52.出発
夜、ロイ爺にこれからの事を頼んだ。
ロイ爺はいつもと変わらぬ涼しげで余裕の表情だった。
「ディアーナ殿がうまく言ってくれたようです。
メイもずいぶんと修行に燃えておりましたぞ。
モルグ族はもともと狩猟民族ですから、折を見て手の空いている時にでも少し鍛えておきましょう。」
・・・メイもアサシン化するのか。
ちょっと怖いな。メイは容赦ないからな。
夜が明ける前、メアリに起こされた。
「危険な旅だと聞いております。どうかご無事で。」
メアリと抱き合い、最期の身支度をする。
メイは、・・・・・残念なことに昨夜の大泣きで疲れて眠ってしまったらしく
メアリが起こしても熟睡しきっていて起きなかったらしい。
これは後で絶対に泣くな。
メイが可哀想だ。
俺はメイに簡単な手紙を書き、メアリに託した。
持って行く荷物は多くない。
薬草と割れないように包んだ魔法薬、去年城下町の武器屋で買った爆竹に煙弾。
爆竹と煙弾はこっちで遊ぶつもりで買ったけど使ってなかったな。
何かの役に立つかもしれないから一応持って行こう。
ボン爺から貰った魔石のネックレスの上に旅服を着る。
いつもの服に比べると本当にゴワゴワするな。マントまで羽織るとちょっと暑い。
剣はデカくて邪魔だから背負う事にする。
クナイは服のあちこちに仕込んだ。
ナイフは腰だ。
鏡で見ると、まだ着慣れていない感じで変だな。
でもカッコイイ。イケてる、俺。
階下に降りると使用人みんなが起きて待機してくれていた。
一人一人抱き合い、別れの挨拶をする。
みんなの優しさが嬉しいけどなんだか寂しい。
「あれっ? ディアーナ? 」
ディアーナの髪が茶髪になってる。
メアリみたいだ。
「ああこれ? ロイさんにやって貰ったの。いいでしょ?」
と、ディアーナは自分の髪を軽く引っ張ってウィンクした。
「ロイが?」
「ホッホッホ。まやかしです。
レオン様も髪の色が目立ちますから、同じように致しましょう。」
ロイが軽く俺の頭に手を置いて、俺に鏡を渡してくれた。
「へぇっこうやってやったのね。すごいわ!
ねぇ、これ魔法でしょ? 私も自分で出来る様になりたいわ。」
「ホッホ。そうですなぁ。長年身を隠して生活していると出来るようにもなりましょう」
ロイとディアーナがなんだか盛り上がっている。
鏡を見てみると、父親譲りの俺のオレンジ色の髪がただの茶髪になっていた。
「これからの旅の間、お二人は身寄りのない姉弟という事に致しましょう。
ただし、だいたい10日程でまやかしは解けます。
お気を付けなさい」
「10日より前に倒して帰ってくるわよ。
レオ、身分を隠して行くのに偽名は必要よ。
・・・そうね、私は”ディア”、あなたは”ブラン”っていうのはどう?」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはちょっと」
ダサい。ディアーナのセンスも碌なもんじゃないな。
「そうですなぁ、”ダニエル”というのはどうでしょう?」
「長いわね。ま、私はそれでもいいわ。ダニーって呼ぶわね。」
「え、それもちょっと、、、、、、、、」
「もう、めんどくさいわね。じゃあ”ダル”って呼ぶ?」
俺は野球選手か。
「いや、そうじゃなくてもうちょっとカッコイイ名前がいいんだよ。」
「さ、そろそろ行きましょう。ダニー!」
ディアーナは有無を言わさず俺を引っ張って家畜小屋へ向かった。
「ボンさん、宜しく! あと、私達は姉弟ってことになったから。
私はディア、そして弟のダニエルよ!」
「ダニエルだと?」
「私が”ブラン”って付けたらこの子が嫌がったのよ。
それでロイさんに名付けて貰ったってワケ。 ダニーでいいわよ」
ディアーナの姉っぷりが既に発揮されている。
そしてダニエルに確定してしまっている。
クソッ!!! 腑に落ちない。
レオンの方が絶対カッコイイのに。
「あのジジイ、やっぱりいけすかねえな。
おい、ダニエル。お前は絶対に死ぬなよ!分かったな!」
ダニエル確定か。
なんかもう既に帰りたくなってきた。
俺達は出発した。
予定より少し早く、まだ日が出る前だった。
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ボン爺が先頭、ディアーナが後ろ、俺が真ん中という体制で馬を進めている。
旅に必要な荷物はだいたいボン爺とディアーナが持った。
俺は自分の荷物だけだ。
まだ馬をうまく乗りこなせていないからな。
しかも俺だけなんだかダサイ座布団みたいなものがくくりつけられている。
すごく恥ずかしいが、慣れない人間が長時間馬に乗っていると尻や足が擦れて痛くなるらしい。
・・・・・・・・・・・・・
確かにその通りだ。
ケツが痛くなってきた。
だけどまだ、乗り始めて4時間くらいしか経っていない。
絶対にディアーナに馬鹿にされる。
ここは我慢だ。
ケツの痛みに耐えること数時間、
後ろからディアーナが近づいてきてパンと水の入った革袋を渡された。
「朝食よ。昼食は少し行った先で食べましょう。」
そういうだけ言うと、ボン爺にも食料を渡しに行き元の隊列に戻った。
マジかよ。
ケツが痛いのにこのまま食事って、、、、、
・・・・・・・・・・・・・・・・
ケツの痛みが麻痺してきた。
俺はもう駄目だ。
だが、ディアーナに笑われる。
そういえば、ディアーナが街で砂漠の人みたいな恰好をしていたのって髪を隠したかったんだな。
ロイ爺に髪色を変えて貰った今は、普通に少し顔を隠すくらいにしているし。
”身分を隠すには偽名が必要”ともナチュラルに言ってた。
ディアーナって、何を隠しているんだろう。
いや、ダメだな。
俺は貴公子。
淑女のプライベートを探るのは良くない。
なんか微妙にディアーナの秘密を知ってしまっているがそれは俺のせいじゃない。
『鑑定』のしわざなんだから。
あ、そういえばロイ爺の魔法。
あれ、多分『スキル』にあったぞ。
俺は、『ログ』を唱え『本』を開く。
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『ユニークスキル』
『偽装』:500000P
説明 :変身願望が叶います☆ ※本人のレベルに依存します。※
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説明はやっぱりふざけてるけど、多分これだ。
俺、今829232Pあるから取れる事は取れる。
便利そうなスキルではあるし、取っておいて損はないかもしれない。
だけど、50万ってのはかなりいたいな。
この旅の途中でも狩りはするだろうけどどのくらいポイントが稼げるかは未知だ。
ロイ爺が10日って言ってたから、それまでは保留しよう。
『本』を見ていると、ケツの痛みの気がまぎれることに気が付いた俺は
昼食までひたすらスキル図鑑を眺めていた。
ケツの痛みと引き換えに馬酔いしたのはいうまでもない。