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161.ランディ


短い顔合わせを終えてみると拍子抜けというか……もっと根掘り葉掘り質問攻めにして粗探しをされるかと思っていたから案外あっさり終わったなというのが率直な感想だ。

まあ、俺にしてもラッキーだ。

リーラは彼らにとってはホーム、俺にとってはアウェイ。

護衛も連れずに身一つで来たのも理由の一つかもしれない。

俺に対しても経験のない若僧を寄越した国に対してもそこまでやる気がないと踏み、念を押すにとどまった可能性が高い。

俺の想定通りに油断してくれていたなら作戦通りだ。

仮にもテルジア公爵家の者だから父上は護衛と部下を付けようとしたし馬車に乗る様にも指示したが、うまく丸め込んで愛馬アイリーンに乗り一人でここまで来た。


父上と国王に王妃の命を救い攫われた兄上アンドレを連れて帰り罪人ヨハンを連れて帰った俺の主張わがままはかなり通りやすい。

……振り返ってみると結構凄い事やってるよな。

ま、殆どルッカとみんながいてくれたからだけどさ。

おかげでずっと領地に引き込もっていた割に国王からは引き立てられるしで俺の事嫌ってる貴族も多いけど。

女性人気もやたら高騰した結果、止まらない縁談申込と嫉妬による嫌がせの数々……おかげで王都の邸はラブレターと不幸の手紙の処理に母上も使用人総出で追われている。


だが、父上が俺の意見を聞き入れてくれる最大の理由はアイリスを明るく変えた所にある。

それはビュイック諸島の獣人みんなのおかげなんだけどさ。


一人で来たかった理由はスキルがあるから逆に誰もいない方が楽だってのが一番なんだけど、さっきの顔合わせで建前の理由もしっかり生かされたようだ。

おかげで隙をつく余裕はこちらにもあると思いたい。


「さて、さっそくだけど、前領主…ウィンバー氏の失踪について詳しい説明をしてくれないか」

「おや、お休みにならなくて宜しいのですか。長旅の後に厄介な大人と話したばかりでお疲れでしょう」

「いや、大丈夫だ。彼が失踪してから一月は経っているはずだからのんびりしている訳にもいかないだろう」


ぶっちゃけ本当に疲れていない。

メイとアイリスの編入手続きの時に魔法道具マジックアイテムを使い姿を隠してここには一度付いて来たんだ。

あの時はまだこの街の領主に任命されるとは思っていなかったからこっそり来たのだが、そのおかげで『瞬間移動』スキルを使って夜中に近くまでアイリーンと共にやってきた。仮眠もしっかり取ってある。


……ま、諸事情あってあまりこの術は使いたくないんだけど、今後卒業までメイ達の元に通う回数を考えたら初日に喰らうであろう制裁?を難なく回避する為には万全体制で臨みたかった。

嫌味やアクの強い奴らとの会話にもだいぶ慣れたしあの程度の顔合わせでいちいち驚く俺ではなくなったのだ!


『最初はしょっちゅう”まじかよ⁉︎ まじかよ⁉︎” って言ってたわよねー。くふふっ』


まあな。ま、ルッカ後でな。

今はこいつに話を聞かないと。


「それでは……仕方ありませんね。後一刻半したら食事の時間、その後私はすぐに休む事になっております。それまでの間でしたら少しご説明致しましょう」

「そんなにすぐ休むのか? まだ早いだろう」

「私は早く寝て早朝に起きる事にしております。前領主の生活スタイルに慣れてしまいましてね。レオン様には申し訳ありませんがこの習慣は変えるつもりはありません」

「ではその時間だけで構わない。そうだな、時間もないから前領主の特徴を教えてくれ。たしか病弱であったと聞くが」

「ええ、宜しいですよ。ウィンバー様は、病弱というよりは生まれつき足が悪く動くのに不自由されておりました。杖なしでは歩く事が出来ず、ここ数年は私が介添え等もしておりました……この街の事を考える良い方でしたよ」

