24.王都へ 2
2日目の宿泊先となる街に着いた。
馬車から街の外を覗いた感想は、夕方なのにまだ店もちらほらやっている様で、人の出入りも多く楽しそうだ。
食堂や居酒屋らしき店では、明るい元気な声が馬車の中まで響いてきていた。
本日の宿屋の横に馬車を付け、降りて思いっきり伸びをすると、ボン爺の所へ走った。
「ボン爺!街を見て歩きたいよ。連れてって!」
ボン爺からは良い返事がもらえなかった。
「残念ながら、駄目だ。わしも少し用事があってな。
坊ちゃんを連れては歩けん。もう少し暗くなると物騒になるしな」
俺はがっかりして宿屋に入り、部屋のベッドに寝転んだ。
なんだよ、少しくらい街を歩いたり店に入ったっていいじゃないか。
今は魔法の練習も禁止されているし。
くっそー。
ハンナが入ってきた。
ここにきて再度マナーの勉強をするらしい。
ハンナの一問一答が始まった。
地獄に次ぐ地獄だ。
正直なところ、俺は今回のパーティーでのやり過ごし方はもう決まっている。
まず『隠密』があるから存在感を薄くする事は可能だろ?
もし話しかけられたとしても、『鑑定』があるから貴族の名前を覚えてなくても挨拶くらいはできる。
後は目立たない様に隅っこで時間を過ごせばパーティーは無事に終わるだろう。
今まで、同年代はおろか見知った人としか接する機会のなかった田舎屋敷で育った俺がいきなり他人(しかも貴族)と話すのはハードルが高すぎる。
俺の『隠密』の効果が効かないのは、ボン爺、ロイ爺、ディアーナだけだ。
ロクに鍛えてないであろうお貴族様に、俺の気配が分かるはずもないと踏んでいる。
そう考えているから、ハンナの授業は全く必要ないのだが、会話レッスンはみっちり1時間続いた。
げっそりした所にメアリにより夜メシが運ばれてきた。
・・・・食欲がない。
心配するメアリにハンナの愚痴を聞いてもらい早々に食事を終えた。
部屋のカーテンを開き、窓の外を見てみる。
だいぶ暗いな。
遠くの方の一部だけ明るいところは食堂などがあった所だ。
それ以外は街頭がほんの少しだけあるだけだ。
確かに物騒な感じはするな。人気もないし。
ボン爺はどこに行ったんだろう。
居酒屋で飲んでるのか?・・・だとしたらちょっと悔しい。
しばらくぼーっと外を見ていたが、暗くてほとんど何もみえないし
暗闇に紛れた殺人事件を目撃する事もなかったのでカーテンを閉じた。
そうだ、やる事ないし筋トレでもするかな。
ディアーナからも素振りか柔軟はやっておく様に言われてたんだった。
ずっと馬車の移動で体もなまっている。
体を疲れさせた方が良く眠れるだろう。
俺は早速体を伸ばし始めた。
知らぬ間にウトウトしていたようだ。
ボン爺が帰ってきた。
「お、悪いな。起こしちまったか」
「ううん、大丈夫。・・・退屈で仕方なかったよ。」
「そうだろうな。まぁなんだ、すまんな。
今回の旅の目的を考えると王都に着くまでに怪我でもされたらたまらんからな。
領地に戻ったら近くの街にでも連れてってやろう。」
「えー!帰りの時も、街に出ちゃいけないの?」
「うむ。帰りもだいたい街に着く時間は夕方になるからな。
まっ男子たる者ガマンも大事だ。これも修行だと思いなさい。」
あからさまにがっかりする俺に、ボン爺は一つの包み紙をくれた。詫び代わりのお土産だそうだ。
中には透明なクリスタルの様な石の欠片だった。
「小さいし効果は薄いが、魔石といわれるものだ。
ちょっとした怪我でもした時は、それを患部に当てて魔法を出す時みたいに力を込めれば
それで治るだろう。
お守り代わりみたいなもんだ」
なんだか嬉しくなった。
「ありがとう、ボン爺。嬉しいよ。大切にする!」
初めての旅だったから、俺は新しいイベントが起きないか期待していた部分はあった。
ゲームや小説ではこういう時は大抵新しい出会いとか冒険があるから、俺も可愛い街娘との出会いや魔物退治に遭遇する事があるんじゃないかって期待してたんだ。
だけど、拍子抜けするほど何も起きないし、旅先でも俺は箱入りのお坊ちゃんのままだった。
ボン爺の言いつけを守らず、勝手に街に繰り出す事はできた。
でもボン爺を裏切りたくなかった。
そんな弱っちい考えじゃ、物語の主人公みたいになれないかもしれないって思いと葛藤しながら俺は何も行動しなかった。
ボン爺から貰った魔石を見て、俺はそれで良かったと思った。
部屋に入ってきたボン爺が、かすかにホッとした顔をしていたのを見たし、魔石も俺の事を考えて買ってきてくれた物だと思えたからだ。
翌朝早く、馬車は出発した。
今日も馬車では1人だ。
俺は大切にズボンのポケットにしまった魔石を時々出して日の光に当ててかざして見たり、
ポケットに手を突っ込んで魔石を触ったりしながらのんびりと過ごした。
この魔石ネックレスに加工してもらおうかな。
酔い止めの草を噛み、寝転がっているうちに眠ってしまった。
目が覚めて、俺の馬車の近くにいるであろうボン爺に声をかけてみると、
どうやらもうすぐ王都に到着するらしい。
あちゃー、寝過ぎた。
王都が近いと聞くと、途端に緊張感が増してきた。
両親、パーティー、兄妹、不安要素があり過ぎる。
大丈夫かな、俺。