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158.三年後


あれから三年経った。


俺は十三歳……前世の世界ではまだ義務教育の途中だけど、この世界では立派な成人として扱われる。

そしてその慣例通りに立派に大人の仲間入りをしている。

身長が急激に伸びてアンドレの肩に頭が届く位にはなった。

自分で言うのもなんだけど顔立ちもシュッとしてきたし身体つきもしっかりしてきた。

このまま成長すると精悍な良い男になりそうな気しか起きない。

日に日にナルシストに拍車がかかっている、そんな俺だ。

ま、そんなに俺は変わってねえって事だ。


そうだな、三年の間に起きた事を話しておこうか。


良かった事と言えば、反対勢力の少なくなった王都内で父上の立場は強固な物になりつつある。

あのむかつくドゥルムですら父上にも俺にすら腰低くへこへこする様になった。

ただ粗探しに余念のなさそうな目つきは変わらず油断は出来ない。

今更態度を変えた所で本性の悪さは絶対に忘れねえからな。

国防と国の各所の整理する為に多忙を極めている父上は、帰還当初げっそりと痩せ細ってしまっていた。

しかしその原因は仕事による過労ではなく、送り出した一人娘であるアイリスに対する気苦労が理由だとすぐに判明した。

大人し過ぎるほど静かで控え目で常にアンドレの背中に隠れていたアイリスが溌剌とした笑顔を見せ、ビュイック諸島の獣人達の愛情表現ハグに慣れきってしまったのか父上や母上に飛びつく様に抱きついた時点で、父上の心臓ハートは撃ち抜かれた。

その場にいた俺も含めて皆にも分かるほどに瞬殺だったのが丸わかりだった。

父上はアイリスに対してメロメロッのデレッデレになり、痩せきった身体付きはみるみるうちに元に戻った。

ある程度家族との団欒期間を過ごしたところでアンドレとアイリスは療養を目的に領地で過ごす事になり、ボン爺を伴い王都を去った。

考え方を変えた父上は自分の権力を最大限に活かし、二人の神子みこを匿う事に周囲の旗下の貴族達の主張や不安を全て跳ね除けての強行だ。

「もっと早くこうしてやれていれば……」

と父上は涙ぐみ別れを惜しみながら私兵に護衛の指示をして三人を送り出した。

直前にロイからは虫が送られてきていた。

『安心しなさい、領地では私とボンでご兄妹を鍛え上げてみせましょう。領地も以前のままではありません。大分面白い事になっておりますよ。ホッホッホ……レオンにお見せ出来ぬのが残念でなりません』

というメッセージ。

ロイ爺とボン爺に鍛えられたら確実に二人は強くなるに違いない。

俺は領地に戻る事は許されず、王都に残される事になっていた。

もう領地暮らしは充分だろう、今度は仕事を手伝え……だってさ。

ロイ爺の意味深なメッセージは凄く気になるけど仕方ない。

まあいいさ……

ふっふっふ……この旅の間も色々あったから潤ったポイントでユニークスキル『瞬間移動』を取ってやった。

今後の事も考えたらどうせ必要になりそうなスキルだから取得には迷わなかった。

ただし行った事がある場所でしかも俺自身がはっきりと場所を覚えている所に限定されてはいたし、大陸を超える事はなぜか出来なかった。つまりメイの地元には遊びにいけないんだ。

