130.マリア 2
兄の居場所が分かるとマリア…様は言った。
馬鹿皇子を追い、兄を追い、そして船に乗り海に出た。
そして突如大蛸に出会い吹っ飛ばされてメイの故郷にやってきた。
色々あったな。
そして行くあても分からずに俺たちはまだ海へ出る事になるって直前に兄の居場所が分かると虫は…じゃなくてマリア様は言ったんだ。
ルッカのもつ『千里眼』という能力を持ってしても出来なかった事をマリア様は出来ると。
「……ルッカ、すげえショック受けるんだろうなあ」
『でしょうね。でも大丈夫ですよ。あの小娘はそんなタマじゃないでしょう。私がなぜ貴方の兄の居場所が分かるかといえばただヨハンの血を取り込んだからですから』
「ああ……なんか、すいません」
『いえ、構いませんよ。私も早く貴方の兄にお会いしたいので急ぎましょう』
うん? えっ?
「兄貴に会いたい……? っていうのは?」
『別に。神殿でアンドレより感じる力が気になったものですから。神のみが本来持つべき力を持ちすぎていました。アイリスもですけど、ただの人間風情があるまじきこと。古より生きる私にも初めての事です』
「そうなんだ。やっぱり兄妹の方が特別なのかよ」
『そう卑下する必要もありませんよ? 潜在能力で言えば貴方の方が上の様に思いますが』
「まじで? どこが? 俺って何か秘めた力があるって事⁉」
『さあ、どうでしょうね。調子に乗りそうですから言わない方が良いでしょう』
「やった……そっか。なんだ俺って、アンドレとアイリスよりすげえんだ。安心したぜ」
『そうそう。貴方はそれでいいんです』
「で? 馬鹿皇子達はどこにいんの⁉」
『海底です』
あっそう。海底ね。オッケーさっさと行こうぜ。
んで兄貴回収したら俺はもうメイと一緒に楽しくこの島で暮らすだけだし。
「……って海底かよ⁉」
『先に言っておきますが海底まで行く方法など私は知りません』
「何で? さっき、情報収集のプロみたいな事言ってたじゃん」
『私だけなら行けますけど、人間は無理でしょう?』
「はあ。じゃ海に潜る方法考えるからマリア様は先に兄貴を探しといてよ。海底って言っても広いし」
『……折角この私が眷属になってやったというのに早速こき使うとはいい度胸ですね。いいでしょう。居場所を突き止めたらまた戻って教えましょう』
「ちょっと待てよ。俺たちの所に戻ってくるまでにまた逃げられるんじゃねーか?」
『なるほど……ではこうしましょう。私の触角を一本引き抜きなさい。それだけでいつでも私と繋がりますから』
「えっ? いいの?」
『再生しますから問題ありませんよ。さ、痛くしないで下さいね。触角の根元にある節の所から一気に抜いて下さい』
「お、おう。じゃ、いくぜ」
『いだだだだだだだだっ! なんて無礼な……力が弱い!』
「だって固いんだよ。思ったよりしっかりしてて! っていうかさ、さっき俺のこと跡形もなく消し炭にできるとか言ってたじゃん。 それで馬鹿皇子を消して兄貴を連れて帰って来てくれよ」
『残念ながら私は殺生はしない主義なのでそれは出来ません』
「なんで? 俺の事殺そうとしたじゃん」
『言葉のあやですよ。神の御使いである高位の生物である私に失礼な名前を付けようとしたから少し脅しただけです』
「あっそう。でもさ、そこを何とか頼むよ」
『いえ、諸事情につき無理です』
「諸事情って?」
『はぁ……その昔私たちはとても美しい存在でした。それはエルフよりもよほど美しかった。でも一時この世界の闇を司る魔王なる者が現れましてね、ちょっと……いい男だったものですから力を貸してしまったのです。……悪い男で、でもその時はそんな所も素敵とか考えてしまうわけですよ。恋は盲目ってやつです。そして私たちは魔王の為に喜んで手を汚した上様々な有利な情報を垂れ流しました』
「なるほど。最悪だな」
『仕方なかったんです。全て終わったら結婚してやるからとかなんとか言われたらもう……分かるでしょう?』
「分かんねーけどな。それで?」
『それで、魔族の勢力が強まりいよいよっていう時に……私たちは誰が魔王と結婚するかということで揉め、魔王に詰め寄りました。すると面倒くさくなった魔王は私たちに呪いをかけこの様な姿にされてしまったのです……』
「……続けて下さい」
『その後、神から厳重に注意を受けました。しばらくそのままの姿で仲間同士争わず、そして殺生をしなければいつか元の姿に戻すと』
「謹慎期間は?」
『分かりません。今、また魔王が復活したとかいう噂を聞きましたから……しばらくは無理でしょうね』
「ま、そうだろうな。元カレにまた騙されてころっといかれても良いことねーもんなー」
『もうそんなに魔王に未練はないんですけどね。酷い仕打ちを受けましたし……でも、もう一度会ったら…あの時の魔王の気持ちを確かめたいとは思いますけど』
……まだ未練たらたらだな。
「マリア様……気をつけてな? もっといい男はいるって」
『心配頂かなくとも大丈夫ですよ。その後、神より魔王には半径5m以内に近づけない接見禁止の呪いをかけられていますから。神の御使いである私と魔王は……決して結ばれない運命なのです……』
あっそう。
『話を戻すと、そういうわけで私は殺生ができません。早く触角を抜きなさい』
「……分かったよ」
抜いた直後、すぐに真新しい艶々した黒光りのする触角が生えてきた。
再生能力パネエ。
貰った触角は無くさない様にと何度も言われ、なんなら食べろと言われたがそれは丁重にお断りしてオーブを入れている袋の中にしまい込んだ。
それだけで十分連絡可能らしい。
触角をしまい終えたところをしかと見届けた後、マリア様は羽を広げるとさっさと夜の海へ向かい海面に優雅に着地すると器用にすっと潜り込んで姿を消した。
……となると俺たちは海に出ないでこの島に待機してた方がいいんじゃねーか?
それならメイも喜ぶな。島のみんなも。俺も嬉しい。
『残念ながら予定通りさっさと海へ出て下さい。私が随時連絡しますから。ひとまずは族長に教えられた島にでも向かって物資の補給でもしておきなさい』
「ぎゃあっ! マリア様っ⁉ な、なんで⁉ おっ俺喋ってもないのに……」
『その触角、便利でしょう。私が眷属になれて良かったですね? 有り難く思いなさい』
「ね、念話……?」
『だから便利でしょう?』
確かに便利だけどさ……勘弁してよ。思考を読まれるのはルッカだけで十分だってのに。
『ほほほ。心配せずとも所詮人間の子供などの戯言は私には何ともありませんから』