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44.ディアーナの剣

ボン爺の特訓は、屋敷の外へと移行していた。



「時間が無い」



それが、最近のボン爺の口癖だ。



ボン爺は王都で予言を残していったあの魔女を知っている。

だから、ボン爺のその言葉を聞くたびに俺も身が引き締まる。



屋敷の外に広がる広大な森まで徒歩で行く。



近所だろ?




俺が大量に襲われた蛇のいるあの森なんだ。




昼間は大して危険な動物も魔物も森の奥深くまでいかなくてはいけない。




ここでの修行内容は、




”何をしてもいいから狩りをする事”




自分で獲物を見つけ、ナイフか魔法か体を使って殺す。




ここでもボン爺は見ているだけだ。




ヒヤっとする事があっても、決して手を貸してはくれない。




自分で、やらなきゃいけない。





獲物探しは『鑑定』を使ってるから楽勝。

動物や魔物の名前と年齢?が出てくる。



こんな感じだ。

------------

ガプリノシシ(1)

職業:動物

------------

------------

ダークドランガ(8)

職業:魔物

------------


正直、年齢ではなくレベルを表示して欲しかった。

動物によっては何歳からが成体なのかがわからない。



例えば、ガプリノシシ(1)は、俺の見た感じただのイノシシだ。

1歳なのに体長1m位のデカさで強い。




ダークドランガ(8)は手のひらサイズのトカゲみたいなやつだ。

黒か灰色か藍色、たまにまだら模様もある。

総称してダークか。

こいつはこの森の至る所にいるからしょっ中『鑑定』に引っかかるんだよ。

1歳だろうが8歳だろうが20歳だろうが弱い。




それでも動物か魔物かだけでも教えてくれるのはありがたい。

たぶん”職業”じゃないと思うんだけど、鑑定の仕様は大ざっぱなんだろう。




そう。



さらっと言ったが、この森での獲物はこれまでの特訓で倒してきた動物だけじゃなく、魔物もいる。




魔物との対峙はもっとセンセーショナルな出来事になると思っていたが、

普通にその辺に平気でいる。



寝転んでいたり、歩いていたり、隠れているだけで、

見た目も動物とパッと見はあまり変わらない。




目が何個もあるとか頭が何個もあるとか、手足が多いとか逆に少ないとか、そういう違いだ。

想像すれば分かると思うけど、だいたい臭くてグロくてキモい。



頭が3つに分かれている5メートルほどの蛇を木のうろに見つけた時は、

驚きすぎて見た瞬間に全ての首を切り落として速攻で焼いてしまった。



魔物の代表格であるスライムはまだ見かけていない。

ボン爺に聞いたところ、スライムは主に湿地や沼地に生息しているようだ。



魔物はだいたい夜行性が多いから、昼間の修行の時間帯は動きは鈍いし寝ているかだから

倒すのは簡単なんだ。



奴らの活動時間帯の夜になると、強さが100倍にはなるらしい。

そして活発な魔物たちは魔法を使ってくる事もあるらしい。



この辺に大量にいるトカゲ、夜には会いたくないな。




俺は、昼間である事を最大限に活かすために、倒した魔物ごとの急所を記憶していった。




父上からもらったプレゼントのナイフは修行によって大分使い込まれ、

柄の部分は既に色んな血で薄汚れている。

だけどナイフの手入れは毎日しているから、刃こぼれもなく切れ味は良い。



かつてボン爺にエモノを体の一部と感じるまで使いこめと言われた通り、

今では獲物をどの位の距離で、どの位の強さで刺せばよいのか切れば良いのかが分かってきている。



ナイフに剣、クナイ。

武器のタイプや使い方はそれぞれ違うが、全てを使いこなる様になってやる。





予想以上の能力にも気づく事が出来た。



魔法だ。




魔素の濃いこの森の中では、俺の魔法はかなり強く発動できる。

今のレベルで直径で約2×2mの大きさの魔法を発動できた。



獲物を火だるまにする事も出来るし、小さい獲物なら水や土を出して窒息させる事も出来る。


地面を動かして獲物の動きを制限させる事も出来る。


逆に襲いかかって来られた時は風魔法を使って吹っ飛ばす。




かなり便利だ。




MPが限られているから使うタイミングは考えなくてはいけない。



俺はなるべくナイフだけで殺す事にして、

一発で殺れなかったり獲物が複数の時、逆に襲われた時に魔法を使った。



