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140.ママ


 「早く入って! こっちよ」


 人魚達の棲む里、ヨスミジャは陽の光など届かない暗い海底にあるのだが、悪趣味にギラギラと輝くおそらく魔石で彩られており中途半端に明るい。

 珊瑚を海藻で上手い事繋げて覆い尽くし、海底洞窟ってわけでもないのに一帯をドームの様にしている。

 だから、里っていうかハウスって感じなんだよな。

 そして何らかの魔法でも使ってるんだろうけど、入り口から一歩中に入ると周囲の水が温かくなった。

 温水プール並のあったかさだと思ってくれていい。

 次に外に出る時相当寒そうだなー……。

 ドームの中は外の暗さよりかは幾分かはましだけど薄暗くてしかも相変わらずギラギラした装飾で光っていて、まあはっきり言って正直気味が悪い。

 美人のお姉さん達に囲まれていて、さながらボッタくりバーのような怪しさ満載だぜ。


 怪しいドームの中は

 さり気ないが抜け目のない所作によってそれぞれが人魚達に両腕をとられて微妙に距離を取らされてしまっている。 


 入り口で逃げられなかったからもう腹を括って中に入るしかなかったけど、生きて帰れるんかな。

 ル……ロッカも今は全員と会話が出来るから、作戦も立てられないし。

 

 ルッカがチラッと振り返って『だから言ったでしょ』とばかりに機嫌悪く睨みつけてきた。

 あいつは、俺の脳内を読めるからな。

 あの場ではしょうがなかっただろと伝えるとぷいっとそっぽをむきやがった。


 そう考えると、今まで俺とルッカは念話してたってわけじゃないんだな。

 俺が一方的に脳内でルッカに話しかけていただけでルッカは普通に喋ってたんだ。

 完全に念話が可能なのはマリア様だけかー、早く戻ってきてくれないかな……ってなんでまたルッカは睨んでくるんだよ。

 

 とにかくボン爺とも相談したいし、兄貴アンドレからこれまでの経緯をもう少しゆっくり聞いておきたい。

 でもあの人魚おねえさん達、手強そうなんだよな……うまくやらないと。

  

 ベネット国王のくれた手形がどれほどの効果を発揮してくれるのか、自信が無くなってくるぜ。

 目の前にこんな兄貴イケメンがいたらどんだけ上手い事言ったところで霞むよなあ。


「そうだ、ねぇ。レオンとボンおじ様はママに会う前にお着替えをしましょう。その恰好も良いんだけど身分を隠しているだけで本当はお貴族様なんでしょう」

「昔、手に入れた素敵な衣装があるのよ」

「そうよ。私達の島に来てくれた素敵な殿方の服をね、大切にとってあるの」

「悲しい事にもう亡くなってしまった方の物ばかりなのだけど、綺麗に保管しているからまるで仕立てたばかりの様なものばかりよ?」

「お衣裳には罪はないから今までその服を見ては素敵だった殿方の事を思い出しているのよ。着てくれるひとが現れてくれて嬉しいわ」


 ……人魚達から逃げようとして殺されたって事を言いたいのか?

