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136.ヨスミジャの里


 さ……寒っ。

 

 長い海中の旅になるかと思われたが、スライムの移動速度は思いのほか速かった。

 スライムののぷにぷにしたゼリー状の作りのおかげで中にいる分にはまったくその衝撃を感じる事はなく、ルッカによればそろそろ目的の地に着きそうだという。


 今はもうとにかく早く着いて欲しいという思いしかない。

 なぜなら、陽の光の届かない海底付近はめちゃくちゃ寒いんだよ。


 スライムの弱点は乾燥だ。

 だから最も火を嫌う。

 そしてその体はほぼ水分で出来ているだけあってひんやりとしているんだ。

 日よけのない状態の島でスライムに触れるのは気持ちがよかった。

 

 だけどこの真っ暗な深海の寒さの中では凍えるような寒さとなった。

 唯一メイと抱きしめ合っていられる事だけ良かったかな…とかすかに思えるぐらいだ。

 だけど普段ならこれ以上ない幸せのはずのこの状況も今は生命の危機状態ともいえる。


 もともと体温の高かったメイもあまりの寒さに徐々に眠気があらわれた様でこくりこくりと静かに寝入ってしまった。

 ……こういう場合って寝たらまずいんだよな。

 だけどこんなところでメイを失うなんて俺には考えられないからな。

 着ていたマントでメイをくるみ、スライムの表面になるべく触れないように抱きしめて体をさすってやっている。

 正直、めっちゃ寒い。

 さっきから歯がガチガチいってるし震えもおさまんねえ。

 だけど俺よりもメイの方が超大事だしここは耐えるしかねー。


『おーおーがんばれがんばれー! 死んじゃったら楽しい楽しい幽霊ライフが待ってるわよー』


 やめろっ。

 まじで死にそうなときに縁起でもねーこと言いやがって。


『だってー。レオも死んじゃえば幽霊なの私だけじゃないんだもーん』


 くっそ! ……俺まで眠くなってきたじゃねーか……ボン爺たち大丈夫かな……アイリスは……


『なんか、あの島に生やしてきたお酒の実があるじゃない? あれ食べてるわよみんな』


 はっ?


『あの実を食べると体が温まってぽかぽかするみたい。だからなんとか耐えられてるかんじ? 酔っぱらってるけど』


 アイリスも?


『アイリスもよ?』


 へっ? アイリスだって子供じゃん⁉


『ばかねー。そんなこといってたらアイリスが死んじゃうじゃない』


 ……俺も食おう。


『えっ? レオも持ってるの⁉』


 いや、ボン爺がさちょっと持ちきれないからって俺も持たされたんだよ。

 あんな魔法道具アイテムボックス持っててなんで持ちきれないんだろうな。

 さびーさびーったしかオーブと一緒に……あったこれか、うえっ酒くせっ。


『……持ってたんだ』


 …まっず! 不味まじい……うえっ……おお! 本当だ、まじであったまるなこれ!


『……ちぇっ』


 よし、メイにも少し食べさせておくか。

 あっでもメイ……寝てるからな。ちっさくちぎれば食べられるかな。


 おおー! 食った! おいルッカ、メイが眠りながらちょっと食べたぞ!?

 見ろよ!? まじで可愛いなー。


『ふーんだ。可愛いんじゃない? なんだー、レオはこのまま死んじゃうと思ったのに……つまんないのっ』


 おいルッカ、いい加減にしろよ?

 なんで俺が死を回避したってのにそんな態度なんだよ。

 メイだって危険なところだったんだからな!


