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38.城下町3

ボン爺も俺もずっと黙り込んでいた。


店が薄暗くて良かった。

突然降りかかった俺のというか、

俺の家族の暗い未来を知って苦しくて泣きそうだった。


さっきまで能天気に城下町を探索していたのが懐かしく思えるほどだ。


・・・


店の外が騒がしい。


さっきまでの裏道は、街の表側と違って暗くてジメジメしてそして静かだったのに。


バタバタと人が走り回る足音と「待て!」だの「捕まえろ!」だの物騒な声が聞こえる。


ボン爺も気付いているようだ。


「ねぇ!ボン爺、外に出てみようよ!」


「バカ野郎。ああいう騒ぎはやり過ごすに限る。どうせ面倒事だ。」


「いやだよ!誰かが死んだりしたらどうするの?

 ボン爺は強いじゃないか!

 もし誰かを見殺しにしたら、後ですごく後悔するよ!」



・・・先に言っておこう。

俺はこんなセリフを吐くような人間ではない。

ましてや物騒な物事に首をつっこむなんて考えられない。

前世は運悪く不良達ヤンキーどもの餌食になったが、殴られない様に必死にパシリストを目指していたんだ。

こんな薄暗い裏道から聞こえる明らかにヤバそうな物音と声だ。

絶対碌な事がない。

ボン爺の言う通り、ここで素知らぬ振りをしてやり過ごすのが賢明だ。


しかし、俺の中に眠る謎の野次馬根性なのか正義感なのか、

その時は、自分でもなぜこんな事を言ったのか意味が分からなかった。


本能だったと言った方が近い。


その時の俺は、どうしても外に出なくてはいけないという確信に近い何かに突き動かされたのだ。


俺はボン爺が持っていた酒の入ったコップを奪い取ると腕を引っ張り背中を押し、

面倒臭そうに顔を顰めるボン爺を促して店を出た。


外はなんともカオスな光景だった。


狭い路地を5人位の俺より小さい子供が数人逃げ回り、それを汚いおっさんが2人で追いかけていたのだ。



なんだ?食い逃げか?



子供達はまだ小さく、すぐにおっさんに捕まっていく。


「まったく、油断も隙もねぇ。ガキだと思って油断したな。」


「まぁ、すぐ捕まって良かったぜ。おい数は足りているか?」


「うん?おいっ一人足りねぇ!しかもモルグ族のガキがいねぇ!」


「バカっ大切な商品だぞ!モルグ族はあの中じゃ一番高いんだ。」



おっと、、こいつは物騒な話だ。

多分、このおっさん達って奴隷を売買するタイプの人種なんじゃないか?


・・・・・・



・・・・・・


実は、今現在の話なのだが、


俺の後ろのボン爺のマントの中に一人の子供を匿っている。


俺達が店から出ようとドアを開けた時に、子供が一人飛び込んで来たのだ。

そして、ボン爺にぶつかったところを

即座にボン爺が長いマントの中に隠したのだ。


正直、食い逃げくらいだったら何かの縁だし俺は金持ちだし

代わりに払ってやろうかなくらいの事を考えていた。


でもこの逃げ回っていた子供達、奴隷だったのか。


奴隷なんて初めて見る。

俺より少し小さいぐらいの子供ばかりだったぞ。

今まで領地で箱入り暮らしだったから知らなかったけど、

この世界は奴隷がいるんだ。

魔物だけじゃなくて、人間も危険なんだ。


今隠れていた子供、余計出すわけにいかないな。


おっさん2人は、捕まえた子供たちを手際よく縄で縛り、

そして裏道を隅々まで探したが見つけられなかった。


そりゃ見つかるはずないぜ。

ここにいるんだから。


おっさん達はその場に居合わせた俺達にも疑いをかけてきた。

当然っちゃ当然かもしれないが、旅人風の老人と子供の二人連れの様相に完全に甘く見られてたようで、虫けらを見る様な目で俺たちを詰問してきた。


だが、ボン爺は素知らぬ顔で「見ていない」と言った。


即座におっさん達はボン爺にナイフを突きつけて、

マントの中を見せろと強要し、無理やりマントを開けた。


あれ?


いない?


