61.ルッカ
え、可愛い!
『えっ!?』
可愛い可愛い!
マジかよ超可愛い!!
『えっちょっと待って!』
昼間は冷たくしてごめん。
幽霊だし声だけだし、怖かったっていうか。
だけど本当にごめん!
『はぁ。
・・・人間の男って子供でもそうなのね。』
いやいやいやいや!
そういうわけじゃ
『え? じゃあどういう事?』
あからさまに不機嫌になっていったエルフの少女。
しくじった。
初動レスポンスを間違えた。
この子の場合、脳内での会話が可能。
というかそれしかできない。
しかも今は俺の夢の中だから煩悩スパークな状態だ。
この少女にははっきり言って嘘がつけない。
その結果、見た目でいきなり態度が変わるという最低なアピールをかましてしまった。
『あーあ。出てくるんじゃなかった。
日中声だけで話かけ続けた方が良かったわ』
なんかごめん。
多分誰でも同じ対応だったと思うけど。
でも、夢で会えて良かったよ。
・・・でも気分悪くさせたのは謝るよ。
えっと・・・もう成仏しちゃう?
『うーん、成仏? して欲しい?
出来ればしたいけど、うまく行くかなぁ。
あなたに最初に話しかけてからその後ずっと話しかけても上手くいかないし、何回かもう消えようとしたんだけど出来なかったのよね』
そうなんだ。
『そうなのよ』
生前思い残したことは?
『あー、あるようでないかなあ。
私も200年くらいしか生きてなかったからまだこの世界に未練はあるわ。
だけど私の住んでいた村は人間とあの蛇に滅ぼされて家族はもういないし』
なんと200歳!
もう充分じゃね?
『は?』
あ、嘘。ごめんなさい。
俺、人間だからまだ9歳だしさ。
その前も17歳で死んだしなぁ。
『えっ? どういう事?』
おっとぉーーーーーーーーー!
そうか、俺は君に対して嘘がつけないのか。
いや、前世の話だよ。
17の時に事故で死んだんだ。
『前世?・・・って何?』
生まれてくる前の人生ってこと。
『私、そんなのおぼえてないわ。』
ああ、普通はそうだよ。
俺は前に死んだ時、神様に会って記憶を持ったまま生まれ変わる力をもらってきたんだ。
『へー。それいいわね。私もそれがいい。』
じゃあ、成仏するしかないな。
可愛い女の子に会えたのにもうお別れとは残念だが。
『あなた結構というかかなり正直すぎるわよ』
思念で話してるから本音だだ漏れな件は謝るよ。
だけど男も女も頭の中で考えてる事なんて変わらねーよ。
君だってイケメン・・いや俺のアニキを見たら絶対惚れるだろうし。
『イケメン・・? あなたのお兄さんがかっこいいって意味?』
そうそう!
俺も将来はかっこよくなるけど。
『あなた、見た目の話ばっかりね。』
前世で苦労したからな。
天然美少女の君にはわからないさ。
『はぁ。私達は種族的に確かに美形が多いらしいわ。
でもそのせいで人間に攫われたり血を抜きとられたり、生きるのがとても大変だったの。
人目につかないように魔物の多い森でひっそり隠れて暮らすのは決して楽じゃなかったわよ!』
そうなんだ。
ごめん。
『ま、私はもう死んでるわけだし。
こうして正直な人間の話が聞けるのも何だかスッキリしてて悪くないわ。』
う、うん。
ポジティブに捉えて貰えると助かるよ。
『じゃあ、私はこれから成仏出来る様に頑張るわ。
そして私も神様に記憶を持って生まれ変わる事にする』
そうだな。
俺は友達が増えたみたいで嬉しいけど、君は幽霊だもんな。
成仏頑張ってくれ。
・・・はぁーあ、成仏しちゃうのかよ。ちくしょー。
『あなた、成仏して欲しいのかして欲しいのかどっちなのよ』
うおおおおおおおおおおおおおお!?
クッソォーーーーーーーーーーー!
ごめんっ、成仏して欲しいけどして欲しくない!!!
『もう、ワケわかんない!』
俺もわからねぇ!
君の事を考えたら成仏して欲しいけど、俺の事を考えたら成仏して欲しくない!
『それって、私の事が好きってこと?』
わからねぇよ、会ったばっかだし。
いや、嘘だ! 好きだ! 超可愛いし、・・好きだ!
エルフっ子、大好きだぁあああ!
でも俺にはメイというこれまた可愛いうさぎ娘がいるんだあああああああ!
『あなたって、本当に最低ね』
俺だけが最低なわけではない。
エルフ娘よ。
誰だって同じ気持ちになるはずだ。
だが、何だかこの後も話せば話すほど彼女には最低という烙印が刻み込まれていった。
『もういいわ。
とにかく私は成仏出来そうならするし、それまでは暇つぶしの話し相手って事にしましょう。』
エルフ少女の名はルッカといった。
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ふわあああぁ。
「おい、寝不足か。
今日はかなり先に進めるぞ」
「うーん、寝たんだけど寝た気がしない」
「子供はしっかり寝ないと成長が止まるわよ?」
まじか、俺は高身長イケメンになる予定なのに。
あんま夢でルッカとお喋りする訳にはいかないな。
『そういえばあなたはまだ子供だったわね。
気をつけるわ』
ありがとう。
でもルッカは退屈なんだろ?
『そりゃあね? でも蛇の中にいた時よりはマシよ』
そっか。
領地への帰郷の旅は楽だった。
人の往来のある舗装された道に魔物の影もドゥルムの追っ手の影もない。
俺も馬の乗り方に慣れてきて、行きほどのケツの痛みも無い。
ダサい座布団は必須だけど。
夕方にはまだ早いが到着した町で、早めに休む事になった。
あくびが止まらない俺を配慮してくれての事だろう。
ボン爺とディアーナには早く休む様に言われた。
宿に着くと俺はメシを食う間も無くベッドに入り込むとすぐに眠ってしまった。
その夜はルッカは夢に出て来なかった。