 ここに来るときにベラが一緒にいれば年を取らないとか言ってたし、暗に『死にたくなければ言う事を聞け』って言われてる気分だ。


「ね、この機会にアンドレ様も衣裳をお変えにならない? その白いローブ姿も神々しくてとても似合っているけど、他の姿も見てみたいわ」


「はは、ありがとう。でも私はこの布で充分なんだ。私などが亡くなった貴女方の大切な思い出の服を着る訳にはいかないよ」


 ……兄貴のナチュラルに見事な躱し方を俺も参考にしよう。


「ああっ! レオンの様な子供の服が無いわ」

「今までは大人の男ばかりだったから……チッ……」


「あっ俺もこの服装で良いです。貴族と言っても田舎の領地だったし長旅でこっちの方が着慣れてるし」


 メイの地元では藁みたいのしか巻き付けてなかったし


「あら、礼儀正しい子だって言ってたけど本当はそんな話し方なのかしら? そういうのもいいわ。好きよ」

「お兄様とはあまり似ていないけれど、レオンもとっても可愛いわ」

「大人になったらきっと素敵な男性になるわ」

「楽しみね! レオンには念を入れて成長速度の調整をしないと」


 げ、俺の貴公子スキルのメッキが剥がれた。

 兄貴アンドレも「レオン……?」と小声で呟きつつ驚いた表情だ。

 今まで兄貴の前でも一応ちゃんとした弟君を演じてきたのになー……まあいっか。

 そんな事よりも人魚達の言う事がいちいち危ねえ方が気になるぜ。俺の成長を操作コントロールするってか。このままじゃ俺たちは人魚達あいつらのただの人形になるぞ。


 ボン爺も「わしはレオンの護衛で只の冒険者だ」と衣裳を断るとなぜか「冒険者…? キャーーーッ」と黄色い歓声がドーム中に響き渡った。


 ボン爺は冒険者という事で着古したマントの着用は許されたが、なぜか俺のいい感じに薄汚れてきたマントは許されず、人魚の手ではぎ取られた。

 断固として拒否しようとすると、にこやかに両手で頬を撫でられながら「坊やはお姉さまのいう事を聞かないと”めっ”よ?」と耳元で艶めかしい声で囁かれつつ、その手から鋭い爪をにょきにょきと伸ばして見せられた。

 ルッカを殺そうとした時にも見たけど、至近距離で見る鮮やかな赤い爪は良く研ぎ澄まされたナイフの様だった。

 そういう訳で、俺だけなぜか服を剥ぎ取られて人魚達の着けている布の風呂敷版みたいなやつを兄貴アンドレ同様ローブの様にして着せられた。

 ……なんか心もとないぐらいすーすーする。


 お姉さんにはこう言うのが効くんじゃねーかと一か八かで「俺はこんなの嫌だ! 服を返してよ!」と強めに言ったら案外受けたようで綺麗に選択して宝石を付け終えたら返してくれる事になった。

 変なリメイクはいいから早く返してくれというのは何となく嫌な予感がして言わなかった。

 今まで何かと女性陣に囲まれて生活してきたから女共あいつらに何となくの一定のラインがある様な気がするってのは分かってきたんだよな。


「レオン、似合うわよ。アンドレ様と並んで見せて」

「素敵。完全に御揃いではないけど、いいわ」

「ママも喜ぶわね!」


 母上も俺に色々着せ替えさせるの好きだったけどあの時は純粋な愛情を感じたのに、人魚達こいつらからは微妙に見え隠れする狂気を感じる。

 俺、こんなに美人のお姉さんに囲まれてちやほやされるなんて初めての事なのに……何かもう帰りたい。

 ……早くメイに会いたい。


「さあ、この先の広間にママがいるの。挨拶してね」

「ママ、また男を二匹捕まえたの! 見て‼」


「おや、それは良くやったね。誰の手柄だい?」


 人魚達の何十倍も艶のある深みのあるハスキーエロスな女の声が聞こえてきた。

 広間の中央には豪華な長椅子ソファーが置かれ、そこに一人の女性が座っていた。

 なんだかやたら長細いパイプ見たいなのを燻って紫色の煙に覆われていてまだ顔かたちは良く分からない。

 だけど、あれ人魚じゃねーよな……人間ヒト……だよな。


「私とジルよ!」


「ほう、年若のベラとジルもやっと狩りに成功したのかい。良くやった、ベラ、ジル、二人で獲物をここへ」


「「はいっ!!」」


 ママとやらに呼ばれて、嬉しそうにハキハキと返事をしてすぐに俺とボン爺は二人に強く引っ張られて近くまで連れて行かれる。

 ル…ロッカもいやいやそうにのろのろと付いてくる。

 長椅子ソファーになだれ掛かる様に気怠く座るその女性は……逆に上半身が魚だった。


 すぐさまルッカを見れば『これはなんだか可哀想……』といわんばかりの表情をしている。

 そうだよな。分かるぜちくしょうっ。こんな場面……脳内でルッカとめっちゃ盛り上がれるのに……!

 ルッカも同様の様だ。そうだよな、そうだよな!!


 そして、半魚人のママの艶めかしく美しい太腿に頭をのせて生気のない絶望の表情をたたえた馬鹿皇子ヨハンがそこにいた。

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