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162.考察


あー……くそっ腹立つな!

執務室の部屋続きにある扉を開けるとそこは寝室だった。

ベッド一つに小さな棚がしつらえてあるだけの狭い部屋だが、どうせ寝るだけだし構わない。

シャワーでも浴びてさっぱりしたい所だけど……後でいいか。

ドサリと倒れこむと視界に入ってきた白地に水色のラインで格子模様の描かれた天井をぼんやりと眺めた。

ランディの野郎……朝になったら文句言ってやる。


『何だか感じ悪かったわね、ランディって人』


そうだな。

二年ぐらい前からは王都内でも俺一人で任された仕事もあるけど……やっぱり近くに父上がいるのといないのじゃ違うもんだな。

王都にいた頃は表向きは丁重に扱われていたから、初日からあんな態度を取られるとさ……俺なんかまだまだだって実感させられるよ。

ま、腹ん中で何考えてるか分からない奴らよりは分かりやすくて良いんだけどさ。

実際俺がリーラの住民だったらまだ十三のガキに毛が生えた様な奴、信用しねーもん。

だからって前領主の捜索が目的で来たってのに何であそこまで部屋を綺麗さっぱり片付けるんだよな?


『彼、怪しいかったわね』


ああ、あれじゃランディが自分に都合が悪くて隠蔽したような気がするよな……でも仮にも王都から派遣された領主にやるにしては明らさま過ぎる。

分かりやすい行動は控えるはずだと思うんだけど。

ルッカさ……何か分かった?


『……正直に言うと、全員怪しかったわ』


何で?


『皆、言葉通りで嘘を感じられなかったの。まだ少ししか視ていないから分からないけど』


なるほどなー……実は俺もだよ。

でもさ、気がかりな事がいくつかあったよ。


『なになに?』


自警団長は『殺戮者』『身内殺し』とかいうユニークスキルがあった。

商工議長は『誘惑』のスキル持ち、学長は『偽装』スキルを持っている。

ついでにいうと学長は年齢詐称までしているんだ。


『うわ……何それ。怪しいわね。本当は何歳なの?』


タッソー氏は二十三歳だ。

今の見た目でも若く見えるけど実年齢はもっと低い。

てことはさ、八年前…つまり十五歳で学長に就任しているんだぜ?

あり得ねえよ。


『十三歳で領主のレオが言うと……あまり違和感はないわ。それより年齢を誤魔化す意図は何かしら?』


それを言われると確かにな。

意図まではまだ分からないけどさ……でも彼はあの学校を卒業後教師をしていたらしいけど、確か元々は孤児院育ちで幼少期に彼の聡明さを見込まれタッソー家の養子に入ったと聞いている。

下手すると自分の実年齢すら知らない可能性があるぜ?

子供ガキの頃から老け顏だったとかでさ。

あの自警団長の爺さんだって実年齢は七十五歳だったからな。

ランディが俺に嘘を付いて教えたか本当に知らなかったかどっちかの可能性もある。


『ふうん……確かに年齢を誤魔化したくて偽装スキルを持っているならもう少し老けさせた方が学長という立場上有利よね』


ああ、そうなんだよ。スキル持ちで学長って立場なら年齢に合わせて変えた方がいいに決まってるじゃん……だから実年齢に気付いてないって線も考えたんだけどさ。

もっともタッソー氏のレベル自体がそんなに高くないから見た目をそんなに変えられないだけかもしれないけどな。


『なるほど、だからレオはあんまり慌てていないのね?』


ああ、俺と同じく『偽装』スキルを持っているのはロイ爺以外に初めてだから、そこには少しは驚いたけどさ。

もしかしたらスキル持ちだって事にも気が付いてない……? いや、流石にそれはないよなあ……


『そっか。スキルだけで考えたら他の二人も怪しいわね』


自警団長のユニークスキル『殺戮者』『身内殺し』は……な。

プルード氏も昔は冒険者だったらしいけど、この街に来てから四十年……か。ランディがいう評判の良さを考えるとここリーラでは何も悪事は働いていないと考えられるよな。

だとすると昔……過去に酷い事しでかしたやばい奴だった可能性はある。マフィアのドンみたいな見た目だし。


『そうねー……二人に比べたら商工議長さんのスキルは大したことなさそうね』


まあな。『誘惑』は人魚達の持つ『魅惑』スキルの下位互換だろうな。

プルード氏はかなり嫌っているみたいだったから気を付けるに越した事はないけど、アイゴンがいる限り呪い系統のスキルは効かないから大丈夫だよ。

まあ……あれだけ露出されたら目はいっちゃうけど、人魚達の比じゃないよ。

それに俺にはメイ以外の誘惑には惑わされない…… 決めてるんだ。


『はいはい、今はメイちゃんの事はどうでも良いでしょ。それより補佐さんは? 『鑑定』ではどうだったの?』


ああ……ランディはなあ『隠密』スキルと、ユニークスキル『部下の心得』とかいうのがあった。

とはいえ、レベルは俺より低いから『隠密』の効果は俺には効かない。


『そう……結局全員怪しいわね』


ああ、王都から離れた大人しい街だから気楽に犯人をとっ捕まえて手柄を立てられるかと思ったのにな。

とにかく、明日から探っていこう。

さてと、気が進まないけど少しヨハンの様子を見に行くか。


『あっ……それなら大丈夫よ?』


なぜに……? 行かなきゃ駄目だろ、あいつが次何をしでかすか分からないんだぞ?


