19.身体強化
朝起きると、俺はさっそく最近の日課である腕立て伏せを始めることにした。
メアリは最初は『公爵家の御子息様がお行儀が悪い』と小言を言っていたが、
俺がメアリに、『メアリ、ハンナみたいだよ?』と言ってからは特に何も言わなくなった。
呆れてはいるみたいだが、メアリもハンナとは一線を画したい思いがあるのだろう。
さて昨日『身体強化Lv3』を取得したからな。
どうなるかお楽しみだ。
さて始めるか。
いーち、にー、さーん、しー
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あれ、、、?
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はちじゅーにー、はちじゅーさーん
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・・・あっけなく終わった。
なんでだ?全然疲れない。腕も痛くない。汗一つかいてもいない。
毎日苦しみながらやっていたのに。
メアリが後ろで見ているから100でやめるが、まだまだ出来る気がする。
朝メシが終わり、一度自室に戻ると、もう一度腕立て伏せをやる。
・・・500回やっても疲れない。
どうなったんだ。俺の体。
鏡の前に立ち、服の袖を捲って自分の腕を見る。
筋肉隆々になってしまったのかと思ったが、見た目は何も変わってない。
健康的な子供の腕という感じだ。
『身体強化Lv3』の効果か?
それしか思い当たる節がない。
だけど大丈夫だろうか。
明日辺りとんでもなく筋肉痛を起こしそうな気がする。
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剣術の稽古の時も余裕だった。
木刀が重く感じられないのだ。むしろ軽い。軽すぎる。
発砲スチロールみたいだ。
「お!ちょっとちょっとどうしたのー?
出来てるじゃん、構え!やれば出来るんじゃん。」
木刀が軽くなった事で、構えの姿勢の維持に意識を集中させる事が出来たからだ。
ただ、ディアーナに褒められても嬉しくない。
『スキル』を取得してズルをした様なもんからだ。
「よし、その構えのまま剣を上に垂直に上げていく様に、、、そう!
じゃ、一気に振ってみて!」
何となく嫌な予感がした俺は、かなり力を抜いて木刀を振り下ろした。
『フォンッ』と小さく風を切る音がした。
「上出来!!!レオは才能があるかもしれないわ。
昨日まで構えでもぐらついていたのにね、不思議だわ。何で?」
『スキル』取ったからです、なんて言えない。
俺は、これまで毎日腕立てをトータルで700回やっていた事、それで筋肉痛がひどかったけど
今日は筋肉痛がなかったからだと言い訳をした。
昨日までの筋肉痛は本当だったからなかなか信憑性のある嘘になった。
「へー、自分でも努力してたのね。エライエライ。
それにしても、初振りにしては良かったわよ。このままだとすぐに上達しそうね。
うーん、まずいわ。私も頑張らなきゃ!」
そういうと、俺への指導はどこへ行ってしまったのかディアーナは勝手に自主トレを始めてしまった。
おいおい、ディアーナさん。あんた一応師匠だろうに。
これだからうら若い女子は。
突然の放置に戸惑いながら、俺はディアーナに聞いた。
「あの、ディアーナ、師匠? 僕はどうしたら・・・」
「・・・うっさい!とりあえず素振り100回!
終わったら解散して、よし!」
そう言うとディアーナは高速で腕立てを続けた。
・・・・早えぇ。もう十分なんじゃ。
『身体強化Lv3』は現状ではチート過ぎた。
正直嬉しかったけど、師匠のメンツを潰してしまいそうな気がして
このスキルを取得した事を後悔した。
取るとしてもLv1からにしておけば良かった。
このままでは、あのロープ飛びも出来てしまうかもしれない。
そう思うとなんだか怖くなった。
チートには憧れていたけど、今回のは人の心を踏みにじっている気がする。
ディアーナに気を使って手加減して素振りをするのも疲れる。
それに、ポイントは自分の力で獲得したものだから『スキル』もある意味自分の力といえるが
努力して、頑張って出来る様になるっていう達成感が得られないのも空しい。
昨夜までチートを熱望していた癖に、実際に手に入れるとこんな気持ちになるなんて思わなかった。
『スキル取り消し』みたいな『スキル』は残念ながらなかった。
その代わり『スキル交換』なる『スキル』を発見した。
これは持っているスキルと他のスキルが交換できるって事なのか・・・?
うわポイント100000Pもするのかよっ。
どちらにしろ今の俺にはどうにも出来なかった。
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ロープ飛びが出来てしまいそうな気がすごくして怖くなり俺は馬に会いに行った。
アイリーンの綺麗な毛並みを撫でていると心が落ち着く。
納屋からボン爺が出てきた。
ボン爺は今日は屋根の様子を見に行くから忙しいらしい。
ボン爺訓練は今日はなしだ。
心なしかホッとする。
もしも、ネズミを瞬殺してしまったら・・・いや、それはないな。
俺は未だに生き物を殺すという事に抵抗を持っている。
それに何かしら病原菌を持っていそうなネズミの血を無駄に浴びたくないから
いつもビビりながらやっているんだ。
ボン爺が持ってきた動物なんだからある程度は大丈夫なのかもしれないけど
この世界の衛生面がどの程度なのかいまいち分からん。
そうだ、こういうときこそ書庫に行こう!
俺は動物図鑑がないか探しに行った。
書庫に近づくと背後からロイに声をかけられた。
「おや、レオン様お久しぶりですな。最近は魔法の本はもう良いのですか?」
「うわぁぁぁ!・・もうっロイはいっつも突然だからびっくりするよ!
魔法は、、、出来たけど、出来るけど、出来ないんだよ。
今日は動物の図鑑を探しにきたんだよ。」
「フォッフォッ。それはそれは。それでも毎日練習されているのは良い事ですぞ。
いつの日かきっと役に立ちましょう。そうそう、図鑑はこれなんかどうですかな?」
ロイ爺は自然過ぎるほどさり気なく俺に付いて書庫に入ると
相変わらずの見事な程の優雅な身のこなしで魔法の様に図鑑を手渡してくれた。
おっかなり分厚いな。
「ありがとう。ロイが選んでくれる本なら間違いなしだよ。
じゃ、これ借りてくね!・・・あと、なんでロイ爺っていつも気が付くと現れるの?」
さり気なく日ごろの疑問をぶつけてみる。
「フォッフォッフォッ。それは私にも分かりませんなぁ。私はいつも普通に歩いているだけですぞ?」
ニコニコと言うロイ爺。
何だかごまかされた感じだ。
部屋に戻り図鑑を開くとそれは、
蛙、トカゲ、蛇、ネズミ、ウサギ、キツネ等の小動物の生態と狩りの仕方
それに、それぞれの持つ毒や病原菌などについて絵入りで書かれた本だった。
「・・・・・・」
ロイ爺セレクトの本は俺の知りたい、痒い所に手が届く感じでとても有り難いんだけど、
何だかうすら寒い。
ロイ爺はストーカー並みに俺を知り過ぎている気がする。
俺はロイ爺をいまだに鑑定出来てないってのにさ。
ん?
・・・・鑑定、ロイも持ってるのか?