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56.義憤


 走る馬に乗りしがみつくこと小一時間。


 追いついた。

 数メートル先でボン爺とディアーナが岩の陰に屈みこんでいる。

 父上がいるのか?!

 アイリーンを上手く止められずに結局派手に落馬する形になったがそんな事はどうでもいい。

 すぐに起き上がって走った。


「ボン爺! 父上がいたの?!」


「……あぁ」


 そこには、見るも無残な姿の父上がいた。

 両足と片腕を無くし、頭にも打撲痕がある。

 血を流し過ぎたのか顔も体も青白くなってしまっている。



「そんな……こんなことって」


「辛うじて弱々しいが息はある、だがな……」


「えっ」


 生きてる?!


「魔法で出血は止めたが……駄目かもしれん。おいっどこへ行くんだ!!」


「ボン爺!父上の腕と足探してくる! あれば多分治せるんだ! 父上をお願い!」


 前に蛇で試したから元に戻せるのは分かっている。

 しかも父上はまだ生きている!

 ボン爺の返事を待たずに『鑑定』を発動しつつ駆け出した。


「私も探すわ!」


 ディアーナも周辺を探しに一緒に走り出してくれた。


 足はすぐに見つかった。

 父上が倒れていた場所近く、少し山に入った所に両足を見つけた。群がっている虫と土を払い落とす。腕は無い。

 だが、探し回っている時間がない。

 腕はディアーナに任せ、両足を抱えて父上の元に戻りすぐさま『回復魔法』をかけた。


 父上を淡い緑色の光が包み込む。


 ……上手くいったのか。

 ボン爺が父上のボロボロに汚れた服を脱がし、魔法で水をかけて血と汚れを流すと、見た目は傷跡もなく元に戻った様に見える。良かった、くっついた。

 だが、意識はない。


「父上、大丈夫かな」


「血を流し過ぎたんだ。しばらく様子をみるしかない。」


「ボン爺、俺、腕も探してくる!」


「付近に無ければ諦めろ。食われた可能性が高い。ガルムは、あの状態でここまで這って来たんだろう……

腕の一本なかろうが生きてさえいりゃマシだ。山の中に何がいるかわからん。ディアを呼び戻せ」


「……うん」


 再び『鑑定』で腕とディアーナを探す。

 ディアーナは山中の足があった付近の草をかき分けて探しているところだった。

 やっぱり、腕はどこにもない。


「ディア、ありがとう。……腕は、もういいよ。魔物に食われたかもしれない」


「そう。あなたのお父様は……騎士だったのでしょう? 剣を振るう腕が無いのは……辛いわ。」


「うん……でも敵が、強い奴がこの山にはいるかもしれない。深追いは……止めよう。足は治せたから。」


「……そう。」


 言葉少なに岩場に戻るとボン爺が焚火を作りテントを準備している所だった。


「ここはかなり祠に近いからもっと距離を取りたいが仕方ない。ガルムの意識が戻るまでしばらくここで様子見する」


俺たちは交代で父上の容体を見ながら見張りをしている。

不気味な程に魔物がいない。『鑑定』を持ってしても。

そして静かだ。


「魔物、いないわね。あなたのお父様は一体何にやられたのかしら……」


 分からない。

 ここの魔物は気配どころか『鑑定』も阻害するのだろうか?

