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149.魚魚魚


 ……実は人魚達こいつらの勢いで俺も地面に足をついてしまった。

 何かを思いきりぐしゃっと踏み潰した感触がしっかりあった。


 ってことは………嫌な汗が背中を伝う中、恐々として足元を見る。

 嫌な予感、的中だ。

 踏み潰した場所の貝は潰れて色を失い黒くなっている。

 そしてくるぶしの辺りからじわじわと鱗が生えてきているのが見えた。


「ぎゃああっ! 俺の足がっ!!」


「きゃあっ! レオン様のおみ脚が……私達の尾のように……」


 まるで素敵……といわんばかりにまんざらでもなく嬉しそうに恍惚とした表情の人魚達。


「いやいやいや! そうじゃないだろっ。魚になった奴もいるんだぞ⁈」


俺も犠牲になった人魚達と同じく……いやだ、俺は魚になんかなりたくねーよっ!


『グルァァッ』


その時さっと懐から転がる様にアイゴンが俺の足元を撫でる様に転がると、みるみるうちに鱗が溶ける様に消え、見慣れた足の皮膚が表われた。


「アイゴン!! ナイス!」


『グルァ…………?』


褒めて欲しい時の鳴き声だ。


「助かったよ、アイゴン。サンキューな」


 俺の足にくっついたアイゴンと掬い上げてよーしよーしとかのムツゴロウさんばりにぐりぐりと撫でて頬ずりをすると嬉しさを最大限に表わすべくふるふると震えている。


「きゃあっその魔物はアイゴン!? 噂には聞いていたけどなんておぞましい姿……」


「お前らっアイゴンは凄くいい奴なんだぞ!? アイゴンを悪く言う奴はさっさと巣に帰れ!!」


「ごめんなさい……私達、美しいものしか愛せないものだから」


「ふっ…………馬鹿だな、深海にいる人魚達は知らないと思うけど、アイゴンは地上では神として崇められている上に若い女子から絶大な人気があるんだぞ!」


 数人しか知らないけど。


「まあ、時代が移り変わると美の観点までもが変わるものなのかしら」

「信じられないわ」


「とにかく、アイゴンは俺の大切な友達なんだ。悪く言う奴は許さない」


「わ、分かりました。レオン様がそう仰るなら……私達はもう何もいいませんわ」


「アイゴン、あそこで泳いでる数匹の魚なんだけど元は人魚なんだ。この辺りの貝を全て喰わせる訳にはいかないけどあの魚の分だけ呪いを吸い取ってくれないか?」


 なんとなく、魚にされてしまった人魚達は可哀想だから俺にやってくれた要領でアイゴンを撫でながら聞いてみると、ぷいっとして目を瞑り俺の服の中に隠れてしまった。

 どうやら嫌らしい。

 そういや今までアイゴンは自らの意思で人魚達の前に自ら出て来ようとしていない気がする。

 いつもなら呪いの類が近くにあったり俺の関心を引きたい時なんかはどうにかして出て来ようと暴れるくせにこの深海に来てからは一切そういった行動を取らなかったよな。

 アイゴンは人魚が苦手なのか。

 人魚の反応を見ても相容れない感じなのは伝わったけどさ。


 ってことは、半漁人を通り越して魚化した元人魚達を元に戻す為にもここの魔物を倒すしかないって事か。

 ま、もうここまで来ちゃったんだしやるしかないってのは分かっているけどさ。


「レオ、ママと違ってお姉さん達はお魚さんになっちゃったって事はお姉さん達の呪い耐性がママより低いって事よね……?」


 小声でルッカが俺に耳打ちする。

 確かに、一瞬で魚になったよな。


「確かにな」


「ここ狭いし、人魚おねえさん達あんまり役に立たないっていうかむしろ邪魔だし一旦帰って貰う?」


 いやそれはそれでまた波風立つだろ……分かった。ここは俺たちが先行しようぜ。


「みんな聞いてくれ。既に貝の呪いで魚になってしまった奴もいるしここは危険だ。大人数で進むのはリスクがあるだろ? だから半分は洞窟の外に戻って何かあったら助けに来てくれ。残りはこの辺で待機。俺とル、ロッカで先に行ってボン爺を探す。」


「魚になったのは自業自得よ」

「レオン様とロッカ様に何かあったら耐えられないわ」

「「「「そうよそうよっ!!!!」」」」


「うるさいうるさいうるさーい! 僕たちの言うことが聞けないの!? 言うことを聞きなさいっ」


「ロッカ様が怒った……ごめんなさい。言うとおりにします」


 いちいち面倒くさいけど、最終的には言うこと聞いてくれんのな。

 人魚達と分かれて奥へと進むにつれて洞窟の幅が広くなっていき、貝だけだったのがふよふよと泳いでいる魚の数が増えていった。

 しかし襲ってくる敵は今のところ一匹も現れない。

 相変わらず壁面には貝がびっしりとへばりついているから危険には変わりないんだけどさ。

 特に左右に分かれる道もトラップもないのが逆に不思議だが前に進むしかない。

 何かあれば万能なルッカがいるから大丈夫なはずだが……


「やっだー。万能だなんてー! ほらほら、もうすぐボン爺さんがいる場所に到着よ」


「あっと見えた見えた。おーい! ボン爺!!」


 ボン爺の泳ぐ後ろ姿に声をかけると振り返り手を振ってその場に留まり無事に合流。


「思ったより早かったな。アンドレはどうした?」


「ボン爺、無事で良かったよ。兄上は、ちょっと力を使い果たして休んでる。回復はしたから後から来るはずだよ」


「あの若造は体力が足りなくていかんな……鍛えてやらにゃこの先生きていけんだろう。男がそう簡単にへばってどうする」


「ま、まあまあ。結構大変でさ……兄上も魔力使い果たしたから仕方ないよ」


「いや、いかん。魔力枯渇で倒れるのは肉体を鍛えておらんからじゃ」


 そうだったのか。

 確かに俺はMPが0になるまでぶっ放しても平気だったけどそれってなんだかんだ鍛えてたからだったのかもなー。

 ま、今はそれより


「とりあえず、この奥に魔物がいるらしいからさっさと倒しに行こう。もう既に貝にやられて何人か魚になっちゃったんだ」


人魚達あいつらをここに連れてきたのか!?」


「事情があってね……でも揉め事を起こして面倒だから後ろで待機して貰ったよ」


「それがいい。人魚達あいつらが全員魚になるのも時間の問題だからな……ここに来るまでに魚泳いどったろう」


「うん。今もね」


「どうやらここらの魚は全部元人間の様なんじゃ」


「何だって!?」


 ボン爺の話を聞けば、泳いでいる魚のうち一匹を魔物と思い倒したらしい。

 するとみるみるうちに人間の姿となり沈み地面の貝に触れるとまた魚の姿に戻ったらしい。

 

「……あのさ、もしかしてその人間ってのは前にスライム達が言ってた沈められた島の住民なんじゃないか?」


「ああ、わしも同じ考えじゃ。そういう訳でここらの魚は避けて奥に進むぞ」

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