1.自己紹介
俺は、レオン・テルジア。
テルジア公爵家の次男坊、現在5歳。
よろしくな!
でさ、
突然で悪いが、俺には前世の記憶があるんだ!
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俺の前世の名は、山田 太郎。
俺は、17歳の日本の底辺高校の生徒だった。
底辺高校にありがちな、かなり荒れた学校で、チビでヒョロガリだった俺は入学早々からパシリとイジメに苦しんでいた。
中学では目立たぬ陰キャだった。
アニヲタでドルヲタだった俺は、地味なクラスに少数はいる同類の友人とそれなりに楽しくやっていた。
……あの頃が懐かしいぜ。
誤算だったのは、そんな友人が結構頭が良かったって事だった。
俺はヲタ活動ばかりで勉強の方はからきしだった。
受験できた高校は底辺しかないと知った時には、もう・・
為す術もなく手遅れだったのだ。
高校生活は、入学早々、俺にとっての地獄へと化した。
朝メシ、昼メシ、おやつの買い出し、放課後は不良どもの荷物持ちと化した。
当然、メシ代なんて貰えるはずもない。
夜はパシる為のバイトをこなし、疲れて眠る毎日。
立派なパシリに徹する事で、不良達らからの暴力を免れるだけで精いっぱいだった。
こんな地獄の毎日を送っていたから、趣味のヲタ活動なんて当然の様に出来なくなった。
眠る前に現実逃避として見つけた、無料の小説サイトで異世界の冒険を楽しむ事だけがこの頃の唯一の楽しみだった。
事件は、高2に入って夏休みに入る少し前に起きた。
昨年は、夏休み中も頻繁に不良達に呼び出しをくらい、つらいパシリ生活を送った反省を活かして、
今年の夏休みの間は、”田舎に住んでいる病気の祖母の家の手伝いをする”という嘘を使う事にした。
不良どもの生活圏内や活動時間帯を熟知しているから、
夏休みにばったり出くわす事もないだろう。
ラインでたまにやり取りをする中学時代の友人と夏コミに行く約束もしている。
撮り溜めたアニメだって見れる。
俺は夏休みが楽しみで楽しみで仕方なかった。
そんな、夏休みまであと一週間も切ったある日の事だった。
不良グループの中でも最も凶悪な山本に昼メシに命令されて
冷やし中華をクソ暑い炎天下の中、コンビニに買に行かされた。
走って買ってきて汗だくでハァハァ言っている俺を、突然、山本が蹴り飛ばした。
『おい、箸がねぇーぞぉ!!!!』
コンビニ定員の奴が袋に箸を一緒に入れてくれるのを忘れたのだ。
俺も確認するのをすっかり忘れていた。
『どうやって食えばいいんだよ!ヒョロガリィッ!!!!』
ここ数日の暑さで、山本の機嫌は最悪だった。
俺はクラスのみんながいる教室の後ろでボコボコにボコられた。
・
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夕方、不良から解放された。
鼻血を出し、口の中も切った。右目は目元が青紫に腫れあがりうまく開けられなくなっていた。
一人になった事で、今まで抑えていた悲しみが込み上げてきて涙が出ていた。
しゃくり上げてくるのを必死にこらえながら俯きながら帰り道をとぼとぼと歩く。
「あ……バイト先に休むって連絡しなきゃ」
ポケットからスマホを取り出そうとしたが、
ない。
スマホが無かった。
殴られた時に落としたかもしれない。
つくづくついてなかった。
たぶん教室……かな……。
俺は慌てて、元来た道を走り出した。
その時だった。
目の前に、デカいトラックが飛び込んできた。
俺もトラックもどうにも出来ないくらいの距離だった。
俺は信じられない衝撃で吹っ飛び、そのまま
「あ、死ぬかも」
と思った。
飛んでいる時間はやたら長く感じられ、俺が歩いていた歩道の信号が赤になっておりトラックが悪くない事まで分かった。
だがそれだけだった。
「死ぬ」
という事だけはなぜかはっきりと理解できた。
そしてもう一度、地面に叩きつけられる物凄い衝撃を感じながら、俺は意識を失った。
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熟睡した朝のような、スッキリと爽快な気分で目を覚ますと
俺は白くて映画館の様なスクリーンだけがあるところに一人座っている事に気が付いた。
目の前の巨大スクリーンには俺の生まれた時から幼少期、そしてパシられている映像、トラックに轢かれた時の映像が次々と映し出されていた。
「あぁ……本当に俺、死んだんだな」
俺は焦る事もなくなぜかすんなりと死を受け入れていて、死ぬとこういう所に来るんだなと思っただけだった。
しばらく映像をぼんやり眺めていると、
何もない空間なのに、『ギィィ、ガチャ』という扉が開く音がして
「あぁ、やぁやぁ、お待たせーーーー!」
という元気な女の声が聞こえた。
驚いてて振り向くと、
銀色のキラキラしたワンピースを着た、くるぶしまで届くほどの輝くプラチナブロンドの長い髪の可愛い少女が分厚い本を抱えてこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
扉の音は聞こえたのに、ドアはなかった。
スクリーンと俺、そこに少女がいるだけだった。
呆然としていると、少女はくだけた感じで
でもテキパキと話かけてきた。
「おまたっせ!今日ちょっと死んだ人多くてさ。
あ、ここは死んだ人が一時的に来るトコロです!