一体どんな手品を使ったのかボン爺のマントの中にいたはずの子供はいなかった。


おっさん達は舌打ちをすると、俺たちがいた店の中をドタドタと探し回ったあげく

大通りに行ったかもしれないとぶつくさ言いながら去っていった。


しばらくして、ボン爺は何事も無かった様に歩き出した。


「ボン爺!待ってよ。今の・・・」


「無駄口を叩くな。ちょっとついてこい。」


そう言ってさっさと歩いて行ってしまった。

俺は呆然としながらも小走りで着いていった。


ボン爺は表通りと裏通りの境にある古臭い宿屋に入って行った。


そして部屋を取り、中に入った。


俺も続いて中に入った。


部屋の鍵を閉めると、ボン爺はマントの中に持っていた袋の中からさっき匿った子供を取り出した。


えぇっ!?


「ボン爺、その袋・・・」


「うん?こりゃ魔法道具マジックアイテムの一種だ。便利だぞ?

 貴重なもんだから、わしが死ぬまではお前にはやらん」


「ま、魔法道具マジックアイテムだって!? ひ、人もはいるの!??」


「おい、今はその話じゃないだろ。

 とりあえず、成り行きで一人助けてしまったがどうするかの。」


袋から取り出された子供は、汚い布を頭からかぶっていた。


しかも、どうやら漏らしたらしい。


子供が袋から出たとたんに部屋になんともなアンモニア臭が立ち込めた。


「ありゃ、やっちまったか。

 坊ちゃんちょっと待っとれ。そこの風呂場でこの子を流してくる。」


そう言って、ボン爺が子供の被っていた布をはがした途端、出てきた。


アレが。


出たんだよ。


アレが!


マジで!!


俺は驚愕で言葉を失った。


子供は、5歳くらいの女児だった。

栄養が足りていないのか、ガリガリだ。

それに、腕や足には縄の跡もあって痛々しかった。


だけど、


それじゃなくて、


そうじゃなくて、


あったんだよ。


女の子の頭に


白くてフワフワな



『 ウ サ ミ ミ 』 が !!!!!!!!



俺は目を開けたまま、軽く意識を失っていたらしい。


ボン爺がドアを開けっぱなしの風呂場で、ウサミミ娘の頭から水をぶっかけているのをじっと見ていた。


水をかぶる度に頭に生えた耳がピョコピョコ動いた。



H O N M O N O だ !



部屋にはまだ、アンモニア臭が残っていた。

俺は思い切り深呼吸して部屋の空気を吸い込んだ。


ボン爺は洗い終わると袋から布をだして、裸でずぶ濡れのウサミミ娘に投げた。


急いで布をかぶるウサミミ娘。


俺は、ただ黙ってここまでの工程を終始ガン見していただけだった。


ボン爺は、平坦で穏やかな口調でウサミミ娘に話しかけた。


「おい、大変だったなぁ。」


ウサミミ娘は小さな声で「たすけてくれてありがとう」と言った。


その後、ボン爺に優しく促されて、ぽつりぽつりと話し出した。


住んでいた村に突然悪い奴らが来て捕まった。

いつもは縄で手足を縛られているが、

明日商品として売り出される子供だけ縄の跡を付けない様にゆるく縛られていた。

みんなで縄をはずして逃げたがその子以外は捕まってしまった。


「おねがいですっ!ほかのみんなもたすけてくださいっ!」


ウサミミ娘が涙目でボン爺と俺に懇願した。


そんなの、当然じゃないか!!!


「もちろんー」


「いや、それは残念ながら無理だ」


「「なんで!!?」」


俺とウサミミの声がかぶった。


ボン爺によると、

先ほどの路地裏での騒ぎがあったから、

あの奴隷商人たちはおそらくもうこの街を出てしまっているだろう。

それに奴隷商人というのはこの世界ではかなり多いらしく、今からだと特定が難しいということらしい。


「そんな・・・」


ウサミミがペタンとしょげた。

大きな目にみるみる涙がたまっていき、ボロボロと流れ落ちていく。


胸が苦しい。

この子は怖い思いをしていたはずなのに泣いてなかった。

一人助かっても喜びもせず曇った表情のままだった。

それなのに他の子供達を助けられないと知った途端に泣き出してしまったのだ。


「まぁ、でもあんただけでも助かって良かったじゃないか。

 さて、これからどうしたもんk」


「ボン爺!この子を領地に連れて帰ろう!!!」


後のボン爺の話によると、

この時、俺の目はとても真っ直ぐで純粋に澄んだ綺麗な瞳をしていたらしい。

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