30.パーティー
あれから本当に目が覚めて眠れなくなった。
兄妹のスキルから、神殿の事、国の事を考えていったが・・・分からない事だらけでやめた。
そのうち、パーティーの事を思い出して不安になってきた。
父上によれば、兄と妹も明日のパーティーに来るらしい。
あのイケメンと兄弟として参加するんだよな。
そしてあの美少女と兄妹として参加するんだよな。
・・・・
今のままじゃまずいかな。
少し俺を底上げしておこう
俺は、静かに『貴公子Lv3』を取得した。
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パーティー当日の朝が来た。
開宴は夕方なのだが、昨日と同じで朝から大忙しだ。
今日はとにかくハンナが俺の側を離れない。
「お支度の前まで、直前まで頑張りますよ!!」
おぇぇぇ。吐きそう。
「旦那様と奥方様と昨日話をしまして、レオン様はダンスもなし。
簡単な自己紹介のみで、後は旦那様か奥方様がなんとかしてくれます!
8歳ですから、、、両親に付きっ切りでも、何とかなるでしょう。
いいですか、旦那様と奥方様から離れない様に!決して!
分かりましたね。」
ハンナからの信頼がトイレットペーパーより薄い。
夜のうちに、『貴公子Lv3』を取ってみたんだけど、どうかな・・・?
・・・ハンナの様子をみる限り、どうやら変化はなさそうだ。
でも、ありがとうハンナ。
絶対に両親とは離れないぜ!
時間はあっという間に過ぎた。
風呂に入り、香水みたいのを付けられ、昨日決めた服を着て、髪を整え・・・・
貴公子レオン様の完成だ!
俺は緊張する気持ちを抑えて、両親と共に馬車へと乗り込んだ。
馬車では母上が俺の手をずっと握ってくれていた。
王都に向かう時に遠くに見えた王城は、近くで見るとやっぱりデカかった。
白い外壁には汚れ一つ見当たらず、新築の様だ。
これも魔法によるものなのだろうか。
もう日も落ちてきているというのに、辺りは幻想的に光が舞っておりとても綺麗だ。
これも魔法か。
魔法、すごいな。早く魔法の練習がしたい。
さらに近づくと、煌びやかなドレスを着た、いかにもなお貴族様たちがぞろぞろいるのが見えた。
うむ。
母上が一番綺麗だな。
馬車から降りると、係の人っぽいのが何人か寄ってきてそれぞれが声を張り上げた。
「テルジア閣下がご到着された!」
「テルジア閣下並びに奥方リリア様、御子息レオン様の御到着!!」
その辺にいた、貴族達が一斉に俺達の方を向いて礼をした。
どうしたどうした!!?
驚いて顔を上げ、両親を見たが
父上と母上はそれを全く気にしない様に優雅に歩いている。
父上がそっと俺の背中に手を当ててくれた。
父上の手は温かく、大丈夫だと言われてたような気がして俺も両親の真似をして歩いた。
姿勢だけはハンナのお墨付きだからな!
両親について姿勢キープに優雅さを気持ち加えてを歩いて行く。
おっと、笑顔笑顔。
ハンナ直伝の胡散臭い笑顔もプラスっと。
両親の存在を認めると、貴族たちがするすると端に寄ってくれるのでスムーズに進む。
パーティー会場と思われる広間に入った。
信じられねぇ。
王都の俺の屋敷も豪華だな幾ら使ってんだ?と疑問に思えるほどだったがその比じゃない。
とんでもなく豪華だ。
体育館並の広いスペースの壁一面が金。
高い天井はステンドグラスで芸術的な模様や宗教画の様な絵が広がっている。
床は大理石にダイヤでも散りばめてるのかってくらいピカピカしている。
そして、そこかしこに並ぶテーブルには旨そうな食い物が美しく配膳されている。
・・・だけどこれ食べちゃ駄目なんだよな。
ハンナからは、いつボロが出るか分からないから飲食を禁止されている。
ひどい。こんなに旨そうな御馳走だなんて思わなかった。
俺、これを食べられないのか。。。
一応、屋敷で軽食をつままされてきてはいるが、成長期の男子の胃袋を舐めないでもらいたい。
あぁ、腹がへってきた。
くそ。
・・・
そうだ!
俺は、脳内で無理やりハンナの言葉をミラ先生に言われたという設定にして妄想した。
『レオン様。レオン様はパーティーの間、お食事を我慢できますね?』
答えはイエス!
よし、頑張ろう!ほんの数時間だ。
広間の中ほどまで来ると、デブで頭髪がやたらテカテカしたおっさんが父上に話しかけてきた。
「おぉ、テルジア閣下。随分とごゆっくり来られましたな。
待ちくたびれましたぞ。
リリア様、ご機嫌麗しゅう。今宵も星の光の様にお美しい。
本日はお会いできて光栄にぞんじます。」
「ドゥルム閣下、お早い参上でいつもながら敬服致します。
私達も見習わなくてなりませんな。」
「ドゥルム閣下、ご機嫌よう。」
太ったおっさんがこっちを見ている。
「閣下、本日は我がテルジア家の次男を連れて舞いしました。
レオンと申します。」
きた。緊張するぜ。
両親からも緊張が伝わるぜ。
「お初にお目にかかります。
私はテルジア公爵家が次男、レオン・テルジアと申します。
以後お見知りおきを。
本日は、歴史にも名高い公爵様、ドゥルム閣下にお会いできて光栄に存じます。」
言えた、言えたぞ俺!
『貴公子Lv3』のお陰なのか?スラスラ言えたぞ!
「おお!ご子息であられたか。
そういえば、噂にはもう一人子供がおられるとは聞いておりましたな。」
「息子、レオンは幼少期より病弱で療養の為に領地にて育てておりましたゆえ、
此度、初めて王都へ呼び寄せたのです。」
「そうであったか。それはそれは・・・だいぶ元気そうなお子であられるな。
療養の成果がでたのであろう。」
「はい。レオンは肺の調子が思わしくなく、領地の自然の多い所で療養させておりました。」
「そうかそうか。光の御子様も月の御子様も神殿でのお勤めにお忙しくあられる。
跡取りとなられるのが病弱のレオン様とは、これはこれは。
さぞかしテルジア閣下も心配であろうな。」
「いえ、レオンには跡取りとなってくれれば嬉しい限りですが、
やはり元気でいてもらえるだけで十分なのですよ。」
「ほうほうほう。それはそれは欲のない事をおっしゃられるな。
歴史にもない例外中の例外で賜った爵位をそのようにぞんざいに考えられますな。
今はレオン様も健康そうであられるではないか。」
なんだか、嫌味くさいおっさんだな。
気持ち悪い声で回りくどい言い方しやがって。
ドゥルム閣下は、俺の事を上から下までジロジロ品定めして満足した後、別の貴族に嫌味を言いに行った。
父上も母上も何も言わない。
それに合わせて俺も黙って姿勢と笑顔をキープする。
色々言いたいけど今は我慢ってことだよな。
親父、お袋、帰りの馬車で悪口大会しような!
その後も貴族数人とイヤミ交じりの挨拶を交わしていると、綺麗な鐘の音が聞こえた。
国王陛下、王妃殿下の登場だ。