54.重力魔法
2日目の夜。
昼前には岩だらけの道も終わり既に山道に入っている。
道もない山道では馬を引きながらの徒歩となり、昨日のような順調な旅とは行かなかった。
だがこの山を越えるのが最短ルートらしい。
俺たちは父上からの手紙を受け取りすぐに行動した。
俺の元に手紙が届くまでに3日と考えて、その分をロスとしても父上も騎士団を引き連れて討伐に行くまで多少の時間がかかっているはずだ。
だから父上が北の山脈に到着するのに間に合うんじゃないか。うまく行けば先回りが可能かもしれない。
山の中は暗く昼間だろうが魔物もかなりいて、足を止められる事もしばしばあり3人で魔物退治をしながら進む旅になっていた。
とうとう二足歩行の魔物と対面した。
カエルのような肌の青緑色の魔物、ゴブリンだ。
二足歩行だし人型と言えなくもないから魔族かと思ったが、『鑑定』では『魔物』と表示された。
強くはない。
だがこいつらは複数で行動し連携プレーも仕掛けてくる。
弱いが魔法も使ってくる。
それが日中延々と続いたんだ。
こいつらによる足止めはいたかった。
「魔物が多過ぎる」
とボン爺もイラついていた。想定外だったようだ。
そこまで大きな山ではないから、予定では今日中に山を越えて北の山脈まで一気に進むはずだった。
だが結局未だに山の中だ。
「こんな所で野営するつもりはなかったが仕方ない。」
暗い山の中で夜になるとどうにもならない。
馬達もいるしな。
火を焚いてテントの周りに罠を仕掛け、交代で眠る事にした。
今のところ近くに魔物はいない。
夜の山中はとても寒い。
焚火にあたり警戒しながら、ステータス画面を開く。
昨日と今日で、実際に旅をして必要だと気付いたスキルを取っておくつもりだ。
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レオン・テルジア(9)
職業:テルジア公爵の長男
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『ステータス』
Lv: 19
Hp:153
Mp: 96
『スキル』
・短剣 Lv3
・剣術 Lv3
・火魔法 Lv3
・水魔法 Lv3
・風魔法 Lv3
・土魔法 Lv3
・回復魔法Lv6
・狙撃 Lv4
・鑑定 Lv5
・身体強化Lv7
・暗殺 Lv3
・隠密
・暗視
・言語能力(自国語)
・言語能力(ベネット語)
・言語能力(ダグロク語)
・算術 Lv5
・礼儀 Lv4
・貴公子Lv3
『ユニークスキル』
・繰り越し
『エクストラスキル』
・魔力強化
・ポイント倍増(10)
『所持ポイント』
833197P
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この1年程で自力で上げるか地味にポイントを使った。
魔法はレベルを上げすぎると消費MPが激しく増えるところが難点だからまだ上げてない。
『魔力強化』のおかげでLv2〜3でも今までそんな困らなかったというのもある。
昨日と今日、実際に旅をして必要そうなスキル、北の山脈についた時に必要そうなスキルを考えると
今取っておきたいスキルがこれだ。
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『重力操作魔法Lv1〜10』1000P〜512000(ポイント)
『気配察知』 5000P
『マップ』 10000P
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『重力操作魔法』と『気配察知』はただの『スキル』
『重力操作魔法』はレベルありのマニュアルスキルで、『気配察知』はオートスキルだ。
火水風土の基本魔法はだいたい抑えたから、そろそろ次に行きたい。
重力魔法は便利そうだし戦闘にも使える。
『気配察知』は言わずもがな。
今日は特に敵に奇襲かけられる事が何度もあって『鑑定』だけだと無理がある事に気付いたんだ。
『マップ』はユニークスキル。
旅に出ると、地図があった方がいいからな。
ポイントもそんなに高くない。
さて『重力操作魔法』なんだけど・・・
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『重力操作魔法Lv 1』 1000
『重力操作魔法Lv 2』 2000
『重力操作魔法Lv 3』 4000
『重力操作魔法Lv 4』 8000
『重力操作魔法Lv 5』 16000
『重力操作魔法Lv 6』 32000
『重力操作魔法Lv 7』 64000
『重力操作魔法Lv 8』 128000
『重力操作魔法Lv 9』 256000
『重力操作魔法Lv10』 512000
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もういっその事MAX取っちゃうか?!