えっと、ヤマダ君はー、事故死!です。この度はご愁傷さまでした!
で、えーっと山田君のこれまでのポイントなんだけど2578Pです。
んーーーーー・・・享年17才と2カ月だから、まぁ、平均的な感じだね。
で、マイナスじゃないから天国に行けます。
天国に行ってしばらく遊んでから、またどっかに生まれ変わることが出来るよ。
あとはねー、もういますぐ生まれ変わっちゃうってのもOKなんだ。
生まれ変わる時は持っているポイントを使います。
急でごめんなんだけど、どうする?」
急過ぎだ。
「あ、初めまして……本当に急ですね。
通常は他の死んだ人達はどうしてるんでしょうか」
「うーーーーーーーん。天国行きが多いかなぁ。
まぁ、一つの人生終わらせて疲れたからちょっとしばらくはのんびりしたいってパターンが多いかも。
あ、でもね。
ヤマダ君くらいの年で死んだ子は、生まれ変わるのを選択する人も多いんだよね。最近。
すぐに生まれ変わる場合は、ちょっとサービスで10000ポイントあげてるの☆
えっ?なんでかって?天国の人口抑制策ってトコ。
天国には特に滞在期限がないんだよ。
だから、結構長くいる人も結構多いんだ。
だって天国だからね。居心地良いみたい。」
「なるほど……天国に行った場合は追加でポイントが貰えないんですか?」
「うん。あ、もらえるけど、1000年ごとに10ポイントもらえるくらい」
そうか、1000年単位か。長いな。
じゃあ、10000ポイントは大きい気がする。
「なるほど……ポイントの使い方について詳しく教えてくれませんか?」
「いいよっ。あのね、まず、生まれ変わる先―転生先っていうんだけど―を自分で決められる。
あと、性別も選べるし、転生先で使える能力みたいのも自分で選択していけるんだ。
転生先の世界によっては色々あって面白いよ!」
……死んで無いはずの心臓がドクドクしてきた。
……異世界転生……キタ――――――――――(゜∀゜)――!!!!!!
「生まれ変わります! 俺、絶対に生まれ変わります!!!!!!!」
その後、少女が持ってきた分厚い本(転生先でのカタログ一覧だった)を説明を聞きながら、一生懸命に第2の人生を選んだ。
貰えるポイントは12578P。
すぐに決められたポイントの割り振りはこれにした。
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転生先 :剣と魔法の世界(魔王あり)・・・7000P
出生地 :貴族・・・2000P
性別 :男(長男)・・・50P
容姿 :上の中・・・500P
前世の記憶:あり・・・1000P
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剣と魔法の世界(特に魔法)は必須!
俺だってまだまだ謎の力に夢見る17歳。
憧れてたからな。
貴族、長男、にしたのも楽な人生を送るためのものだ。
俺に成り上がりは自信が無い。
無気力系主人公とか、ダークヒーローってのも憧れるんだけど、やっぱ安定指向の方に重心を置いた。
『容姿:上の中』ってのもなかなか良いチョイスだと思っている。
ま、『上の上』に1500P使うのは惜しかったからさ。
前世の記憶ありって項目があるのはマジで嬉しい。
絶対必須。
俺は頭悪いけど、勉強しなかったからだ。
前世の記憶が役に立つかどうかってよりは、前世のクソな人生を二度と送らない様に
反省を生かすという意味では必要なスキルだろう。
あとは、、、あとは、、、
時間も止めてみたいし、重力を自由自在にもしてみたい!