これもレベルに準じるのかもしれないから今後に期待。

見てろよ、ロイ爺……絶対に遊びに行ってやる。

虫に乗って高速移動した日が懐かしいな……良くあんな事思い付いたもんだぜ。

あの時はメイの事が心配で心配で必死だったんだよな。

今もその気持ちは変わらないけどさ。全く俺って奴は将来良い旦那になる気しかしないぜ。

メイの成長期、早く終わらないかな。

全身で愛情表現を示すかの様に飛びついてきてくれたメイが遥か昔の様に懐かしく感じる。

今はただの虫と成り下がったこの伝達虫は俺の『コミュ力(人外)』も通じずルッカとも意思疎通が出来なくなってしまっていた。

つまりスキルを持ってしても会話が可能な者は限られるんだという事が分かったよ。

あの日の神様との会話を忘れた日は無い。

マリアさまはもうこの世には居ないんだ。


メイとマールは国にある貴族用の寄宿学校に入れられる事になった。

小さな二人を今後我がテルジア家で預かるならば礼儀作法も含めこの国で学ばせ、淑女の嗜みを養う必要があるという事らしい。

これはどうやら二人の将来を考えたディアーヌからの提案であったみたいだ。

この国には貴族子女を十歳からこの寄宿学校で学ばせる制度があり、王族や俺みたいに”病弱”だったり理由のある者は家庭教師等で自宅学習による教育も認められている。

学校に行かなくともその子弟の教育は貴族の沽券こけんに関わるもので家の中では学校よりも厳しく躾られるのが普通だそうだ。

口煩いと感じていたハンナの教育はそのせいだったのだとここで初めて知った俺……ハンナに凄え悪い態度だったよな。

あの当時を思い返すとハンナに白髪が増えたのは完全に俺のせいだ……本当に申し訳ない。

この制度について領地いなか暮らしの俺は全く知らず初耳だった。

しかしディアーヌは俺の知らぬうちにこの国の制度を学び、二人に必要だと考えたのだろう。

家の財力なら全く問題ないってのに律儀に学費以上の価値がある充分な程の希少な宝石が父上と母上宛ての手紙と小包に入っていた。

父上も母上もそれを換金等するつもりは毛頭ないらしく、いつか帰ってきた彼女に返す為に大切に保管すると言っていた。

メイとマールは既にディアーヌから話を聞いていたらしく素直に受け入れていた。

勿論、俺も一緒に入学する事を希望したがそれは叶わなかった。

俺はミラ先生により学校で学ぶ事は充分に習得しているらしく学校へ通う必要が無く、それよりも父上の仕事を手伝う事で、貴族としての生き方を何も知らない俺を叩き上げる事の方が重要らしい。

くっそう……何を考えているんだよ、領地暮らしの長い俺に貴族まみれの中でまともにやっていくのは難しいはずだって誰だって分かるだろ⁉︎

俺も一瞬はそう考えたさ。

だけど領地に到着したら読む様にと渡されていたディアーヌの俺宛の手紙にはこう記されていたんだ。


『レオ、大好きなメイと離れ離れになるのは辛いでしょうけど耐えなさい。我慢する事も男の子には大切よ。メイの…というより女の子の成長はとても早いわ。貴方はお父様の仕事を手伝いながら国の、出来れば世界の事を学ぶ必要があるわ。私に付いて来て数年内に魔王を倒す事が出来たとしても、その後あなたは一体どうするつもりか考えた事がある? 身体を鍛える事も大事だけど、それはお父様のお手伝いをしながらでも出来る事よ。大体あなたは妙に器用ですぐに何かしら不思議な能力を身に付けるじゃない。次にメイに会った時に胸を張れる様に頑張りなさい。お兄様とアイリスにも負けない様にね。そして私にも……いつか立派に成長した姿を見せてくれるのを楽しみにしているわ』


……ディアーヌはずるいよな。

普段はぶっきらぼうで無口だしずっと俺には厳しかったくせに……心を掴むのが上手過ぎるよ。

俺なんて単純だからこんな手紙読んだら……やるしかねえって思っちゃうじゃんか。

……いいさ、やってやるよ。

ディアーヌに次会った時に日の打ち所がない良い男になってやるからな。

あんまり帰りが遅かったら逆に出向いて驚かせてやっても良いんだ。覚えてろよ!