「まだ死んだとは決まっていないのでは?」

「ああ、そうでしたね。ですが街の総意ははもう亡くなられたと考えております。失踪直後、私も含め街の者総出で探しましたが腕一本も見つからなかったものですから」

「……なるほど。家族は? 確か独り身だったとは聞いているが」

「ええ。彼は身体の不具合もあり過去に何があったのかまでは分かりませんが、女性が苦手だったようです。この街にいらしたのも家からの厄介払いだと言っていた事もありましたし、ご実家とは上手くいっていなかったようですね。手紙のやりとりも年に一度ほどでした。いずれ貴方の代わりにウィンバー家の筋の方が就任されるのでしょうが、貴方がいらしたという事は、何か揉めていらっしゃるのでしょう」


……その通りだよ。

前領主の失踪を聞いたウィンバー家は、形ばかりの悲しみを見せただけで、すぐに次期領主へ誰を排出するかで揉めている。

一領主である前に身内が忽然と消えた異変よりも利益を優先する姿に周りが辟易する中、父上が俺を推薦したのだ。

今までのランディの話の内容ぐらいはこっちの耳にも入っている。

そしてランディもまた、王都の事情は察しているようだ。

という事は他のあの三人も同じだろう。


……という事は、この場はどう返すべきか。


『率直に犯人探しが目的だって言っちゃえばいいのよ。レオの赴任理由はもうこの人には伝わってあるわけだし、言ったところでどうせレオには出来っこないって思われるだけで済むわ。それより知らない街でこそこそした方が怪しまれそう……初任地で張り切って空回る若僧作戦で行きましょう!』


なるほど、サンキュールッカ。


「……ああ。確かにそんな噂も聞くが、私は領主の捜索と犯人を探さねばならない。事前に送られた書状通りだよ。身内が入る前に第三者を入れるべきだというのが国の考えだ。私は若いがそれゆえに体力だけはあるつもりだ。短期とはいえ全力を尽くす。だからランディには力を貸してもらうよ」

「……ほう。若さとは良いものですな。なるほど……私などで良ければお手伝いさせていただきましょう。ですが領主の事といえば先ほど申し上げた通りに足が悪く良い方だったという事ぐらいでしょうか。その身体ゆえ執務室におられる事が多く、外出の際は殆ど私が付き添っておりました……ゆえにウィンバー様が失踪された事それ自体が不可思議なのです」

「しかし何か手がかりがあるはずだ。とにかくまずはウィンバー氏のスケジュールが分かる物を明日には用意しておいて欲しい」

「……承知致しました」

「それと、明日からさっそく街の視察をしたいと考えている。その予定だから案内を頼む」

「……承知致しました」


取り澄ました表情を変えずに鼻から少し溜息めいたものを漏らしたランディは少し何かを……笑いを堪えているようだった。


「ん? どうした、ランディ?」

「……いえ、失礼を。大変な方が来られたようだと思いましてね。視察ではあまり血気盛んに嗅ぎ回られぬようにお気をつけ下さい」

「どういう意味だ? 与えられた任務を行うだけのつもりだが」

「いえ、ただ年長でありこの街の一市民である私からの忠告アドバイスですよ。他意はありません」

「なるほど。それは有難く受け取っておこう」

「ええ、それが宜しいかと。それでは私はこれで……食事の時間になりましたらまたお呼びに参ります」


そう首から下げている懐中時計をちらりと見て言うと、ランディは出て行った。


……あんな感じで良かったかな。


『そうね、良かったんじゃない情熱的で。大丈夫よ、王都はもっと過剰オーバーな人も沢山いたし』


ちょっとやり過ぎた気もしなくないんだよな。

明日からはランディの忠告とやらを聞き入れた程でもう少し落としてやるよ。


さてさて……くそっ……やられた。


与えられた執務室には年季の入った立派な机に椅子、しかしそれは綺麗に片付けられ、引き出しの中は全て空。

前領主の私物と思われる物は全く無い。本棚もしかり。

ランディが早く寝ようが、明日までに何かヒントになる物を探そうと考えていたのにとんだ期待外れだった。


食事の時間に呼びに来たのはランディでは無く別の使用人だった。

最近雇われたばかりらしく何も知らないらしい。

ランディはもう既に休んだという事だけが分かった。

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