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156.神様


『久しぶりね、ヤマダ君』

「神様……す、すごく会いたかったです。聞きたい事が沢山あるんだ」


それを聞くと神様は優しく微笑んだ。

久しぶりの神様は記憶にあるままの姿で変わっていなかった。

その輝きや彼女の周りの空気はアンドレと似ている事に気がついた。


『まあまあ。教えられる事にも限りがあるけれどね。それより、マリアだとか……ね。貴女、何を勝手にヤマダ君と契約を結んだの? お前は立場を忘れたというの? 私の眷属であるにも関わらず……契約は私が強制的に解除するわ』

『なっ……それを言うならアイゴンだって解除なさい。只でさえこんな醜い姿で長い間生きて来たというのに、退屈凌ぎに良いじゃない。大体この子だってあんたのお気に入りなんだろう? なら尚更私が手助けしてやってもー』

『黙れ虫けらが。かつて神であるこの私を裏切った贖罪を忘れたのか』

『ギャアアッ』


冷酷な視線……神様の怒りを初めて見た。

マリアさまはブウウウウン…激しく羽音を立てて神様に向かったが片手で掴まれその掌の中で抵抗すら出来ずに静かになった。

悲鳴を最後にマリアさまの声がかき消えた……本当に言葉を奪われたのかもしれない。

……怖え……


『ごめんねヤマダ君。この子が勝手にした事だから眷属の契約は無効にしたわ』

「……それは仕方ないけど、マリアさまは大丈夫なの?」

『この子なら心配しなくても平気よ。しれっとしているわ』

「それなら……そいつ見た目はアレだけど結構良い奴だからさ」

『あら。もうそんなに信用してしまったの? これは古代より生きる者……人間の手に負える存在ではないわ。 ましてや子供の貴方にはね。この子は貴方に親切に色々教えながら操り、かつての恋人魔王の元へ貴方を誘導するつもりだったのよ』

「……まさか」


そんな訳……だってマリアさまはクセは強いけど物知りで……俺が操られるなんてそんなの嘘だ』


『そのまさかをやるのよ。人魚達に会わせない様この島に引き止めたの。この子は人魚をも操るつもりだったのでしょう。彼女達を暴走させれば後は簡単だもの。あなた達は簡単に巻き込まれていたはずよ』


……それは否定出来ない。

確かにマリアさまはワイルドイケメンだとかいう魔王にまだ未練たらたらだったし、イケメン好きかどうかは分からないけど大好物の男の話をすれば人魚達はほいほい乗っかったに違いない。


「だけどそれならなぜ最初から行動を取らなかったんだろう。メイ達に付いて一旦離脱した意味が分からないよ」

『まだまだ若いわねって子供だから仕方ない事よね。人魚達の生態を熟知し、ヤマダ君の信頼をより強固にする為じゃないかしら。よく考えればおのずと理解出来るはずよ。さてと、今この子達からは記憶を消去したからもうただの伝達機能を持った虫でしかないわ。はい貴方に返すわね。あらどうして震えているの? 受け取りなさい』


……神様の神様である所以を垣間見た気がする。

美しくも愛らしくもあり親切で優しい神様だと思っていたのに。


「でも記憶を全て消してしまうなんて……」

『この虫を心配しているの? 私だってこんな手は下したくなかったわ』

「あ、あの……あ、アイゴンは……?」

『クスッ。アイゴンはそのままでいいわ。この子達は太古より未だ純粋なままだし言葉を話さないし……まさかヤマダ君の眷属になった時は私も驚いたけどね。でもそれは貴方の力でこの子に認められた事だから。もし貴方がこの虫とも魂で主従関係を結べたのならこんな事はしなかったでしょう』

「……あ、ありがとうございます……」


アイゴンともそんなに特別なきっかけは無かった様な気はするけど……セーフなのか。

良かったけどでもなんかマリアさま……可哀想だな。

神様の話した事がピンとこない。


『さてと、用事は済んだしもう行こうかな。今回もそんなに時間はないの。本来は私は直接この世界に干渉してはならない存在だから』

『そんなせっかくまた会えたのに……神様は今まで何をしてたの?』

『ふふっ…可愛い事言うのね。そうね、今までは均衡を保つ為に間接的に色々種を蒔いていたってところかしら』

「……じゃああの泉もその一つ…?」

『そうよ、私が創ったわ。魔物の増殖を抑える為にね。でも気休めにもならないほどの速さで魔王が力を蓄え始めているわ。前回封印された反省を生かしているのかより動きが慎重だから厄介ね。あれじゃ私が裁きを与える事が出来ない』