 だとしたら厄介どころじゃない。危険過ぎる。


 身動きする事なく日が沈み、夜になった。

 暗くなれば余計に焚火は目立つが父上を冷やす訳にはいかない。

 小さな焚火を作り、ずっと番を続ける。


 魔物どころか大した動物もいないので、ボン爺の作った野草のスープとパン、小さなトカゲを焼いて食った。


 夜も大分更けた頃父上の意識が戻った。


「う……」


「ねぇ! 起きたわ!」


「父上!」


「う……レオン……?」


「父上っ……そうだよ!」


「……レオ……私は、死んだのか」


「馬鹿が。まだくたばっとらんわ。しっかりせい」


「うぅ……ボンか……?」


「そうだよ、ボン爺もいる! ディア、俺の剣の師匠も。皆で助けに来たんだ! 」


「たすけ……? レオ……こんな……所へ、か」


「血が足りんか……もう喋るな。もう少し休め」


「スープ、飲めるかしら。少しでも飲んだ方がいいわ」


 父上の体を少し起こし、一口ずつスープを流し込みまた寝かせた。


 まだ話す力がない。

 だけど意識が戻ってくれた事に安心する。


 父上のステータスを見る限りは大丈夫だ。

 だけどHPは少しずつ落ちている。

 瀕死の状態だと『回復魔法Lv6』じゃ完全回復までは出来ないのか。

 様子を見ながらもう少ししたらまた『回復』をしよう。


 今夜は風がないな。

 焚火の火のパチパチという音ぐらいだ。

 このまま、何事もなく夜が明けて欲しい。

 せめてあの巨大オロチ以上の魔物が現れなければ、なんとか凌げる。


 俺たちの不安をよそにその夜は静かに何事もなく過ぎていった。


 明け方になりもう一度回復魔法をかけると父上は上体を起こせるほどになった。

 食事も少しずつ取れているし、話も出来る様になった。


 胸がいっぱいで上手く父上と話せない俺の変わりに、ボン爺が落ち着いた声で話かけ

 父上から事の次第を聞き出している。


「にわかには信じがたいが……ありがとう。

 命を捨てるつもりで来たのだが、こうしてまたお前たちに会えるのは嬉しいものだな」


「バカが。死んだら終わりだ……それでお前を殺そうとした魔物は今どこにいる?」


「ハハ。ボンの口癖が出たな……魔物じゃない。魔物よりもタチが悪い」


「魔族か」


「いや……人間だ」


人間だって……?


「賊か」


「あぁ……ドゥルムの息のかかったな。私は、やつに騙されたんだ。ほ…ゴホッ…祠に付いた途端、一斉に切りかから……」


 ドゥルム、去年のパーティーでいけ好かなかったジジイだ。

 あの馬鹿皇子の手紙にもあったな。繋がっている。

 そうか、そういう事か。


「賊はまだこの辺にいるのか?」


「分からん。祠の付近にかなりの数が潜んでいた。私の死が目的ならもういないかもしれないな」


「父上! 父上は、いつ奴らにやられたの!?」


「昨日だ。祠に到着してすぐに後ろ手から襲撃を受けた。我々はこの辺りまでは逃げてきたのだが、数が多かったな。だが、私の油断が招いた事でもある。私の失態だ」


「昨日……」


「まぁ、タイミングが良かったな。おい、ガルム下らん事は考えるなよ? お前だけでも生きていたんだ。それでいい。」


 昨日か。

 ……昨日の昼も夜も凄く静かだった。

 大人数が山中を移動する気配も音も無かったし、ここまでの道中は賊の一人とも出会っていない。

 という事は、まだ祠付近にいるか、反対方向へ移動したか、だ。

 父上を倒した後にすぐに立ち去ったとしても方向は王都だろう。

 追うか。

 だが、父上をまだ動かしたくはない。


「ボン爺、魔物がいないって分かったからちょっと探索してくる。」


 俺は父上に聞こえないよう小声でボン爺の耳元に告げた。


「……まだ賊がいるかもしれん。気を付けろよ」


「わかった。大丈夫だよ、ボン爺とロイ爺に鍛えられたからね」


 テントをそっと抜け出し、俺は山の中へ入って行った。

 木の中を飛んで進むのは得意だ。すぐに祠付近についた。

 『鑑定』を使えばすぐにわかるぜ。ドゥルムの息のかかった賊が20人。


 追う手間が省けた。


 父上の話を聞いてから、何だかずっと身の毛が総毛だっている様な感じが止まらない。

 静かに賊のステータスを確認していく。弱い。あんな奴らに父上はやられたのか……どんな状況だったのだろうか。

 奴らの会話によると明日にはドゥルムの部下が報酬を渡しに戻ってくるらしい。


 明日か。


 じゃあ、今日の夜には死んでもらおう。


 俺だって奇襲は得意なんだ。

遅くなってすみません。

寝落ちしてました。

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