ただ、どうしても心配な事が一つある。

メイとマールが通うことになるこの学校の事なんだが……共学なんだ。

宿舎は男女別で基本的な授業も男女別……でも男女共同で受ける授業も無くはない。

男子寮と女子寮は離れていてそれぞれ厳しい門番もいるし門限だってあるけど敷地は同じ。

メイもマールも可愛い。

どうやらこの学校は知識や嗜みを身につけるだけでなく、友人関係を構築させるという側面も持っているらしく二人を放っておく男子生徒は少なくないだろう。

メイとマールの二人はテルジア家が預かる異国の令嬢という事にしてあるから、バックに控える公爵の父上を怖れて近づきにくいはずだけど、でも……そんな高い障害ハードルがあったとしても……いや障害があるからこそ燃えるって奴がいてもおかしくない。

その位二人は可愛いんだ。

心配で仕方ない。

出来れば領地でのんびりアンドレやアイリスと一緒に過ごして欲しかった。


獣人とエルフの二人の目立つ容姿については俺が『偽装』を施すのが俺の仕事。

週に一度二人の元を訪れて術をかけ直す事にした……つまり週に一度は必ず会えるんだ。

メイの愛らしさが若干陰をひそめる様に肌の色を濃い目にしようかとも考えたが美意識の高い俺には耳と尻尾を隠し髪色を目立たない栗茶色にするしか止められなかった。

代わりにマールを5割り増しにすべく艶やかな漆黒の神に滑らかな白い肌に変えた。

獣の様な男子生徒の視線をマールに向けようという姑息な作戦だ。

マールがモテる分にはまだ構わない。

こいつは逃げるのが大得意だからな。


俺の施した偽装に鏡の前でマールは大喜び。

メイはがっかりと落ち込んでしまった。


「レオにーにさん! 最っ高です! これなら誰がどう見ても絶対にエルフには見えませんよっ!」


喜びのあまりにマールが俺に抱きつくと、背後から俺とマールすれすれに小さなナイフが飛んで来て壁に突き刺さった。


「うおっと⁉︎」


犯人はメイだ。

メイはその成長期で俺とはほとんど直接話もしてくれないし目も合わせてはくれなくなったけど、一定の距離を取って俺の視界に入る所にはいつもいる。

マールが俺に話しかけたり近づくと後ろから彼女の服や手を引っ張たりして引き放そうとしたりする。

俺の事が嫌いになった訳ではないんだ。

それはメイのステータスでもしっかり確認済みだ。

飛んで来たナイフの鋭さはマールへの嫉妬と俺への愛の重み……だからこの期間を何とか耐えれば良いだけだって分かっているんだ。


「もうっ! メイ、何するの? お家の中で物を投げたらいけないんだよ!」

「……くっつくのは、いけないんだよ。マールがわるいんだもん」


口を尖らせてぷんすか怒りを見せるマールに小さな声でメイも頬を膨らませて咎めた様に言う。

そしてマールをずりずり引きずって引き離すとマールの耳に何か囁いた。


「……そうなの? なーんだ。レオにーにさん、メイが髪の色は元のままが良いんだって。それがだめなら私と同じ色にしてって」


なるほど、マールに比べたらメイは地味にしちゃったもんな。そりゃ嫌だろうけどさ。


「メイ、正直に言うとメイはあまり目立たせたくないんだ……これから行く学校にいる男子はかなり危険だからさ。マールは逃げるのが得意だし旅慣れも人馴れもしてて要領が良いけど、メイは分からない事が多いだろ? だから大人しい色にしたんだ。心配だからさ。その色だってメイの好きなメアリの髪の色をイメージしてみたんだけど……駄目かな」

