135.海中遊泳
俺たちを中に取り込んだスライム達はどんどんと潜っていく。
深く沈んでいくと陽の光が少しずつ届かなくなっているのか暗くなってきた。
確か次の目的地は海底とか言ってたよなー。
このままじゃ真っ暗になるんじゃね。
やばいな。灯りが欲しい。
前にロイ爺がやってくれたみたいな灯り…あれも魔法だよな。
どうやってやんのか聞いときゃよかったぜ。
っても聞いたところでロイ爺は教えてはくれなそうだけどさ。
技術も実践のみで体で覚えろって感じだったし魔法に関しては自分で覚えろとしか言われなかったし。
あの時は俺、土人形の方が興味あったからそっちばっかり練習してたからな。
ちなみに30cmくらいの土人形は作れるようになったんだぜ?
よくメイのお人形遊びの時に作ってやったんだ。
はぁ〜。今の旅もなんだかんだいって結構面白いけど、領地にいた時は平和だったな。
懐かしいぜ。ロイ爺は元気……だろうな。
まあ、いいや。それよりも灯り灯りっと。
ボン爺なら出来るかもなー……ルッカちょっと聞いて来いよ。
『おーう! あいあいさー! まっかしとけー!』
おっ! いいね。ルッカノリノリじゃん。
『ふふふー! こんなことルッカちゃんぐらいじゃないとできないもの〜』
「あいあいさー! ルッカねーね、あいあいさー!」
『うふっ。メイそれは使い方が違うのよー。じゃ行ってくるわー』
海に入る前に今後の伝達役にルッカが一役かってくれることになったんだ。
アイリスには負担をかけちまって悪いけど光の力を使ってもらってさ。
「大丈夫です。私、この旅で色々な物を見聞きしたり食べたりして…なんだか神殿にいた時には感じられなかったのですが、体中に力があふれているような気がするんです」
と、アイリスも張り切ってくれている。
ルッカは、ちょっ早でボン爺たちの元へ行くとするっとスライムの中に潜り込み何やら話した後すぐに抜け出てアイリスたちの所へ行ってしばらく話しこんだ後にアイリスがうなずくのが見えた。
そして、それぞれのスライムの外側にぼんやりとした光の玉が浮かび明るくなった。
なんだこれ、ロイ爺のやつと違うな。アイリスがやったのか?
『ふーうっ! ただいま。ボン爺さん「灯りは松明とか火魔法なら出来るけど、ここでは無理じゃ」だって。だからルッカちゃん機転をきかせてアイリスに頼んできたわよ。あの子光の子だし、いけるでしょーって押し切ったら「やってみる」って。で、出来たじゃない? やっぱり素直な子っていいわよねー。私あの子好きだわ~』
ルッカさ、ちょっと妹に無茶させんなよな
『なによーじゃレオがやりなさいよ。まだポイントあるんだからスキルであるわよ『ランプ』とか『照明』とかありそうじゃない?』
いや、今はメイも近くにいるし難しい。
あんま頻繁にスキル取っても怪しまれるじゃん。
『じゃ、アイリスの能力に頼むしかないでしょ? ふふーんだ』
確かにな。とりあえずアイリスは献身的な感じがするからせめて兄としてステータスを見守っておくか。定期的に近づいてもらってスライムごと回復すればいいし。
それにしてもメイのやつ、さっきから俺に抱き着いてて可愛いな。
耳がちょっとくすぐったいけど……ってあれ!?
狭くなってね?
……あっ……そうか。
水圧か。
でかくて2人なら結構あったスペースがどんどん狭まってきている。
やべっ。良くみりゃボン爺たちも窮屈そうにしてんじゃん。
このままじゃそもそも海底まで持たないじゃん。
……俺の重力魔法で何とかなるかな。
試しに俺とメイの入っているスライムの周辺の水圧を相殺するようにイメージしてみると、徐々に広さが戻ってきた。
おっいけるじゃん。
遠隔だとちとMPの消費が激しかったけどボン爺マールチームとディアーナアイリスチームのスライムにかかる水圧も元に戻す事が出来た。
よし。俺もなかなかやるじゃん。なあルッカ?
『ふーん。私も来世では重力魔法取ろっかな』
なんだよ、つまんねーな。
俺の努力の成果を知ってるやつってルッカしかいないんだからさー、もうちょっと褒めてみようぜ?
『分かったわよ。すごいすごーい! あっ私ディアーナとお話しにいってこようかな〜』
「あっ! にーにみてみて? おおっきーいおさかなさんだよー!?」
「えっ? ああ本当だなー。っておかしくないか?こっちに向かってくるぜ」
『光に反応しているのかしら?』
「いや、ボン爺たちとディアーナたちは無事だ。俺たちだけ狙われてるっ!」
とっさにメイを抱き寄せて、襲い掛かる巨大な魚を見る。
どうする!?
ここから攻撃したらスライムに穴が開く……っていうかスライムごと攻撃することになるぞ。
だけどこのままじゃな……指先から細かい針状にして氷でも飛ばしてみるか。
「ごめん。中から攻撃を仕掛けてもいいか?」
『ん? あーあの程度の大きさの魚は餌みたいなものだからそんな必要はない。今はお前さん達がいるから食わないが麻痺でもさせておこう』
そう言うとスライムは身体の一部からどす黒い液体を大口を開けて至近距離まで近づいて来た大魚の中に吹き飛ばし、その瞬間に魚の動きがピタリと止まり……静かに海底深くへ沈んでいった。
「すげえ……猛毒じゃん」
『そうだろうそうだろう。どんな種類の毒でも作れるぞ?』
怖。仲間になってくれて良かった。
っていうか、島に着いた時に敵とみなされなくてマジで良かった。
「おさかなさん、しんじゃったの? かわいそう」
『レオンとやら、メイちゃんに死んで無い殺してないと伝えてくれ。至急だ』
「わ、分かった。メイ、お魚さんは死んでないんだよ。危ないから……ちょっと眠ってもらったんだってさ」
「……そうなの? よかったあ」
メイがほっとした表情をしたのもつかの間、俺たちの乗るスライムにだけやたらでかかったり凶暴そうな魚が次々と襲い掛かってきた。
そして、スライムは悠々と沈めていった。
一体……何が起きたっていうんだ。
俺達ばかり狙われるって……。
『あ、それなんだけどアイリスがねちょっと距離が遠くてこのスライムだけ光の付け方がおかしくなっちゃったみたいなのよ』
は?
『私も、外から見てみたんだけどなんていうか……光が少しびよーんって垂れ下がっててね? 美味しそうっていうか…そうなの。美味しそうに見えるのよ』
……提灯アンコウみたいってことか?
『まあ、その意味は分からないけど落ち着いたら付け直すから近づいて来て欲しいって』
少し離れたところにいるアイリスの方を見ると、申し訳なさそうな表情をしていた。
そして光魔法をかけなおしてもらってからは、襲われることもなくなり、快適な海中の旅となった。