『だって……大丈夫なんだもん』


大丈夫なわけないだろ? まさかルッカお前、未だに面白そうだから放っとこうとか考えてんのかよ?

いい加減にー


『違うもんっ! 私はもう心を入れ替えたんだから! ……仕方ないわね、本当は駄目なのに……ほら』


うおっ⁉︎……何だそれ、ヘビ……?

両手を広げたルッカの掌や背後からうじゃうじゃと這い出てくる半透明の蛇……気持ち悪い……

ルッカ、何だよそれ


『じゃじゃーん! この子達は私の守護霊なの!』


は、背後霊? ……幽霊のルッカが?


『そうよ。言ってしまえば眷属ね、神様から貰ったの。元々私にずっと憑いていたらしいんだけど具現化して使える様にしてくれたの。私の代わりに王都に置いてきたこの子達の目を通して私にも視えるから、だから王都は大丈夫よ!』


何それ、いつの間に……ルッカお前神様に会ったのか⁉︎


『私は良く会ってるわよ。だって見習いだし……レオ達が眠っている間とか、暇してないで手伝いなさいってたまに呼び出されているの。その時に教えて貰ったのよ。この子達、私を食べた蛇の幽霊らしいの。最初は死んでからも付き纏うなんて気持ち悪かったけど、便利だから今は助かっているわ』


……何それ。何で今まで黙ってたんだ?


『神様から言われているの。必要以上にレオに話すなって……きゃあっ! 痛い痛い痛いいったーい‼︎』


えっ? どうしたんだよルッカ⁉︎


『……ほらぁ。レオに話し過ぎると天罰が下る仕組みになってるの! 私、死んでるのにビリビリする痛みが与えられるのよ⁉︎ しかも十回以上やったら強勢的に私は神様の所に召されちゃうんだから‼︎ きゃあっ……痛い痛いいたいってば‼︎』


分かった! 分かったからルッカ! もう話さなくていいから‼︎

ふわふわと浮いていたルッカが床に落ち苦しむ姿を見てベッドから飛び上がって様子を見る……大丈夫か?

ルッカの言葉で理解した。

ルッカは神様の見習いとしてもう動き始めていた。

そして、俺に必要以上の情報を与えたら電流の様な罰を受ける。

しかも十回教えたら、ルッカは俺の前から消える……回数的に後八回だ。

くそっ……知らなかったとはいえ、何やってんだよ俺は。

神様は均衡を大事にしていたし、ルッカにも甘えんなって事だろう。

そうだよな。

ルッカが居なくなるなんて考えられない。

ルッカだって俺といてくれる為に今まで言わなかったんだろう。

……もうこれからは頼り過ぎたらまずい。


『大丈夫よ。私だってこんな痛いなんて思わなかったから、本当に必要な時以外には教えないんだから!』


それでいいから。ルッカとは離れたくないよ。


『……うふふっもうレオったら甘えん坊さんねー。とにかく痛みまで分かった以上はたとえ私が先に犯人に気付いても教えられないわよ?』


分かってる。ありがとな、ルッカ。俺を安心させて今回の任務に集中出来る様に教えてくれたんだろ? 助かるよ、本当に。犯人は俺が自分で見つけるからさ。


ユニークスキル『瞬間移動』には信じられない縛りがあった。

一度使う毎に……俺の毛根が一つ死滅するんだ。

無闇に使えないような仕組みになっている。

今はふさふさの俺の髪が……考えただけでも恐ろしい。

まだ俺はこれからだっていうのに、もっと歳をとったらボン爺みたくワイルドな感じでも悪くないけどまだ嫌だ。

だから、メイ達の元へ行くのも生命がけの事だった。

もちろん領地にもほとんど行っていない。

想像以上に王都で忙しくしていたっていうのもあるけどさ。

将来の事も考えて、あまり使う事が出来ないスキルなんだ。

ルッカの守護霊けんぞくの存在はとても助かる。

だけど、 ルッカは言葉足らずだからつい問い詰めてしまったけど……物凄い後悔が押し寄せてくる。


『まあ、流石に説明しないと分からない事もあるわよ。私も気を付けようっと』


そうだな、お互い気を付けよう。

でも、ありがとな…… これでこの街に集中出来る。

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