いや、待てよ、『回復魔法Lv6』ですらMP消費が激しいんだ。
レベルMAXは今の俺のMPに耐えられる代物じゃない気がする。
ここは・・・・6と迷うけど7にしとこう。
どうせ将来的にMAX目指すんだし、ポイントもあるしそんな違いはない・・はずだ。
スキル取得を終えると、早速四方からの気配を感じてゾワっと鳥肌が立った。
・・・なんだ、トカゲじゃん。驚かせんなよ。
『鑑定』で確認すると、雑魚のトカゲが大量にいるだけだった。
『気配察知』は慣れるまでは落ち着きそうにない。
”ON” ”OFF”機能付きで良かった。
『マップ』はかなりいい。
頭の中に地図が浮かんでくる。
自分のいる現在地が分かるから目的の北の山脈までの距離も分かる。
良スキルだ。
さてと、お楽しみの『重力魔法』を試してみるか!
その辺にいたネズミに向かって靄がかった黒い魔法を放つと、それに当たった瞬間にネズミはペチャッと潰れた。
怖っ。
俺が森での修行でやられた時みたく動きが鈍くなるか止まるかだけだと思ってた。
ちょっと触れただけで潰れるとか・・・・・・・・・
良かった、俺、重力魔法使って体軽くして飛ぼうとか馬にかけて軽くして持ち運ぼうとか考えてたんだよ。
多分出来るはずなんだけど、自分と馬に使わなくて良かったーーーーー
しばらくトカゲで実験していると、突然悪寒が走り鳥肌が立った。
敵だ!
『鑑定』を使うまでもなかった。
バカでかい蛇の頭が俺たちのテントの上に現れたんだ。
えっひとつじゃない?!
頭が何個もある!!!!
もう蛇は怖くない!
怖くないけど、・・・・・トラウマなんだ!!!
咄嗟に最大出力で『重力魔法』を蛇の頭に思い切り放った。
パァンッ
と音を立てて蛇の頭が弾けた。
肉片と血の雨が俺に向かって降り注いだ。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
頭を一つ潰された巨大オロチはまだ生きていて、むしろ怒っているが、そんなの関係ねぇ!!!
パニック状態で残りの頭を燃やしたり力任せにぶった切っていると、俺の叫び声で飛び起きたボン爺とディアーナにぶん殴られた。
「うるさい!何やっとる!」
「やだっ汚いっ! 信じられない!! 最低!!!」
だって、・・だって蛇が。
「はぁっ? なにこの蛇。ちょっと大きすぎない?」
だろ? 分かるだろ俺の気持ち。
巨大オロチの死骸にディアーナも驚いていたが、もっと驚く事が起きた。
死骸が突然白く光って消えた。
そして、消えた場所には白いガラス玉みたいな丸い石がコロリと転がっていた。
「えっ・・・?」
「おお!」
「え?」
まるで宝石のような綺麗な石だ。
「ダニエル、よくもまぁ殺せたな。コイツはこの山の主だ。相当強かったはずだぞ。」
「え?・・そうなの? 俺・・びっくりして無我夢中で・・・」
「まぁいい。良くやったな。あれはオーブだ。この辺りの魔物の長みたいなもんの証拠だ。
明日からの旅が楽になる。良くやった。ダニエル、いや、レオン。一人前だ」
ボン爺は俺の頭に軽く手を置くと「それでも、今後も油断はするなよ」と小さく渋い声で呟いた。
「ボン爺・・・」
「ちょっと待って! この汚れどうしてくれるのよ!」
ディアーナにはテントと周辺を汚した事に酷く怒られた。
そしてこの時を境にディアーナから距離を取られてしまった。
魔法で水を出して浴びたけど、匂いが取れなかったんだ。