145.進行
一方その頃、メイ達は故郷であるビュイック諸島に戻ってきていた。
あの難しい人魚達と上手く渡り合うのはそう簡単ではないと想定した結果、スライムの棲む何もない島に向かうよりも良いだろうというマリアの判断によるものだった。
メイの愛らしさの虜となったスライム達も賛成し、身体を冷やしてしまった事を反省し、水圧で潰されてしまわない様、水面近くまで上昇してその身の蒸発の危険を犯しつつ、無事に島へと送り届けたのだった。
懸念していた、島へ張った結界を難なくすり抜ける事が出来た魔物スライム。
その心にメイ達の安全を願う純粋な思いしかなかったからだろう。
ここは南の最果ての地であり、彼らにはもう会えないかもしれないとどこか考えていた獣人達はこのまさかの帰還に喜び、そしてここまで連れてきてくれたスライム達への感謝と娘達の安全の為に島に帰す判断を下したレオン達への無事を祈り、日夜を問わぬ祭りが延々と続けられた。
人魚達の底なしの強さを感じ取る事が出来たのはこのメンバーの中ではディアーナだけだった。
魔族にも真向から立ち向かえた自分があの場で、妖艶で美しい人魚二匹を前にして足が竦んで何も出来なかった事実に、驚きを隠せなかったディアーナはこの機に改めて身体を鍛える事にした。
そして同時に美への修行も開始。
彼女なりに海底での反省をしたところ、人魚達の美しさを目の当たりにして女性としての敗北を感じた事が要因であると分析した結果である。
島の果物やスライムパックにより美白を目指したが、肌はきめ細かく美しくなったものの、効果はあまり得られていない。
アイリスはもう一人の兄上であるレオンと離れてしまった不安を拭い去る為に、自分に出来ることを模索した結果、島の獣人達から編み物や道具作りを本格的に学ぶ事にした。
そして体力をつけるためにディアーナからメニューを組んで貰い身体強化に励んでいる。
そして、兄レオン達の無事と帰還を祈り捧げる日々を送っている。
マールはこの機会に徹底的に音痴を治すべく声楽のレッスンが再開された。
今のところまだ効果は表れていない。
マールの歌声が聞こえるとこの島の守り神であるアイゴン達が落ち着かなくなり泉のある小島から出ようとして結界の張られている端に集まるという現象が起きるようになった様だ。
しかしそれに気づいているのは長老のみ。
単純に不安定に外れる音を嫌がっているのだろうと、マールが歌う時は長老のみアイゴンの小島付近へ向かい謝罪の歌を紡いでいる。
次に師匠ルッカに会った時に堂々と披露したいと今日も大きく外れた元気な歌声が島中を賑わせている。
メイには少し変化があった。
両親に再開出来た事を喜びつつも、眠っている間にレオン達に見捨てられてしまったのではないかという不安が拭えないでいるのだ。
ディアーナが幾ら当時の事情を説明したところで当時寝ていたメイには理解出来ない。
今回はディアーナやアイリスやマールがいるとはいえ、メイの頭には以前領地で一人だけ置いてきぼりにされた事ばかりが思い出されてしまうのだ。
その結果、前回で過ごしていた様に幼馴染やマールと遊ぶ事は少なくなり、代わりに日に何度もディアーナに勝負を挑む様になった。
ディアーナも対人戦が出来る事からメイへの手ほどきを喜んで受け、そしてメイの気持ちを汲んで以前とは違い、何度もメイを砂浜へ叩きのめした。
痛みにより涙を目に溜めつつも、ディアーナからの指摘を良く聞いて諦めずに向かっていくメイの姿を見て、感銘を受けたのかモルグ族の持つ本来の血が騒いだのか獣人達も次々にディアーナへと挑んでいった。
この事により島全体の戦闘力が上がっていく事となるーと、後に彼女たちの姿を熱い視線で見守っていたスライムは語った。
「あっ! スライムさんたちこんなところにいたの? だめでしょ、かんそうしたらしんじゃうんだから、メイたちがいっしょに行ってあげるからうみにはいろう?」
『ピュッ!!? ピューン!!! ピューンッ!!!』
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「さっさと行こうぜ。ルッカ魔物はどこにいんの? 視えるんだろさっさと案内しろよ!」
『なによー。いきなり急かしてどうしたのー? どうせメイちゃんに早く会いたいとか考えてるんだろうけどー』
「悪いかよ! せっかく上手く脱出出来たってのにボン爺を操りやがって」
『うまく逃げられたって……レオン、あんた本当にそう思ってる? どうせこっそり後をつけてるのが何匹かいるんだから』
「マジか!?」
『あったり前じゃん。なんとなくの年の功ってやつかしらね? こうなったらちゃんと実績作っておくべきなの~。ママもやられた魔物倒せたらハッタリでも少しは強いって思いこんでくれるでしょー? ルッカちゃんに感謝しなさいよー』
「すっげえな……ルッカさ、マジでそこまで考えてた?」
『へっ!!? …とっとうぜんでしょー!!!』
どうにも嘘くさいが、人魚が二匹…おそらくベラとジルが遠くに潜んでいるらしい。
俺たちを疑って監視しているというよりかは、ボン爺に「大人しくしてろ」だの俺に「付いて来るな」と言われた事を配慮しての事らしい。
そして危険が迫ったら助けに入るつもりで俺たちを見守っているようだ。
『もう少しで魔物の処につくけど、『鑑定』ができる圏内に入ったらそこでまってなさいよ。先に天才ルッカちゃんが偵察してきてあげるんだから!』
張り切るルッカはありがたいぜ。
まだ魔物本体が目視で確認できない距離で『鑑定』に引っかかった怪しい文字が見えてきた。
数が妙に多いな……それに動きもない。
でも変わった魔物っていえばあれぐらいなんだよな。
『鑑定』で表示されている魔物の特徴は、呪いスキルLv6~最大で9を持っている事だ。
迂闊には近づけないパターンだ。
そしてじりじりと進み、透き通るように難色にも光を放つ石のみたいのが沢山転がっているのが見えてきた所でいったん待機。
ルッカの帰りを待つ。
おっ戻ってきた、戻ってきた。
『ルッカ様のおかえり~!』
「よっお疲れ! あの石みたいなのだろ? 何だった?」
『石じゃなくて貝ね。もう少しいくと親っぽいおっきいのもいたわ。光ってるしママ達が欲しがったのも分かるわね。めずらしい感じするもん』
「呪いのスキル持ちだし間違いないだろうな。しっかしスキルレベルが高いからな、アイゴンを解き放ってみるか」
『っていうか、数も多いし直接の攻撃が効くか試さない? せっかく馬鹿王子さん連れてきたんだから』
「ルッカ……お前、よくそんな悪いこと思いつくな。俺でもそこまでは考え付かなかったんだけど……あいつを盾にするってか」
『ピンポーン。でもさ、馬鹿皇子さんも理由は分からないけど死にそうなんだしもしかしたら呪いでお魚さんになったら元気になるかもしれないじゃない?』