「それはどうして?」

『私はこの世界の管理者よ、全ての物に平等なの。私が介入する程の悪行には至っていないからよ』

「……でも魔王の存在は俺たち人間にも世界にも危険な存在なんだろ。神様が手を下せないなら俺が手伝うよ」

『あらヤマダ君は何もする必要なんてないのよ。均衡の調整は私の仕事だもの、子供の貴方が出来る様な事はまだないわ。それにせっかく順調に行っているのに。あんなに弱かった子が随分強くなったわね。私の与えた生を上手く生きてくれていて嬉しいわ。その調子で頑張りなさい』

「それじゃ俺はどうすれば……?」

『それはヤマダ君が自分で考えなさい。出来るでしょう、そのくらい』


折角会えたのに道を示してくれる訳じゃないのか。

神様と会ってこんな話しを聞いて……迫る危険を知っているのに。

前よりもずっとスキルも取って強くなったと思っていたのに、それでもまだ子供扱い……何も出来ないのか。


『そんな顔しないの。ヤマダ君の気持ちは嬉しいのよ、でもまだだめ。貴方はまだやるべき事も学ぶべき事も沢山あるでしょ』

「そうだ……! 神様こいつ、こいつはやばいんだ。何とかしてくれないか」


人魚達から提供された封印の縄とやらでふん縛っているヨハンを指差すと、神様はちらりと見てため息をついた。


『言ったばかりでしょう。私はその子にも介入は出来ないの』

「どうして……」

『それは貴方や貴方達この世界の住人がすべき事だからよ。ここに生きる以上は大体の問題は全てこの世界の者達で解決なさいね』


神様はマリアさまにした様な手を下さなかった。

こいつを俺たちで解決しろと?

という事は信じられないけど、マリアさまの方がヨハンよりも危険だったという事なのか……まさか……


『本っ当に難しいわね、この仕事長いけど思い通りにいかないわ……』

「それは、どういう……」

『そこの青年はいずれこの国を治める王に就任するはずだったの』

「まさか……」

『あら、神様の言う事が信じられない? ……まあいいわ。私は転生をさせる時にその者に大まかな運命を与えるの、加護もその一つ』

「運命……?」

『彼の前世は素晴らしい町医者だったの。そして能力を買われて国に召されたわ……断ったら国中の孤児院を取り壊すと脅されてね。そして王族のお抱え医者となった。それなりの地位を与えられていたにも関わらず権限の無かった彼は、街で厄介な病が流行っても助ける事は出来ず、仲の良かったかつての隣人や可愛がっていた孤児達が沢山死んでも助ける事が出来なかっ事をとても悔やんでいたわ。だから彼は次の人生に王族を選んだの。それならば多くの人を助ける事ができると考えてね。私は、彼の魂に期待をしてこの国の皇子へと転生させたのよ』

「……そんなの……だって、第八皇子だぜ? しかもこいつは正妃の子供ですらない。ありえないよ」

『……生まれた時、最初の運命が強すぎると短命で終わる事が多いの。だから本流から敢えて外したわ。私はこの青年の魂に期待をしていたから。彼の清き魂ならば多少の困難には打ち勝つはずだったのに……』

「それじゃ、亡くなった第一皇子達は……神様の捨て駒だったの」

『……そんな事を神である私に良く言えるわね、若き魂よ。そう言う訳ではないわ。言ったでしょう、強過ぎる運命は死とも近いのよ。その代わり環境は整っているし本人の努力次第で危険を回避出来る。私は全ての魂と対話をして転生をさせるまでが役割なの。全ての魂が私の子供。だけど転生後は本人次第……それしか出来ないの』


ヨハンが国王になる運命だったなんて想像も出来ない。

前世は良い奴だったのかもしれないけど、俺の知るこいつは最悪な奴だぜ。


「分からないよ。意味なく俺たちに絡んで来た奴が国王になるなんて」

『……ついでに言うと、ヤマダ君は将来騎士になる予定だった。頑張れば父親と同じ騎士団長にまでなれる程のね、そして貴方とその青年は親友に近い間柄になるはずだった。だから魂が反応しやすかったのでしょう』

