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16.剣の師匠


  あれから勿論ボン爺も『鑑定』した。


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 『ボルガン・エームズ』(60)

  職業:レオン・テルジアの護衛

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 ボルガン爺さんだからボン爺なのか。

 職業も他の使用人と違う。しかも庭師じゃないとか。


 もう少し『鑑定』のレベルを上げないと分からないな。


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 ボン爺の訓練は、しばらくは『蛇を殺す』というものだった。


 ナイフをどう使うかよりも、てきの急所やどうすればスムーズに殺せるかを自分で見つける様に言われた。

 もう二度と見たくもないと思っていた蛇との対峙はとてもきつかった。


 ナイフが滑って上手く切れず、腕に巻き付かれた事もあった。

 蛇の頭を切ったら胴体が顔にへばりついて窒息しそうになった事もあった。

 いきなり飛びかかられてまた漏らしそうになった事もある。


 最終的に、殺した蛇を捌いて焼いて食うこともやらされた。


 半泣きになりながら皮を剥いで肉を切った。

 ボン爺が小屋から持ってきた謎の香辛料をかけて焼いた。


 悔しいほど旨かった。


 それ以外は、時間があったらアイリーンの世話をするように言われている。


 あとは、剣術の授業をもっと真剣に受けろとも言われた。


「剣はわしは使わんが……あれは対人の闘いには向いてるからな。わしが教えられるのは意思疎通の出来ないケモノどものことぐらいよ」


 だから俺は、剣術の稽古の始まる時間よりももっと前から柔軟や走り込みをする事にした。

 毎回稽古の後はしばらく動けなくなるまで、全力でやるようにした。


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  剣の師匠は、かなり若い。

 若すぎるくらい元気いっぱいな感じの女の子だ。


 名前はディアーナ。

 『鑑定』の結果はこちら。


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 『ディアーナ・ハルク』(14)

職業:剣士

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 メアリよりも若い。

 赤毛でくるくるしたくせっ毛のショートカットに日焼けした肌が太陽の下キラリと光る女の子だ。

 可愛いっちゃ可愛いけど。

 胸もペタンコだし、いつもタンクトップに作業ズボンを着ているから少年の様な少女だ。

 ミラ先生のような大人な色気もないし、甘えたくなる様な落ち着いた雰囲気もない。


 正直、剣の師匠といえば傷だらけのくんしょうの残る手練れな熟練戦士とか昔世界で活躍し、今では吟遊詩人にも謳われる伝説の老師みたいな人が来ると思っていたから拍子抜けだった。


 親父ちちうえは一体何を考えてこの少女にしたんだという疑問しか持てなかった。


 俺は『剣の”師匠”』って依頼オーダーしたはずなのに。

 よっぽどボン爺の方が師匠って感じだぜ。


 ディアーナは前世でいえばクラスでもイケてる集団グループにいそうな、とにかく前世の俺とは一生縁のない部類のタイプの女の子だったから、俺は少し苦手意識を持っている。

 

 そんな若い女の子に、『剣を持つなんて100年早い』だの『兎に角まずは身体を作れ』だの言われてもどうしてもやる気が起きなかったのは事実だった。


 いつもディアーナは胡坐をかいて退屈そうに欠伸をしながら見ているだけだしな。


「ぃよーし。ストップストップ! 最近はやっと真面目にやりはじめたわね!」


 いつもの様に走っている途中でディアーナが言った。


「レオ、こっちに来なさい!」


 ディアーナは大きな声で俺を呼びながらパンパンと手を叩いた。


「ちょっと、ここで片足で立って! はいスタート!」


 簡潔にそれだけいって、俺は片足立ちをさせられた。


 すぐにぐらついて足をつくと


「はい、駄目!もう一回。まずは片足ずつ30分、両足で一時間続けられるまでやるわよ」


 さっそくくじけそうになった。

 ディアーナと出会って数カ月、ずっと柔軟と走り込みの毎日で、初めて次に進んだと思ったらこれかよ。


「レオ、やる気がないならまた走っててもいいのよ。永遠にね!」


 元17歳の俺が14歳の中二女子にこんな事をいわれるなんて。……屈辱だ。悔しい。心が折れそうだ。


……だけど、ボン爺と約束したからな。


 俺は歯を食いしばって新しい特訓に耐えた。

 精神を集中させ、目を閉じて体幹を意識する。

 ・

 ・

 ・

「はい! オッケー。良くできました!」


 自分でも驚いたが、ほぼ一発で出来た。


「やるじゃん。全然できないかと思ってたわ……そうね、体幹は大丈夫かしらね……ねぇ、レオ。あなた早く剣の稽古がしたいんでしょう?」


「えっ? うん……はい!」


「いいわよ。明日用意しておいてあげる。ただし、柔軟と走り込み、さっきの片足立ちは変わらずやるからね。」


 やっと剣を教えて貰える!


 俺は嬉しくて飛び跳ねた。


「ちょっとちょっと、剣っていっても模造剣よ? まだまだ赤ちゃんのレオには模造剣だってもったいないくらい! だけどお金は貰えるから、今日この後ひとっ走り街に買いに行ってくるわ。」


「模造剣でもいい!です。だって、やっと剣が振れる!!」


「ふぅん……ねーぇ、レオ。あなた何か隠してる事があるんじゃないの? ねぇ、何かあったんでしょ……すっごく怖い思いするコトとか。」


 一瞬体がビクっとなった。

 何だこいつ。


 ディアーナはにやにや笑っているが、目が座っていた。


「わたしの事バカにしてるでしょう? わたしがまだ若すぎるからってあからさまにがっかりしていたわよねぇ? ま、それでもいう事はちゃんとやって走ってたし? わたしもそれでお金貰えるならいいかなって思ってたの」


なんだ、なにが言いたい?


「あなた、ほんの数日前から急に人が変わったように真面目になったじゃない?……あやしいわ。言いなさいよ。 何があったの?」


「……なんでもないよ、です。将来騎士団に入るのが夢で、」


「はいはい、嘘はいらないわ。あとわたしには敬語もいらないわよ。まったくもう。何かあったんでしょ?死にそうになるほど怖いコト。それで、己の無力さを恥じて稽古に真面目になったってトコかしら。」


なんだよこいつ。なんでわかるんだ?


「もー……なんでわかるんだ?って顔したって、全部書いてあるわよ、顔に」


へっ?顔?

なんだディアーナも『鑑定』持ってんのか?

俺より高いレベルのやつだぜそれ。


「はいはい。レオン君は分かりやす過ぎ! そんなんで将来敵と戦えるか怪しいもんだわ。ま、もう言いたくないならそれで言いけどいつか教えてね?」


 うわ、なんだ今の。可愛かったぞ。


 呆れた顔してたくせに最後にウィンクとか上級テクニックだ。

 くそっだがこんなギャップよりミラ先生の方がよっぽど……


「まーとにかく明日から! いつもレオが一人でやってる素振りもどきじゃない本物の素振りを教えてあげるわよ。……この私が教えてあげるんだから、強くなりなさいよ♡」


 そう言うと、ディアーナは今日の稽古は終わりだと踵を返しさっさと行ってしまった。


 なんだ、男女みたいな奴かと思ってたけど結構可愛いとこあるじゃん。



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