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138.再会


 俺をお気に召してくれたらしい人魚の名前はベラ。

 いつにも増して妙に渋い表情のままのボン爺に艶めかしく腕を絡めて至近距離で愛を囁きながら泳ぐもう一人の人魚の名前はジル。

 二人とも鮮やかなピンク色の長い髪を揺らして暗く深い海の中を彩っている。

 豊かな胸は細い布みたいな物で一部を覆うのみ。

 その布には至近距離で見ると目が痛くなるほどの煌びやかな宝石を幾つも縫い付けてある。

 生で谷間という物を見たのは前世と合わせてもこれが初めてだ。感慨深い。

 見事な腰の括れ尾の色も髪と同じでピンク色の鱗だ。

 当たると少しざらざらする。

 二人とも大きな切れ長のネコの様な目をしていてぷっくりとした唇は赤色。

 双子なのか?っていうくらい似ている。

 違いは髪の長さくらいだろうか。短いのがジル、長いのがベラだ。

 おかげで見分けは付けやすい。


 人魚を見るのも初めてだし、綺麗で美人でセクシーなお姉さんにベタベタとされるのも初めてだ。

 俺の中でのベストオブセクシー教師ミラ先生とは、同じセクシーでも全然違う。

 奥ゆかしく醸し出される大人の色気とはまた違った、あからさまなやつだ。

 ……悪くない。悪くないぞ。

 しかもベラもジルも俺の事をべた褒めだったし、今、ベラは俺の事を強く抱きしめて惜しみなくその谷間を俺に押し付けてくる。ふんだんに宝石が付いた布が痛いんだけど、それでも抗う事はできない。

 こんな一生に一度あるか分からないラッキー、今は多少の痛みを伴っても身をゆだねるべきだろう。

 ボン爺も彼女達にとっては射程圏内に入るらしく「渋くて素敵だわ」「ねぇ何かお話して?」だのジルに甘えた声で囁かれ続けている。

 ボン爺の表情は非常に固い。

 人魚達の声は呪いに近いのか無防備に聞いてしまうと幻惑されてしまう様だ。

 俺はアイゴンのお陰で何とか正気を保ってるけど、良くボン爺は平気だな。


 ルッカは霊体だからすり抜けてしまう事を幸いに、人魚達から距離をとり能面のような表情をして一人海中に浮かんでいる。


「私達の島はもうすぐよ」


「あ、あの輝かしいほどに美しい珊瑚さんごに覆われた美しい海の森ですか、ベラ?」


「そうよ。海の森だなんて詩人みたいだわ。レオンは本当に品のある子ね」

「今ちょうど貴方達のお友達にちょうど良いお客様も来ているのよ? 彼らは本物の貴族なのよ」


 兄貴アンドレ馬鹿皇子ヨハンか。


「もしかしたら、一人は私の兄上かもしれません。実は、ここまで来た理由は兄を探しに来たのです」


「まあ……それでは貴方も貴族? どうりで品の良いはずだわ。そしてなんんて優しい弟君なの……そうだったら会う事が出来て嬉しいわね」

「ここでずっと一緒に暮らせばいいわ」

「私達と一緒にいればいつまでも年を取る事がないのよ?」


 その言葉にボン爺がピクリと反応した。


「あら、おじ様ったら。ふふふ…そうよね。この子達に比べて少し大人ですもの。”年を取らない”事って人間が望む事の一つでもあるものね。私達、良く知っているのよ?」


「……いや。確かに興味が無いとはいわんが、わしらには目的があってな……すまんがすぐに戻らんといかん」


「ふふふ。人間の男はね、最初はたいていそう言うのよ。でも大丈夫よ? 私達のところに来たらすぐにそんな気持ちが無くなるから」


 人魚達ベラとジルの泳ぐスピードが上がり、深海に輝く地帯エリアへと入って行った。

 よく見たら周囲を覆う珊瑚にも悪趣味なほどに宝石がびっしりと飾られていたんだ。

 宝石っていうか、石自体がピカピカと妙に光を放っているからもしかしたら魔石かもな。

 通りで遠くからでも明るく見えたはずだ。


「さ、着いたわ」

「みんな! 見てみて! 人間の男を二匹捕まえたの!!」


「「「「「男っ!!?」」」」


 一斉に中から人魚の美女の群れが現れた。

 やっぱり全員同じ色、同じ顔だ。髪型と胸を覆うほっそい布のが違うだけだ。

 

「あら、大人の男と坊や。ベラ、ジル、上出来じゃない!!」

「どうしたのよ最近、人間の男なんてここ百年ぶり位かと思っていたのに立て続けに捕まえるなんて」

「奇跡だわ…ねぇこっちに来て……?」


「ちょっと、この子達は私達が見つけてきたんだから。見るだけよ!」

「そうよ! あんた達なんかに触れさせないわっ!」


「何を言っているの? 幾ら妹だからといっても……許さないわ」

「調子に乗っった事を覚悟するがいいわ。死になさい」


 人魚の里、ヨスミジャに着いた途端にキャットファイト……どころか殺戮が始まろうとしている。


 迎えに現れた他の人魚達の殺気に俺を抱きしめるベラの腕に鳥肌が立ち冷たく固まるのを感じた。

 俺たちを連れて来てくれたベラとジルはこの人魚の群れの中では格下なのか。

 人魚達の冷酷な殺気は俺にもしっかりと伝わってくる。

 ベラを殺す事に躊躇がないってのが分かる。

 まだ出会ったばかりなのに、っていうかこのままだと一緒に俺まで殺されるんじゃね……⁉


「死んで後悔なさー」

「どうしたんだい? 美しい声が幾分か怖く聞こえるよ。喧嘩でもしたのかい?」


 奥から穏やかで温かい聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「きゃっ! あっアンドレ!?」

「おや、みんなここに集まってどうしたんだい?」


「な、なんでもないの〜。ちょっと…遊んでいただけよ?」

「もう、ジルったら。幾らはしゃいでしまったからって女の子が大きな声を出したらだめじゃない」

「そうよ、アンドレが驚くでしょう?」

「……っ!! ご、ごめんなさい。姉さまたち……」


 ベルとジルを殺そうとしていた人魚の豹変ぶりに愕然とする。

 しかもジルに何かなすりつけやがった。


 でもって、やっぱり……あの声の主は


「兄上っ!!」


「……レオン? まさか、レオンなのか?」


 無事でよかった。

 こんな所になんでいるのか分からないけど、やっと会えた! 相変わらず細いけど、でも元気そうだ。


「兄上っ! 良かった……兄上を迎えに来たんです」


 状況を察した人魚達は粋なことに俺の為に道を空け、そして誰かがそっと”行きなさい”とばかりに俺の背中を強めに押してくれた。

 その勢いで、俺は兄貴アンドレの元へ走った。

 兄貴アンドレも驚いた表情から優しく温かい笑みに代わり、大きく手を広げて俺の元へ足を進め、俺は兄貴に(アンドレ)に抱き着いた。


「兄上、ずっと探していたんです。アイリスも。やっと見つけられました」


「久しぶりだね、レオン。心配をかけてしまったかな」

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