MPが余った時はボン爺監督のもと、魔法の練習だ。

最初はとにかく最大でぶっ放すだけ。



「魔法も繰り返し使わにゃいざって時にうまく使えん。

 工夫すればなんだって出来る便利なモンだが、まずはいかに早く発動させるかだな。」




強くなれてきている、と思う。





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



数週間たった。






ディアーナとの訓練は、素振り、型の練習に加えて

メイとの模擬戦が取り入れられていた。





メイとの模擬戦は独特だ。





メイはモルグ族特有の身体能力の高さがあるが、力はあまりないみたいだ。

だからまだ剣は重たくて使えない。

もう少し大きくなれば使えない事もなさそうだが、そこはまだ4歳。


そうだよな! 俺だってずっと棒を使ってたんだ。




俺との模擬戦の為に、ボン爺が手製のナイフをメイの為に作ってくれた。




メイはを片手に一つずつ持ち、俺は木刀で戦う。





メイはとてもすばしっこく、しかも本能が働くのか俺への攻撃も妥協がない。




爛々と輝く獲物を見る目で嬉しそうに俺に襲いかかってくる。




俺は可愛いメイに攻撃を仕掛けるのもためらうというのに。





「ハッハッ・・ハァッ!」



「いてっ! 待って、待ってメイ!」




今もビシッガシッと嬉しそうに俺の首元を狙って攻撃されている。

メイを攻撃できない俺は、自分の首を守るのに精いっぱいだ。



「はいっ!またメイの勝ち!

 5ー0よ、レオ!

 あなた隙だらけよ!もっと動きなさい!」



「ハァッハァッ・・・やったー!!

 にーに、よわぁーーーーい!!!

 ディアー!! メイ、またかったよー!!!」



メイは大喜びで俺に抱きつくとすぐにディアーナの元に走り、

ディアーナにも抱きついてモフモフの耳を撫でられている。




そういえば俺、ディアーナに頭撫でられるほど褒められた事がないな。







クソッ・・どっちも羨ましい!









・・・・・・・・



「おい、坊ちゃん」



稽古が終わり、メイと2人で飼育小屋近くで顔を洗っていると、ボン爺が納屋から出てきた。




「ほれ、出来たぞ。剣の嬢ちゃんに渡してやれ。」




ボン爺の手には、漆黒の刃が綺麗なみごとに研がれた剣があった。




あの時の朽ちていたボロボロの剣だ。





「カッコイイ・・・・」




「だから言ったろ、あれは掘り出しモンだと。」





ドヤ顔のボン爺に礼をして、剣を受け取ると

一人剣の修行をしているディアーナの元へと走っていった。





「ディアーナ! これっ! 王都のお土産!」





集中して修行をしていたのを邪魔されて

少しイラついた顔で振り返ったディアーナは、俺の持つ剣をみて固まった。







「それ・・・・・どこで・・・?」






「王都の城下町だよ。ボロボロだったんだけどさ、

 ボン爺が強く勧めるから買ったんだ。

 見てよ! ボン爺にこんなに綺麗にしてもらったよ! すごくカッコイイだろ?

 この柄のところ、ディアーナの髪と同じ赤い石が付いてるんだ。

 この石はかなりいい魔石だって店の人が言ってたよ!」




「ボンさんが・・・?」





ディアーナは、ポツリとつぶやくと幻でも見ているかの様な表情で目を大きく見開いたままゆっくりと近づき、俺から剣を受け取った。



いつもはしなやかで動きも機敏なディアーナの腕が、少し震えているように見えた。














ディアーナはかなり長い時間、受け取った剣を凝視していた。















そして天を仰ぐように顔を上げると、ディアーナは剣を胸に抱きしめた。
















顔は見えなかったけど、頬に涙が伝うのが見えた。











夕日の光が当たって、キラキラと綺麗な涙の粒が地面に落ちていった。















ディアーナは泣いていた。
















今、ディアーナに声をかけてはいけない。












俺は『何も』見ていないんだ。
















俺は静かにディアーナから離れた。




















「ありがとう・・・・」
















遠くで小さくディアーナの声が聞こえた様な気がした。

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