「俺が、ヨハンと⁉︎ 絶対に有り得ない」

『あくまでも転生時に私が大まかに決めた事よ。その後の運命の流れには手は出さない。でも本来の流れ通りに行っていたら……心の優しく繊細な彼は、正義感の強い貴方を頼りにして国を護ろうとし、貴方はその気持ちに応えて平和な世を築く事になるはずだった』

「そんなの……全然想像出来ないよ。しかも俺、そんなに正義感強くないし」

『そうよ。だってそれはあくまでも貴方の魂の運命の本流だから。でも貴方はヤマダ君でしょう、前世の精神を引きずっている部分はあるでしょうね』

「……俺が『前世の記憶』を持って転生したから……? 俺のせいで運命を歪めた可能性があるってこと……?」

『違うわ。その可能性も無くはないだろうけどそれ自体はは大した問題じゃないわ。これだけの事が起きる要因はもっと色々な事が絡まないと起きないの。現状から見て寧ろ良かったのよ。貴方の選んだスキルはどれもそこまで強い物では無かった。本来の人間の持つ弱さのまま転生したじゃない。もし目立つ能力を持って転生していたら幼少期に周囲に気付かれて……良い事は無かったんじゃないかしら。貴方の兄妹の様にね』

「アンドレとアイリス……」

『不安になる事はないわ。ヤマダ君の記憶を持って生まれたのは良かったのよ。少し臆病で幼く無知であったから両親に反発もせず大人しく目立たぬ様に行動をした……ちょっと、落ち込まないでよ。褒めてるのよこれでも』

「確かに……底辺高だったしパシリだったし……でも俺なりにここでは頑張って勉強もしたし……でも無知って」

そんなの自分では分かってはいるつもりだったけど、神様からここまで直球で馬鹿だと言われると心がズタズタだ。

『ちょっとちょっとちょっと……大丈夫よこれから褒めるから、ヤマダ君落ちついて。コホン……転生してからヤマダ君は沢山スキルを取得していったじゃない? 幾ら『ポイント倍増』を加護であげたからってあの恵まれた環境では何もしなくても裕福な暮らしが出来たはずなのに、貴方は工夫してスキルを活用しようとしたわよね? それも使い方によってはこの世界の破滅への火種となるスキルも取った。だけど貴方は無闇に使用して来なかった。だから貴方達は今まで生きていられるのよ』

「うん……俺は臆病だし無知な馬鹿だからさ」

『いちいち卑屈にならない。私は感心しているの……貴方の家族の運命や魂が限りなく薄くなってしまって一時はどうなる事かとハラハラしていたんだから』

「……そんな人の家庭事情をドラマかなんかみたいに言わなくても」

『……とにかく、ヤマダ君は短い間に良くやったわよ。そんなに若い魂で本当に良くここまでやったと思うわ』

「……うん」

『分かった分かった、じゃあ何か一つだけ願いを叶えてあげるわ。大切な魂の一つをこの私が傷つけてどうするのって話よね』

「……二つにして欲しい」

『それはだめよ。もう絶たれた運命とはいえ、ヤマダ君にはこんなに話してあげたのに……一つよ』

「……じゃあ、ルッカを蘇らせてくれ」

『あら……それはとても素敵なお願いね。でも結論から言うと、それは無理よ』

「どうして⁉︎ 何でもって言ったじゃないか!」

『私の管理する世界は生は誕生してからその世界では一度きりと取り決めているの。だから無理よ。ところで、いつまでも隠れていないでそろそろ出てきなさい、お喋りなエルフさん』

『きゃっ! やめて私は何も悪い事はしてないわ! レオとは成り行きの付き合いだし、虫みたいに何も企んでないもの。か弱きエルフの幽霊なのよ?』

『ふふっ怯えなくて大丈夫よ。貴女には何もしないわ。寧ろスカウトに呼んだのよ』

『……え?』

『貴女の魂はとても良いわ。鍛えればもっと……ね。貴女を私が後継者として育ててあげる』

『……え? 私、神様になれるの?』

『ええそうよ。まだ自覚は無いかもしれないけどこの子供を良くここまで導いてくれたわ。貴女には素質があるの』

『……それって、アイゴンや虫とは違うのよね?』

『ええ、眷属では無く神の見習いになって貰うの』

『……それって、それって……悪く無いわ!』

『でしょう?』

『……でも、まだ先でも良いかしら? 私はまだしばらくはレオといるつもりなの』

『あら……それは何故?』

『だってレオはまだ子供だもの。この子お人好しだし……でも私の為にも色々してくれたから少しは恩もあるし……私が近くに付いていてあげなきゃ。だって馬鹿皇子さんの事も何もしてくれないんでしょう?』