『だってつまんないんだもん……』


『ほほほほ。全くそんな幼い態度ではいつまで経っても私のような魅力的な大人の女にはなれませんよ、小娘』


『げっ! マリアっ』


「マリア様⁉ ってことは」


『そうです。もう人魚の里……ヨスミジャの近くです。御覧なさい遠くの方が妙に輝いているでしょう』


「まっまじか! 本当だ…いやに目がチカチカすんな。ヨスミジャっていうのか……言いにくいな。意味は?」


『古代語で高貴なとか極上とか美しいとかそう言った意味です。はんっ…傲慢な人魚あやつららしいセンスですよ、全く』


 マリア様は人魚がお嫌いのようだな。


『頭で思っていても聞こえてますよ。ええ、ええ。以前は私達の方がよほど美しかったですし、陸だろうと水中だろうと空中だろうと自由自在でしたからね、嫉妬していたのでしょう。私達種族がこのような虫の姿に堕とされてからは何千年にも渡って馬鹿にされてきたものです……悔しい。いつか必ず……っ』


 まっまあまあ、落ち着いてマリア様。

 ルッカもにやにやすんな。


『しっしてないわよ!』


『小娘め。覚えてなさい。元の姿に戻ったら素晴らしいプロポーションでエルフの男どもを全て悩殺してやる……』


 あっ……とーっ!

 そういえばあそこに兄貴がいるんですよね!?

 すぐに向かった方がいいんじゃないですかね!?


『えっ? ああ、そうですよ。そういえば手形の様な物しかなかったんですよね。ちゃんと練習していました?』


 ああ、”滅多に手に入れる事の出来ないかの大国の国王直筆の手形”って触れ込みにする予定なんだけど。


『弱いですね。”ロマンスグレーの光り輝く頭髪と髭を蓄えた渋く、それはそれはグリーズラインの絵画の如く美しい国王の”を付け加えなさい』


 は、はあ。ぐ、ぐりーず……?


『その昔とても有名だった精霊画を描く画家です。もう死にましたが彼の描いた絵画の価値は非常に高いのです。もっとも彼自身が良い男でしたしね……人魚達にも彼の作品には目がありません』


 なるほど……じゃあ、そうしてみるよ。


 それにしても、ヨスミジャ? に着いたところでスライムから出られないけどな。

 ……ってそういえば兄貴たちは? 生きてんの?


『生きてますよ。大丈夫です。ヨスミジャの中に入れば人魚達の力により人間でも普通に生活出来ますよ?もっとも、一度そこに足を踏み入れたら、または人魚達に取り込まれたら二度と帰る事は出来ないと言うのが定説ですがね』


 ……ごくり。


『大丈夫ですよ。いざとなったら里ごと爆破して逃げなさい。スライム達には付近に隠れて貰っていれば何とかなるでしょう』


 ……そんなもんなの?


『そうでもしなければ、貴方の兄上を救い出すことも貴方達が陸に戻る事も叶いません。要は覚悟しなさいという事です』


『来たわよ? あれが人魚なんじゃない?』


 ヨスミジャに近づき、ぎらぎらした品の無い感じの輝きの向こうから2人の人魚が向かって来た。


 ……足が無くて魚の形になってる!

 まじで人魚だ! すっげー! 初めて見たぜ!!


 尾びれをしなやかに揺らしながら、グラビアモデルばりの美女2人が近づいて来た。

 だが俺たちのスライムの周りを冷酷な品定めをする様な表情で回遊している。

 

 水の中のはずなのに、なんか……なんっつーか……すげーいい匂いがする。


『……惑わされない様に気を付けなさい』


 スライム3体を数メートル離れたところからぐるぐると泳ぎまわりながら、歌うような声が聞こえてきた。


「やっだー! ちょっとー女子がいるわよ!?」


「本当! 信じられないわ! なんか臭うと思ったのよね」


 なんて綺麗な声なんだろう。


『ねえ、レオ? あの人魚言ってる事本当に聞こえてんの?』


「こんな所に人間がいるなんて私達が目的なんでしょ? 姉さんに調べてこいって言われてるけど、女子は全員ここで殺してもいいわよね?」


「ねぇ……可愛い男の子がいるわよ。あっちには素敵なおじ様がいたし……二人は連れて行きましょ」


「当然よ」


『えっちょっと、まずいって。レオ!』


『グルアアアッ‼』


 はっ! 俺は一体……


『アイゴン、ありがとう……ちょっと、レオン人魚達あいつらレオとボン爺さん以外は皆殺しにするつもりよ! 何とかしなさい!』


 えっ? まじで!? あのお姉さん達がそんな事言ってた?


「ねぇ、可愛い坊や。私達と一緒に遊びましょう?」 

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