんだって』


 それじゃ、他のアイゴンも水たまりにいれてやらなきゃ。


 ボン爺にルッカが言った事を話すと、手分けしてアイゴンを水たまり付近へ運び、小さな水たまりに1匹ずつ転がしてやった。


 15匹のアイゴンを全て綺麗にしてやると、アイゴンは自分からコロコロと転がった。

 ……本当は動けるんだ。吸った魔素のせいであの姿になって動けなくなっていただけなのか。


『みんなありがとうって喜んでるわ。良い事をすると気分がいいわねー』


 そうだな、なんだか良かった。


 アイゴンはコロコロ転がると水たまりに集まって行った。

 すると、水たまりが徐々に大きくなり、倍ぐらいの大きさの水たまりになった。

 さらにアイゴンが水たまりに集まり……水たまりはみるみるうちに2mくらいになっていった。

 アイゴンは水たまりに入ったり出たりを繰り返している。


 ……どういう事だ?

 ボン爺も不思議そうに呆然とこの現象を見ている。


『この水がとても気持ちがいいんですって。それと、吸収した魔素から戻したもの、まぁつまりは浄化された空気を泉に提供したんですって。私達への”お礼”だそうよ?』


 うん、あんまり意味が分からないな。


『そうね。私達には分からないけど、このアイゴン達はなにか本能的に分かるものがあるんでしょうね。

単純な気持ちしか伝わってこないから、詳しい事を知るのは難しいかも』


 ボン爺へアイゴンの行動の説明ものの、やはりボン爺も「今一つ分からん」と不思議そうな顔のまま首をかしげていた。


 とりあえず泉も復活しそうだし、アイゴンはいい奴だと分かった。

 水たまりの水は、アイゴンの表面のドロドロした物を落としても澄んだままだった。


 『鑑定』すれば以前と同じ『神の作りし泉(泉)』と表記されている。


 神様しょうじょは今どこにいるんだろう。

 ぼんやりと泉を見ながら、しばらく会えないと言っていた神様しょうじょの事を思い出していた。

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