『……そうよ。良いわ。貴女の好きになさい』


神様はルッカに慈悲の様な柔らかい微笑みをたたえて言った。


『……うそ。良いの? てっきり無理やり召されちゃうかと思ったわ』

『少し試したの。どちらにせよ私の元に貴女が来る日を楽しみにしているわ』

『何よ、試したの? 信じられないわ。神様のくせに』

『だからこそよ』

『ふうん……よく分からないけど。でも私、次は神様になっちゃうのね! 凄いわ! ねえねえっ聞いたレオ⁉︎』

「……ああ、何が何だか……」

『ヤマダ君も良かったわね。彼女が付いていてくれると言ってくれて。すぐにでも私に付いて来ると選択した場合は、本当に連れて行くつもりだったからそうなると貴方はこれから一人で進まなくてはならなかったわ。ヤマダ君が自らの力で得た魂の協調よ、そこに私は立ち入らないわ』

「……良く分からないよ、色々」

『さてと、話過ぎてしまったわね。もう行かなきゃ』

『待って! レオのお願いをまだ叶えてないわ!』

『そういえばそうね。早く言いなさい』

「いやもう何も……いや、アンドレとアイリスの事を教えてくれ。アンドレは神様に漂う空気が似ているんだ。一体何者なんだ?」

『なるほど……変わった兄妹の事が気になるのも分からなくないわね。それなら教えてあげる。500年前の魔大戦でこの世界はとても疲弊していたの。そこで私はこの世界に私の力を少し分け与えた勇者と賢者を転生させた。たったこれだけの事に人間達は私に多大なる感謝と祈りを捧げたわ。そこで私は勇者一族と賢者一族に百年に一度、ほんの少しだけ力を分け与えた者を転生させていたの。だけど長い平和は徐々に世界の歪みを作っていたのね……人間達も大分歪んだわ。貴方の兄を転生させる時に何者かにより必要以上に私から力を引き出して来たの。貴方の妹の時はかなり抑える事が出来たけど』

「……神様から力を奪ったのか⁉︎ そんな事が出来る奴らがいるのか⁉︎」

『迂闊だったわ。転生させる魂は皆私の子供達……その子達に裏切られるなんてね』

「神様は悪くないだろ! 誰だよそんな事をした奴は⁉︎」

『いいえ、私のミスよ。それに願い事は一つだけ。その者の生死すら教えられないわ』

「……そんなの、俺は神様の為に……!」

『ふふっ……ヤマダ君は良い子ね。それじゃ兄妹についてもう少しだけ話すわ。貴方の兄は前世でもその前もその更に前も王族として民の為に国の為にとても魂を砕いたわ。だから彼を次の賢者に選んだの。強い運命を持たせてしまったからそこの青年の様に本流から遠ざけたわ。だけど何者かが私の力を奪おうとしてきた。だから一族に与えなければならない力だったけど、同時期に近くに転生する魂と無理やり交換して小さな農家に転生させたわ。でもそれは無駄だった……彼はすぐに見つかってしまったわ。妹のアイリスは前世では信心深い清らかな聖女だった。でもその心深くではかつての貴方の兄を慕っていたの。転生時に彼女は次は彼の側に仕えたいと申し出たわ。だから妹に転生させてあげたの』

「そんな……俺だけなんか……外れてるような」

『良いじゃないの、何でも。私はヤマダ君が良い子だと思ったから今の所に転生させたのよ。転生先までは誰にも選ばせていないのから不満は受け付けられないわ』

「いや不満はないよ。むしろ周りが凄すぎて……」

『さあ、もう本当に時間がないわ』

『まって、賢者一族ってレオの国の王族って事よね。じゃあ勇者一族はどこにいるの?』

『そうよ。でもその質問には答えられないわ、じゃあね。そうそう、あなた達はもっと視野を深くそして広く学びなさい。二人なら出来るでしょう?』


黒猫の姿に戻った神様はそう言い残し姿を消した。

夜だったはずの空は太陽の照り渡る昼間に戻り、眠っていた皆は何事もなかったかのように動き話していた。

まるで夢を見ていた様な、そんな気分だった。

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