「……マール、あのね……」

「うんうん……レオにーにさん、このままでいいって!」


マールの後ろに隠れているメイの顔が若干紅くなってがいるのが見えた。

メイの素直な性格は変わっていないんだなとほっとする。


「良かった。メイ、分かってくれてありがとう。マールも、メイの事をくれぐれも頼んだぞ」

「任せてください! メイに人間の男を近づかせないように頑張りますねっ! 逃げ魔導士の私がいれば大丈夫です! レオにーにさんは大船に乗った気持ちでいて下さいね!」


胸を張って言うその逞しい言葉を受けつつも若干マールに不安のよぎった俺は第二の刺客を送り込む事にした。

なぜか眷属になったネズミの魔物だ。

名前はチュウタ。流石に呼びにくいから名前を付けた。

かつてルッカが付けたのと同じ名前なのに俺によって名付けられるのは嬉しいらしくすんなり受け入れてくれた。

見たまんまで安直に付けて悪い気もするけどそれ以外思い付かなかったんだよな。

こいつに対してはかつて神様も目もくれず未だ俺の眷属のままだ。

よってアイゴンと同様にこのまま連れていて良いんだろうと国に一緒に連れて帰ってきた。

偽装を使って俺が抱えられる程度の大きさに変える事に成功し、旅の途中にペットにした事になっている。

こいつは性質的にじっとしているのが苦手で人間が嫌いなのは変わっていない。

だから近場の海に根城を移した人魚達の所へ遊びにいったりと基本は自由に行き来しているが、提供する飯の代わりに俺の言う事を聞いてくれる。

人魚達の最新情報や途中で見てきた事を教えてくれたりとなかなか便利な奴だ。

だからついでに定期的にメイ達の学校生活を見に行ってくれるように頼んでみると二つ返事でオッケーしてくれた。

こいつは魔物だし、しかもレベルも高く力もある。

マリアさまみたいに裏切られる危険も全く無いとは言えない。

だけど今のところは旨い飯を提供する毎に俺に対する信奉は厚くなっているような気がする。

チュウタに初めて家の料理人に作らせた食事を与えた時、俺の事を崇拝するかの様に『お前……すごくいい奴だな』と澄んだ目を輝かせて言い、それからというものとても従順だ。

更に俺に気に入られようと余念無く情報収集をしてきてくれるようになった。

……アイゴンもこんな感じなんだろうか。

海底で同族に利用され殺されかけた事を理解すると、命の恩人である俺の方が信用出来るとも言っていた。

つまりこいつに対しては、飯にさえ気をつければ大丈夫だと思いたい。


現在、何重にもかけられた魔術により厳重にに牢に投獄されているヨハンの様子も見に行かせたいが、もし惑わされる事があったら……と考えるとそれは出来ないでいる。

ヨハンの事は人魚達の元に置き去りにするか国に運ぶかの二択になった。

人魚達が利用される可能性が高く仕方なく国に連れ帰り重罪人として突き出した。

危険性を説明し即刻処刑すべきと強く主張し多くの者が賛同したがここでドゥルムが泣きついてきた。

奴の記憶が全く無い事や操られていた事、今のヨハン皇子には罪は無いと国王や父上並びに諸貴族の前で文字通り縋り付いて泣いたのだ。

国王はかなり悩み、これから都度ヨハンを尋問にかけこれまでの記憶を断片でも思い出させ余罪や他の関係者がいる可能性も捨てきれないと投獄を命じたのだ。

……この処遇は甘すぎる。

納得いくはずはない。

ルッカが監視してくれているけど、今の品行方正面した大人しいヨハンが偽物に決まっている。

ママがあいつの鼓動が止まっていたと言った事や神様が生は一度と言っていた事から……あいつはもう死んだんだ。

だからあいつは別の何者かに他ならないんだ。

だけどその証拠がない。

裏も取れない上に証言がまだ当時子供の俺だけだったから……すげえ情けなかったよ。

知ってるのに何も出来ないなんてさ……だから俺は力をつける、発言権を強くするんだ。

それしか最短の方法がない。


だから俺は父上にくっついて城内、領土内を練り歩き顔を売りまくる事にした。

手っ取り早く『貴公子 Lv8』までスキルを取った。

おかげで国には俺のファンが増えた。

アンドレ様派とレオン様派なんてのもあるくらいだって巷の噂が俺自身の耳にも届くくらいにはな。

おかげで結構やりやすい。


そして父上にも少しは認めて貰えたみたいだ。

俺は次の月から、メイとマールが通うナリューシュ王立貴族学校のある街リーラの領主に臨時就任する。

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