『ハーレム』っていうやたらモテるスキルも必要だよなぁ!!
とにかく、チート。チート、チートぉ・・・。
「・・・あの、生まれ変わってからポイントを使えることってできますか?」
「あぁ、あるよー。これ『繰り越し』」
ページをパラパラとめくって少女が指をさす。
『繰り越し』:使用ポイントを転生後、またはそれ以降の死後に使用可。・・・2000P
「本当だ……でもこれ使ったら残り28Pしか残らないや。」
残念。
たった28Pを転生先で持っててもな。
「んーー。あっでもさ、これ持ってると転生先で溜めたポイントをその時点でも使えるよ。
頑張ってポイント溜めれば結構イイ感じだよー」
「本当?!ポイントってすぐ溜められるもんなの?」
「そうだねぇ。ポイントが加算されるのは善行についてなの。
今ヤマダ君が選んでる転生先は魔物がいる世界だから、魔物を倒してポイント稼ぎも出来るよ。
魔物退治は善行になるからね。
だけど、魔物って中にはそこまで悪さをするやつじゃないのもいるから、
そういうコ達の虐殺みたいな事をするとマイナスポイントになるかもしれない。
あなたのいた地球でいう、害獣・害虫っていう動物とか虫とかだって
世界を保つバランスの為に必要な存在でもあるワケ。
そういう事だから、ちゃんと考えて行動なさいね」
「そうかぁ。魔物退治かぁ……」
「聞いてる?目ぇキラキラさせちゃってるけど、ちゃんと聞いてる?
いっとくけど、あなたの生きていたニホンよりもよっぽど死にやすい危険な世界なんだからね!
転生後すぐ死んでまたここに来たら、あなたしばらくミジンコみたいな生き物しか転生先ないからね?」
「うん。気を付ける。このスキル、使う。使います!」
「わかった。決まりね!
じゃあ、こっちに来てください」
少女の綺麗で長い髪の後姿を見ながら付いていく。
「*********◇******■□■■******……」
少女が何言か、呪文みたいな言葉をつぶやくと、
『ギィィィィ……』
と、最初に聞いたドアの開く音が聞こえ、
やっぱり何もない空間に、宇宙みたいな空間が現れた。
「さっ!ここに飛び込めば、転生完了です。
頑張ってね。
あとはあなた次第だからね。
・・・次の人生が、あなたにとって素敵なものとなりますように。
加護をささげます」
少女が、手を伸ばすと、キラキラした光が俺を包み込んだ。
……これからの世界にワクワクするものの、この少女との別れにすごく悲しくなる。
「俺……ありがとうございました。
こんなに可愛い女の子と話したの初めてだったし……親切にしてくれて……
どうもありがとう。
俺、向こうの世界に転生しても、ずっと、君のこと絶対に忘れません。
今度は、頑張って……勉強も、剣も魔法も練習して、強くなって、君に誇れる一生にします。
それで、もっと立派になってあなたに会いに来ます。」
「……ぷっ!!!ちょっとーーーー!
”可愛い女の子”だなんて!!!
ぷくくくくくっ……ありがとっ!
私これでも、1000年は神様やってるのよ?
ふふっ。でも、本当にありがとね。
あと、今から死ぬこと考えないでちょうだいね?
まぁ、嬉しいからちょっと強めに加護してあげるっ!
ナイショのサービスなんだからねっ!」
俺は、真面目に言ったつもりだったんだけど、笑われてしまった。
この女の子、神様だったんだ。
そっか、良かった。
こんな可愛い子に人生の最期と最初に会えて。
よし、幸先いいぞ。
頑張ろう。
開いた扉の前で、握手を交わし、俺は一歩ドアに足を踏み入れた。
物凄い力で引っ張られる。
「うわっ! あ、すいません。じゃ、ありがとうございました!!!!」
「うん。いってらっしゃい!がんばれよー!!!ヤマダ君!」
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こうして俺は転生した。