41.第三の師匠
その日の夜遅く、寝たフリをしていた俺はベッドから起き出してロイ爺を探しに廊下に出た。
ロイ爺の凄い能力の一つは、ロイ爺に会いたいと思って探していると必ず現れるところだ。
会いたくない時も現れるけどな。
主に背後から。
だから今はなんとなく分かる。
3年前、蛇に襲われたあの日、ロイ爺はわざと俺を見逃したんだ。
一度、俺に怖い思いをさせようとしたんじゃないかと思っている。
良く考えればロイ爺はボン爺と仲良しだもんな。
「おや、レオン様。私に何か用ですかな。」
ほら来た。
「ロイ!ロイに買ったお土産を渡したかったんだ。」
「それはそれは。このロイは嬉しいですぞ。
さて、お土産とは何ですかな?」
「・・・あのさ、みんなには秘密なんだよ。
だからここじゃちょっと。」
「ホッホッ。秘密とは、なんとも芳しい響きですな。
どれ、レオン様のお部屋にでも行きましょうか。」
「うん、そうだね。・・待って!ロイの部屋がいいな!行ってみたい!
ロイの部屋ってどこにあるの?」
「ほう?良いですぞ。ここから近いですからな。」
俺氏、長年の謎の一つが解ける!
ロイ爺に付いて廊下を数歩行くとただの壁の前でロイ爺が振り返り、にこりと微笑み指を口に当てた。
「レオン様、秘密ですぞ?」
そう言うと、ただの壁の前にドアが現れた。
俺が驚いて言葉を失っているとロイ爺が言った。
「ホッホ。簡単なまやかしです。」
俺たちはロイ爺の部屋に入った。
ロイ爺の部屋はとても簡素なものだった。
ベッドとソファー、小さなテーブルに机、本と酒の瓶が置かれた棚、それだけだった。
それなのにどこにあったか、俺がソファーに座ると目の前にティーセットが登場し
気付けば俺の前に温かい紅茶が置かれた。
「今の、どうやって出したの?」
「ホッホッホッ。ただのまやかしですぞ。
さて、それでも紅茶は本物。
今日レオン様が皆にくれた王都の美味しい紅茶です。
では、私にくれる秘密のお土産とはなんですかな?」
「・・そうだった」
これ以上聞いたところでどうせはぐらかされるだけだ。
本題に行こう。
俺は持っていた包みを膝の上で開けた。
「これだよ!」
そう、クナイだ。
「ほう、これは。なかなか良い材質ですな。
ブラックドラゴンとは。
このように高価なものを私に下さるのですか?」
「良く分かるね!王都の武器屋で見つけたんだ。
ロイに似合うと思ってさ。
ねぇ! ロイ、良かったらやって見せてよ!」
「ほうほう?・・良いですぞ?
でも確か秘密のはず。昼間ではマズイですな?
では、今からお見せしましょう。」
ロイ爺はにこりと微笑むと、すぐに踵を返し俺を連れて外に出た。
・・・・3年ぶりの夜の外だ。
旅疲れと数時間前までディアーナにひたすら走り続けさせられた疲れからかなり眠かったはずなのに、とても目が冴えていた。
秘密だらけで神出鬼没、無駄話は一切しないし用が済んだらすぐ消える、
そんなロイ爺が俺に部屋を見せてくれるわ話に乗ってくれるわ・・・
こんな事は初めてだ。
真っ暗な庭を、ロイ爺が歩くと俺たちの周りだけ明るくなった。
これもまやかし、いや魔法か。
俺は『暗視』を持ってるけど、
周囲を淡く照らすこの明かりは暗闇が軽くトラウマだった俺にとってありがたかった。
ロイは、現在俺のSASUKEとなっている、過去の曰く付きの裏庭に足を運んだ。
「さて、あの木にしましょうか。」
ロイ爺は一つの木を指差した。
「幹を傷つけたりしては、後でボンに嫌味の一つも言われましょう。」
ロイ爺は、目当ての木の側まで歩いていくと、
「レオン様、今からこの枝とこの枝とこの枝を落とします。
良く見ていて下さいね。」
指差しながら俺に的となる枝を教えると、今度は木からどんどん離れて裏庭の端にまで歩いて行った。
ざっと200mは離れている。
ロイ爺は優雅に歩いているだけの様に見えたのに、あっという間に移動していた。
これも、魔法なのだろうか。
ロイ爺は立ち止まると、俺に向かってクナイを持ったまま手を振った。
これから投げるという合図だろう。
一瞬だった。
ロイ爺は軽くひょいっとクナイを投げただけなのに、
そう見えたのに、
たった一つのクナイで全ての枝を突き落とした。
どうやってやったのか分からない。
クナイの軌道さえ見えなかった。
音も立たなかった。
枝を落としたのクナイは木の幹に突き刺さってもいないし、地面にも落ちていなかった。
「どうでしたか?」
「うわぁぁああっ!・・・だから、驚いかさないでよ!」
気が付けば、俺の背後にいるロイ爺。
「ホッホ。なかなかうまく落とせましたかな?」
ロイ爺の手にはさっき投げたはずのクナイがあった。
「す、すごいよ!
すご過ぎて・・・・良く分からなかったよ!
っていうかロイ爺!そのクナイなんで持ってるの?!」
「ホッホッホッ。
・・おや、なぜ私の手元にあるのでしょう?
まやかしですかな?」
「もう!ごまかさないでよ!?
ロイ、魔法使ったの?
ねぇ!!僕にも教えてよ!!」
「それは困りましたな。
教えるのはやぶさかではありませんが、なにせこのプレゼントは私と坊ちゃんだけの”秘密”ですからなぁ。
私がレオン様に教えられるのは今日の様な夜中になってしまいましょう。」
「いいよ!教えてくれるなら夜中でもいいから教えて!
僕、強くならないといけなくなったんだ。」