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150.本体


 先回りして偵察を買って出てくれたルッカが戻ってきた。


「トラップも扉もなーんもないわ。つまんないの。まっすぐ行ったら小さな魔物が一匹いるからそいつを倒せばいいんじゃない?」


「トラップが無いってのは助かるわい。さっさと倒して陸に帰るぞ」


「ルッカ具体的な魔物の大きさは? どんな奴だった?」


「そうねー、そういえば甲羅みたいなのに覆われてて固そうだった。大きさはこれくらいだったかな。ちかくでみたらこのくらいかも」


 両手を使って表現してくれるもいまいち分からん……実際に見てみた方が良さそうだ。行こう。

 

 敵の居場所はすぐそこだった。

 ふよふよと泳ぐ魚を避けながらも泳ぎ進むと少し広い場所に出て岩の上でぼんやりと間の抜けた表情の魔物がぽつんと座っているだけだった。

 どうやら敵も俺たちの登場にびびっているらしく『ぎゃっなんだこいつら! 人間の姿をした化け物か?』と独り言を言っている。

 くそゴミスキルかと思っていたけど……コミュ力(人外)スキルって、便利なのな。

 ルッカが甲羅と行っていたから亀を想像していたが、実際は蟹のような甲殻を鎧の様に覆っておりその隙間から見える中身を良く見るとハリネズミみたいな小動物が中に入っていた。

 鎧をかぶった体長50cmほどのハリネズミ……これは……癒やし系だ。そんな気がする。

 相変わらず周囲は貝で覆われていて戦い辛いが、鑑定の結果こいつには呪いの能力は無い。

 つまりこいつだけには攻撃を仕掛ける事が可能。

 ただその代わりに重力魔法のスキルレベルがMAXになっている。

 俺と同じスキルを持っていて俺よりもレベルが上ってのが厄介だな。


 ……ひとまず話し合いでの解決を探るか。


『やあ。人魚に呪いをかけて半漁人にしたのはお前か?』

『うわっ喋った!? 化け物かお前!』

『いや人間だよ。人魚に手助けしてもらったんだ』

『ああ、あいつらか。オレを追いかけ回すから魚にしてやったんだ』

『なるほど……俺から良く言い聞かせてやるから元に戻してくれないか?』

『お前……本当に何者だ?』

『ただの人間だって。兄貴を探してたら深海こんなところに来てしまっただけだ』

『人間は殺せっってボスに言われてるから言うことを聞くわけにはいかない!』


 ぴょんっと岩の上に立ち上がるとキリっとした表情で宣言するがどうにも……


『かーわーいーいー! ね、レオこの魔物さん何て言ってるの!?』


 そうなんだ……可愛いんだ。


『うわなんだこいつっ! 近寄るな! 魚にするぞ!』

『お前が可愛いんだと。ちなみにそいつは人間ではない』

『話せるのはお前だけか……なぁ、オレ可愛いのか?』

『おう。人魚達がお前を追いかけ回したってのはそれでだと思うぜ?』

『そうか! じゃあ人魚はもとに戻してやってもいいぞ』

『おっ助かるよ。邪魔をするつもりも敵対心もこっちにはないからさ。それとこの辺の元人間の魚もお前がやったんだろ? ついでに頼むよ』

『人間はだめだ。それにこいつらはオレ達の当面の食料だからな』


 食料だと? 魔物のくせに素直に話が通じると思っていたが簡単にはいかねえな……


『そこを何とか頼むよ。魚なら人魚に頼めばもっと旨そうなの持ってきて貰えるぜ?』

『……じゅるり』


 分かりやすくそのよだれが多くを物語っているな。効果ありだ。


『すっげーデカい魚だって食わせて貰えるぜ? どうせ元人間の魚なんてたいして旨くないんだろ?』

『……じゅる。まぁな、でもここの魚を喰い終わるまでがオレの仕事だからなー』

『そういやお前のボスって近くにいるのか?』

『いいやボスは遠くにいるぞ。人間を沢山殺せば力が貰えてもっと強くして貰えるんだ。だからオレは島ごと海に沈めてまとめてやってやったんだ。凄いだろ!』

『お前一人で、島一つを沈めたってのか……?』

 

 重力魔法レベルMAX、やばすぎるだろ。


『へっ。そんなのオレにとっちゃ簡単さ! 残酷な殺し方をした方がカッコ良いだろ? だから”魚にして喰った”って後で仲間に自慢してやるために今は少しずつ喰ってるんだ!』


 ……やっぱり魔物である事には変わりない。

 沈められた島の住民も助けられるかと思ったがこれは簡単じゃねぇな。

 

『なるほど……それなんだけどさ、例えばやった事にしておいて旨い魚食って帰った方が良くないか?』

『……お前、頭いいな!』


 なんだこいつ。

 島を沈めた大量殺人を目論む凶悪な魔物のはずなのに何でこんなに気軽に話に乗ってくるんだ? 

 若干いい奴なんじゃないかとまで錯覚しそうになる展開。

 スライムにしかり、魔物って話せば分かる奴ばっかなんじゃねーの?

 多少同様しつつもボン爺い軽く目配せをして話がついたと合図をすると軽くうなずいて了解を示した。

 俺とボン爺の仲だ。俺と魔物の言葉は分からずともここまでの雰囲気と今のアイコンタクトで全てを理解してくれたようだ。

 

『じゃ、ここらの貝に触れると危ないからとりあえず洞窟ここを出ようぜ!』

『分かった! …………うぐっ、ぐぎゃあああああっ!』

『何だ!?』


 軽い会話で快諾してくれたはずの魔物の様子が豹変した。

 洞窟の中をつんざく叫び声を上げ仰向けに岩から浮かび上がると目が赤く黒く点滅しだした。

 次いで洞窟の周囲がゴゴゴゴゴゴゴ……と鳴り響く。

 壁と地面が揺れてる……洞窟ここが崩れんのか? 違う、貝が剥がれてるんだ。

 この洞窟中の貝が魔物に向かい身体中にへばりついていく……

 

「ボン爺っ! 早く俺の側に来てくれっ!!」


 直ぐに反応して来たボン爺の腕を急いで引き寄せると物凄い勢いで集まってくる貝の大群から身を守るように小さく固まる。背中や腕や足に貝の当たる感触はあるが、この程度ならアイゴンが何とかしてくれるはずだ。


 スザザザザザザザザザ……という轟音が止み静けさが戻ったのを確認して顔を上げると、さっきの小さい魔物に貝が集まり歪な一つの魔物と化していた。先ほどの小さな本体はそのデカい塊の中心に顔だけ出している。


『…………ふふふ。困りましたねぇ、人間如きが己の利の為に私の可愛い魔物を操ろうなど……許せません』


 喋っているのは中心のさっきの魔物だが口調も声も違う。

 ……操られてんのか? 一体、何に?


「ごめん、ボン爺。どうやらここらの貝が本体だったのかもしれない……」

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