45.卒業
王都から帰ってきて、悲しい出来事が起きた。
ミラ先生からの卒業だ。
ミラ先生は、なんと第三子を妊娠していたのだ。
早すぎるだろ。
あの婿養子野郎・・・
3人ともなると
さすがに家庭教師を続けるのは難しいらしい。
俺は何も言えなかった。
王都から帰ってきて最初の授業が最後の授業になるとは。
ミラ先生は俺のお土産の紫色の石が付いたネックレスを早速付けてくれている。
セクシーなミラ先生にとても良く似合う。
できればそのローブの下に付けているところを見せて欲しかった。
「レオン様、今までありがとうございました。
優秀なレオン様に教える事はもう数少なく、
それもレオン様ならご自身で学べると思います。
いつか、私の家にも遊びに来て下さいね。」
ミラ先生は、屈みこんでおれに優しく話してくれた。
ミラ先生の胸が目の前に、、
だめだ、最後の最後で変態だと思われたくない!
余計な事を考えるな!
俺は顔を上げてミラ先生の顔を見る。
ミラ先生が俺を心配そうにのぞき込んでいる、その表情を見たら
すんなりと言葉が出てきた。
「寂しいです。先生がいないと僕は勉強なんて出来ません」
カッコよく笑顔でミラ先生を送り出すことが出来ない。
だって急過ぎるじゃないか。
「レオン様、ごめんなさいね」
ミラ先生は少し悲しそうに眉を下げた。
ああ、俺はワガママを言って大好きなミラ先生を困らせているんだ。
「・・・ごめんなさい。寂しくて先生を困らせました」
「私も寂しいわ。レオン様」
ミラ先生は俺を優しく抱きしめてくれた。
ミルクのような甘い香りがふわっと俺の鼻を刺激した。
ミラ先生はやっぱり柔らかくて、あったかかった。
鼻の奥がツンとなり、涙が溢れてきた。
俺たちは泣きながら抱きあって涙の別れをした。
ミラ先生の乗る馬車が見えなくなるまでずっと見送った後、
メアリが言いにくそうに言った。
「ミラ先生のお屋敷はここからさほど遠くありませんから、
・・・今度遊びに参りましょうね」
は?
それ、早く言ってよ!
正門の所で泣きながら手を振っていた俺の始終を見ていたディアーナが笑いを堪えていた。
メイは涙を流す俺にひっついて純粋に心配してくれていたというのに!
ディアーナはあれから少しだけ肩の力が抜けたようで、よく笑うようになった。
稽古の厳しさは相変わらず変わらないけど。
だけど、それでいいんだ。
2年後に、家族の為に俺は誰かと戦う事になるかもしれないんだ。
覚悟は決めたんだ。
ディアーナは少しだけ自分の話をしてくれた。
あの剣はディアーナの母親の剣だったらしい。
自分の家族に会えたようで嬉しかったと。
ディアーナの母親は、おそらくもういないのだろう。
だけどそんなことを聞くのは野暮だ。
あれから常にディアーナの腰に帯びている。
それだけ大切な剣だったんだろう。
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ミラ先生の授業がなくなり、
俺の心にもポッカリと穴が空いた。
その穴を埋めるために、しばらくは裏庭のSASUKEでトレーニングをしたり
馬の世話をした。
ミラ先生の婿養子への怒りをぶつけるように、
夜の修行では、あの人型にクナイを叩きつけた。
何度も、何度も。
人型の急所などもう把握している。
ロイ爺は嬉しそうだ。
「いつの時代も、失恋とは人を成長に導くスパイスですな」
なんてひどい事を言うんだ!
俺は人型から100mは離れている木の上から人型の脳天を吹っ飛ばした。
「エクセレント!
さあ、次は背後から心臓を貫きなさい」
やってやるぜ!
俺は木から木へと静かに飛び移りながら照準を当て、
勢いを付けて投げ、人型の心臓を突き刺した。
「宜しい!
そろそろ、動く敵が欲しいですな。」
そう言うと、ロイ爺は魔法で土人形を作り走らせた。
「ちょっと待って!
むしろそっち! それゴーレムでしょ?!
そっち教えて!!!」
「こんなつまらぬ魔法、独学で空いてる時間におやりなさい。
さあ、走り回る敵の急所を狙うのです。
狩りの始まりですぞ!」
ロイ爺はノリノリになるほど発言がおかしくなる。
だけど、狩りか。
そうだな!
面白そうだ!
要は昼間の森の狩りと同じだし
今は夜だけど、ここは安全な庭だ。
武器はクナイのみ、魔法は使えない。
しかも今は使って良いクナイの本数は3本までという縛りがある。
昼間は遠くの的には魔法を使うかナイフの射程距離まで近づいてから殺す方法を取っている。
投げ道具だけで動く的の急所を叩くのは難しいな。
だから俺は観察した。
的が広く見えるタイミングに掛ける。
ザグッ
心臓、いや逸れたか、、、
動かれると面倒だ。
俺は、ゴーレムの足を狙ってクナイを刺した。
おっ思った通りだぜ!
ゴーレムがよろけたところで心臓に刺した。
「よろしい。
まずまずといったところです。
クナイ1本で仕留められるまでやりますぞ!」
この後、夜中に庭で大量のゴーレムを仕留める俺の姿を見たものは、、、いないな。
ロイ爺の訓練は続く。
俺、、、、立派なアサシンになれそうです。