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148.ダンジョン


 人魚って生き物同士は超音波で連絡手段が可能らしく、先に向かったベラとジルから居場所を突き止めた。

 しかも人魚の移動は速い。


 そういう訳でボン爺たちが向かった先にはすぐに着いた。


 ルッカはもともとの能力で場所が分かるらしく耳を抑えながら逃げるようにして高速で消えた。

 無駄にジグザグな動きで突っ走って行ったけどあれに意味があるのかは知る由もない。


 俺も人魚から貰った布の服があるからルッカに追いつこうと思えば出来そうだったけど、折角だからここは人魚に運んで貰うという提案を異論も出さずに素直に受け入れた。

 何でかって?

 そりゃ当然、あんなナイスなバディーで美人のお姉さんにくっつける機会なんてそうそうないからに決まってんじゃん。

半魚人ママの召喚した人魚達が俺を奪いあう姿、こんなにあからさまにモテるなんてなかなかないからな。

ここで人魚達こいつらから逃げられないならばと前向きに判断した結果だ。


 着いた先には如何にも怪しい謎の祠。

 岩が乱雑に積み上がってるだけの簡素な物だが自然に作られた物ではない事は見て分かる。

 誰かが作った上に、確実に中には知能のある魔物がいると思わざるを得ない。

 こんもり積み上げられた大小の岩に扉もないオープンな入口があるだけの小さな家のような感じで奥行きもない。

 入ったらすぐにボス戦か、それとも地下に深く進んでいくタイプのダンジョンなのかはまだ分からない。


「ここは最近出来たのよ。中には宝石の様な沢山の貝があって、そこの奥に小さな生き物がいるの……ママをあんな姿にした奴の巣よ」


 俺を愛おしく抱きしめる人魚の一人が耳元で無駄に悩ましげに囁く。

 守護神アイゴンのおかげで耳がくすぐってえ位にしか感じないけど、色っぽい事には変わりない。

 まあ、でも俺はミラ先生みたいなタイプの方が色気を感じるけどなーってどうでもいいか。


 こんな深海に人?工物って怪しさしかないとは一目で感じ取ったけどやっぱりそういうことかよ。

 戦闘は避けられないんだろうなー……


 洞窟の入り口にはベラとジルの二人の後ろ姿が見てとれた。

 不安そうに身を寄せ合い、洞窟の中を伺っている。

 ていうか……ボン爺、いなくね?


「なあ、ボン爺は!?」


「レオン様‼︎ お待ちしておりました! ごめんなさい。おじ様は……どうしても一人で行くって」


「何だって⁉︎」


「私達も着いていこうとしたのだけど、どうしても駄目だって……」


 心配そうにしつつもおそらくその時の状況を思い出しているのかやけに頬を赤らめつつ身をくねらせる二人。

 何てこった。

 いや、確かに直近のボン爺を見てれば言いそうな事だけどさあ、そこは上手く追跡して護衛しろよ……

 っていうか、ボン爺を一人で行かせたとなりゃ他の人魚達みんなられるんじゃねーの?


 めんどくさいもめ事が起きるかと思えば、例の超音波による会話によりもう話は通っているらしかった。

 人魚の道理としては『殿方の意見は絶対』らしくベラとジルの取った態度は正しいらしい。

 ただし結果としてボン爺が負傷したり死ぬ事があれば即ベラとジルの首ははね飛ばされるっつーハイリスクな掟だ。

ぶっちゃけそんな人魚の理屈みたいな物は俺にとってはどうでもいいんだけどな。

 幸いにしてベラとジルが洞窟の手前でかなりボン爺に食い下がって時間を稼いでくれていたらしいからまだそれ程経っていないらしい。


「急ぐぞ! ルッ…ロッカ! ボン爺の場所は分かるか!?」


「当然っ! 急ぎましょ…じゃなくて急ごう!」


 兄貴に回復は施してステータスは確認したが目を覚ます気配はない。

 本当は目を覚ますまで待ちたかったけど、仕方ねえ。

 ボン爺を追うのが優先だ。

 人魚達には頼まなくても嬉々として兄貴アンドレを運んでくれるっていうか既に取りあっているしな。やれやれだぜ。

 しかし駄目だ、時間の無駄だ。

 洞窟の入り口手前で早々にアンドレ争奪戦の火花が飛びはじめたところで、人魚達にジャンケンという概念を教えてやり勝者が兄貴を運ぶ事になった。

 何なら順番でも運んでもいいんじゃね? とついでに提示した平和的な解決策は、まるで天才かの様に賞賛されたが、今は急いでるんだっての!

 きゃいきゃいとはしゃぐ人魚達に向かって叱りつけると、嬉しそうにぴたりと大人しくなった。これで猟奇的な怖さがなければなー……

 慎重に洞窟の入り口を軽く覗き込むと、壁面にも地面にも貝だらけだ。

 淡く光り輝き中は明るく視界は良好、三メートルほど先に、穴が開いているからそこから地下に入るのか。

 貝に触れたらまずそうだから壁にも地面にも触れられない……厄介だな。

 魚人化は絶対に避けたい。

 地面には貝を踏みつぶした形跡は無いから、つまり……


「泳いで行ったのか。ボン爺がこの先でトラブってないといいんだけど……」

 

「レオン様、おじ様にはせめて御守り代りにと私の身につけていた衣を一枚お渡ししたので心配ありませんわ」


「まじで? やるじゃん。ジル」


「私はベラですわ。でもレオン様に褒めて貰えるなんて嬉しい……!!」


「おっと、似てるから分かんなかったぜ。ベラ、サンキューな」


「ベラとジルは着ている布の色もメイクも違うからすぐに分かるでしょ…だろ?」


「きゃああっ!! ロッカ様は女心も分かるのですね! 今までの殿方はみなレオン様と同じように違いが分からないみたいだったので殿方とはそういうものかと思ってましたわっ」


「えっ? ああ……まあね。僕も女装させられてたからさ、少しは分かるだけだよ」


 顔を強張らせて珍しく歯切れの悪いルッカ。

 俺を茶化すつもりだったけど、その表情は今確実に言った事を後悔してんのな。


「さ、レオン様。早く私たちに捕まって下さいな。レオン様の許可を頂ければ今度は私たちも入る事ができます」


「お、おう。そうだな。この先の移動は人魚プロに任せるよ」


 間近にいた人魚に抱きしめられて中に入る。

 淡く光る貝の照明は、人魚ハウスのぎらついた魔石よりもよっぽど目に優しい。

 これで呪いがなけりゃ綺麗なだけなのに……。

 地下へと進む穴は大人二人が並んで進める程度の大きさで、どこまでもびっしりと張り付いている貝の光で綺麗なトンネルみたいになってるけど幅が狭くかなり危険だ。

 しかし、俺を連れた人魚は躊躇なく潜っていった。


 そしてそのトンネルの先に広い空間が見えてきた時に事件が起きた。


「ねえ、そういえば何でお前がレオン様を連れているのよ?」


「「「「「っ!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 すぐ後ろから聞こえてきた一人の言葉により、この狭い空間で俺争奪戦が勃発。

 人魚達にさっき覚えたばかりのにわか平和的解決策ジャンケンは既にすっかり忘れているらしい。


「ばかっ! こんな所で止めろよっ!!! うおおっと!!」


 突然のもみ合いにより総勢でもみくちゃになり数人が壁にぶつかり、貝に触れた人魚数名が、目の前でみるみる魚に変化していった。

 ママみたいに半漁人ではなく、熱帯魚のように鮮やかな色の小さな魚に。

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