48.課題
『身体強化Lv7』はとんでもない代物だった。
まず、軽く走っただけで自動車並みのスピードが出る。
思った以上に体が早く動いてしまうのだ。
同時に周りの人の動きがやけにゆっくりと感じられて、メイを捕まえるのも一瞬で出来る。
メイは不思議現象にキャッキャと喜んでいるが、俺は怖い。
木刀は羽のように軽く、手に力を入れると砕けてしまった。
これはまずい。
またもやしくじったか。
師匠から貰った剣を壊してしまった事への罪悪感もあり
俺はボン爺の元へ走った。
いや実際は歩いていったんだが、徒歩なのに以前の俺が走るよりも早いんだ。
「ボン爺、どうしよう!
ディアーナからもらった剣を壊しちゃったよ。殺される!」
「おお、見事に壊したな。お前さんどうやったんだ。
とにかくこれは、、もう直せん。
素直に剣の嬢ちゃんに謝ってこい」
ボン爺は役に立たなかった。
俺は恐る恐るディアーナの元へ向かった。
「ディアーナ師匠、ごめんなさい。剣を壊してしまいました」
「えっ!?
ちょっとどうしたらこうなるのよ!
剣を大切にしない奴は死に値するわ。」
うわ、マジかよ。
「・・・ふーん。・・・まぁ、だいぶ使い込んでいたものね。
いいわ。ちょっと街まで買に行きましょう。
レオはもう馬に乗れるでしょ?」
「えっでもまだ屋敷の外に乗りに行った事がないよ?」
「まーでも、行くしかないでしょ。メイも行く?」
「いくいく! メイも行きたい!」
なんだか良く分からないが、ディアーナ、俺、メイの3人で街まで買い物に行く事になった。
馬に乗って外に出るのは初めてだ。
ディアーナは砂漠の旅人のような目以外は布で覆った服装でメイを乗せて先導し、
俺はおっかなびっくり馬に乗って出かけた。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
街はそこまで遠くはなかった。
王都の城下町ほどではないが、街までの道のりも綺麗に舗装されており
清潔感のある、明るく活気のある街だった。
街に入ると、ディアーナはメイに露店の飴を買ってやり
目的の武器屋へまっすぐに向かった。
武器屋には、品数は少ないものの色んな剣があった。
「そろそろ、木刀は卒業して真剣にしましょう。どれがいいかしら・・・」
「重くてもいいから丈夫なやつがいいな!
成長期だし、長く使えそうなやつ!」
俺も『鑑定』で品定めをしよう。
なんでもいい。
なんでもいいんだ。
この店で一番丈夫なやつ・・
頼むぞ、俺の『鑑定Lv5』!
-----------------------
『グランダ鉱石の剣』500ナリュ銀貨
素材(刃):グランダ鉱石
素材(柄):グランダ鉱石
重さ :20kg
長さ :1.2m
説明 :グランダ鉱山より多く採掘される石。
硬度が高いが、重く扱いにくい。
力の強いグランダ族用に作られた剣。
-----------------------
これだ。
パッと見、石斧かっていいたくなるほど武骨なデザインの剣を手に取ってみる。
軽い。
全然重くない。
でも、力を入れて握っても大丈夫だ。
「ディ・・師匠、俺これがいい!」
ディアーナからは街に入る前に、名前を言わない様に言われている。
ディアーナは色々と訳ありだな。
「は? そんなダサイのがいいの?
ちょっと貸してみなさい」
ディアーナは俺から剣を受け取ると、細腕で軽々しく振り回した。
ディアーナも十分化け物だな。
「あなたみたいな子供が使うにはちょっと重たくない?」
「大丈夫だよ。僕は毎日鍛えてるから見た目より力があるんだ。
これなら、壊れないよ。これがいい!よく見たらカッコイイし!」
「・・・・ふーん。メアリも言ってたけど、あなた少しはセンスを磨いた方がいいわよ。
でも、気に入った剣を使うっていうのは大事なことよ。・・あとで後悔しないでね?」
「大丈夫!」
ディアーナが剣の代金を店主に払うと
「さ、行くわよ!」
と、メイを抱き上げるとすぐに街を出た。
・・・・初めて来た街だったから、もっと探検したかったぜ。
しばらく馬を走らせたあと、屋敷近くの広い草原でディアーナが止まった。
「少しここで慣らしましょう。レオ、剣を抜きなさい!
・・メイはちょっと遊んでてくれる?」
「えーーーーーー。わかったぁ!」
ディアーナは馬から飛び降り、早速剣を抜いた。
メイも馬から飛び降りると速攻で捕まえた虫を片手に鳥を追いかけまわしはじめた。
俺も馬から降りて、買ってもらったばかりの剣を出した。
「あの、剣の儀式はやらないの?」
「あれは、師弟の儀式だから最初だけ。
さ、行くわよ。」
そういうと、ディアーナは一瞬で俺の目の前に出た。
早い!
俺は慌てて剣で攻撃を受け止めた。
木刀と違って、しっかりと受け止める事が出来た。
ディアーナは屋敷の庭の時とは違い、生き生きと攻撃を仕掛けてきた。
さっきまでの、『身体強化Lv7』にビビっていた俺とはなんだったのか。
ディアーナの動きははっきり見えるし、よける事も受ける事も簡単だ。
い、いまだ!
一瞬のスキを見つけ、俺はディアーナに切り込んだ。
「あれ?!」
当たらない。
ディアーナの動きは見えたのに。
俺の動揺に関係なく、
気が付けば、後ろ、気が付けば上からディアーナが攻撃を仕掛けてくる。
「レオっ! いつもより動きが良いわよ!
次からはここを稽古場にしましょう!」
「うわっ! 待って、ディアーナちょっと!」
「真剣で模擬戦が出来るなんて久しぶりだわ!」
聞いていない。
ディアーナの横なぎを受けつつ、次の攻撃の為に距離を取る・・・そこだ!
俺はディアーナの後ろに回り込み、攻撃を仕掛けた。
感動だ。
ディアーナに1本とれるなんて!
「え?」
ディアーナの背中に剣が当たるかというところで
ディアーナは横に飛び瞬時に体を翻して俺に足払いを仕掛けてきた。
慌てて飛んで避けた。
その瞬間にはディアーナは後ろに回り込んでいる。
おかしい。
ディアーナは『身体強化Lv5』だったはずだ。
俺よりも低いレベルなのに。
俺は必死だった。
何度も隙を見つけては剣を振るった。
当たらない。
当たらないぞ・・・。
・・・俺の方が動きは速いのに。
・・・・・・・・・・・・ディアーナの攻撃は全部見えるのに。
ディアーナの方が断然、上手だった。
完全に技術の差だ。
結局、くたくたになるまでディアーナの剣を避けるか受けるかだった。
俺からの攻撃は一度も当たる事はなかった。
「レオ、動きが良くなったわ! やるじゃない!
私もこれでやっと対人の修行ができて嬉しいわ!」
ディアーナは嬉しそうだった。
ぐったりした体で屋敷へと馬を進めながら
スキルは使いこなす事が大事なんだと知る事ができた。