128.コミュ力
三日ほど経って、舟の完成も間近になったころにはこの島の俺たちの家まで完成してしまった。
簡素だけどしっかりした造りの家だ。
俺たちはここ数日中にはこの島を出発するって知ってるはずなのに、それでも何か恩返しがしたかったのだそうだ。
それだったら旨いメシを毎日食わせてもらっているだけで十分だったんだけど「あなた方はこの島のために、島に住む我らのために尽くしてくれました。あなた方は恩人であるだけでなく、もうこの島の一員だと我らは思っています。だからまたここにいつ来ても良いようにあなた方の家を用意したのです」なんて言われてしまったんだ。
そんな獣人達想いをストレートにぶつけられるとぐっと胸に熱いものがこみ上げてくる。
俺たちにとっては偶然この島に漂浪して来ただけだし、アイゴンのことだって別に大したことしてないのにさ。
この島のみんな、陽気だし親切だし凄くいい人たちばかりなんだ。
この島の人たちに育てられたメイが可愛くて天真爛漫でとっても良い子なのも良くわかるぜ。
ボン爺は「老後はこの島でのんびり過ごすことにする」と決意を固めた。
その言い様からまだ老後ではないと感じて安心したけどさ、ずっと一緒にいてくれるわけじゃないんだなって思うと寂しくなるな。
ま、ボン爺はもともと冒険者だったわけだし、たまに聞く昔話からもどこかに定住して暮らしていたってわけじゃないみたいだもんな。
つーか、俺も、将来メイと結婚したら貴族位なんか捨ててこの島に婿養子に入ってもいいな。
まだこの島にきてから大して日が経っていないいないのに、もう長年ここに暮らしてるんじゃないかって錯覚しそうなくらいみんないい人たちみたいだし、このカラっとした気候も好きだ。
メイの義理父親と義理母親ともうまくやっていける自信もある。
そのためには兄貴をなんとしてでも見つけないとな。
夜、この島の保全対策のためにルッカが頑張っている間、俺は完成した家の中で一人半ば寝ころびながら本を開いて真剣に見る。
ルッカの作業ももうすぐ終わるらしく、残すはアイゴンの進化を抑えるっつー難題だけだ。
俺がルッカから離れてこの新築の家でくすぶっているのは俺のアイゴンが悪さをしないための対策だ。
「考えとくよ」って言った割にはまだいまいち解決策が見つからない。
アイゴンに頼むっつっても「こっちに来い」とか「だめだ」とか簡単な言葉の意味は分かってるみたいなんだけどややこしい内容は言ったところで分からないんだ。
一度、試しにアイゴンに「この島のアイゴンたちに『この島に貼ってある呪いは絶対食うなよ?』って伝えてくれないか?」命令を下してみたけど躰中の目をすべてきょとんとさせてふるふると震えただけだった。
よっぽどあの虫の方が理解力がある。
ルッカもアイゴンの気持ちを受信できるだけで話せるわけじゃないしな。
ちなみに、虫からアイゴンに通訳してくれないかってルッカを通して聞くっつーややこしい頼み方をしてみたんだけどさ『いや、そういうのはちょっとできないす』だった。
そりゃそうだ。そこまで万能じゃねーよな。
しかも逆に『だいたいあいつ、あっしを食べようと狙ってる気がするんでなんとかしてくれないすかねー。けっこう真剣に困ってるんすけど……』というクレームを受けてしまった。
それはすまないとしか言いようがない。
つーわけで、良さげなスキルを取るしかないってことだ。
だけど、この分厚いスキル本を隈なく調べても進化を強制的に止めるスキルなんてないんだよ。
「なあ、アイゴン。お前、俺の眷属なんだよな? なんで意思疎通がはかれないんだろうな」
「グルア? ゴアア…」
小さな木桶に浸した神の泉の中でぷかぷかと浮かんでいたアイゴンに話しかけてもちゃぷちゃぷと小さく跳ねて気持ちよさそうに声をあげるだけだ。
「そうだよな。分からないよな~アイゴンは。俺がなんとかするしかないよな」
小さなアイゴンを軽く撫でて本に目を落とす。
なんかいいスキル…『進化阻止』なんて都合いいスキルあるわけないから似たようなスキル…うーむむ……いっそのこと俺が持ってる『言語能力』スキルをアイゴンにあげられればいいんじゃねーの。
……なんか昔『スキル交換』とかいうスキルがあったような……パラパラ……あったあった!!
『スキル交換』:100000P
☆持っているスキルと交換できます。一度交換したスキルは二度と戻せないよ。取り直しも出来ないんだから。それでもいいの?
あほか。駄目に決まってんじゃん。今度は俺が喋れなくなるじゃねーか。
あっぶねー。スキル内容が見れるようになってて良かったぜ。
確かあの時はポイントも足りなかったんだよな。もしあの時まかり間違って取ってたらまずいことになってたなー。
でもこのスキル、安っすいゴミスキルとって魔物とかに使えば結構いいんじゃね?
今はいらないけど便利そうではあるな。
次、おっ『スキル付与』これじゃね? やった。あるじゃん。
『スキル付与』:50000000P
☆自分の所持ポイントを使って誰かにスキルをプレゼント! 自分が所持してるスキルはあげられません。与えたスキルは自分では取得する事ができなくなります。よく考えてから貢ぎなさいよ?
……なるほど、5千万か。おそらくチートスキルなんだってことは分かったぜ。
だが今の俺には無理だ。
しかも『言語能力』スキルは俺がすでに持っているし取れたとしても無意味だよな。
うーむ。どうすっかなーっと。
パラパラ……うん? なんだこのスキル。
『コミュ力(人系以外)』:500000P
☆もう人間関係には疲れたんだ。もう誰も信じない。そんなあなたにお勧めです! 他の生き物たちとお喋りして癒されたいとか思ってるかもしれないけど、みんな悩んで、苦しみながら生きているのよ。楽しい時もあれば悲しい時もあるの。癒されるかどうかはわからないけどそれでもいいなら……
なんだこの説明文。
長い割に全く意味わかんねえ。
お勧めとか言う割には妙に説教くさいし……妙に取る気をなくさせてくるスタイルか。斬新だな。
だけどこれならやっとアイゴンとも話せそうだな。
通訳系はルッカが嫌がってたけど仕方ない。これを取ってみるか、50万Pだし。
「アイゴン、お前も俺と喋ってみたいよな? そうだよな?」
『グルアッ‼』
「よしよし。元気な返事だ。まってろよー」
『グルアアッ‼』
「おいおいっ。急に飛びつくなよっ。水がかかるだろ」
こうして俺は、スキル『コミュ力(人系以外)』なるものを取得した。
「アイゴン。どうだ、なんか喋ってみろよ!」
『グルアア? グラアア!』
「えっ? ちょっと待った……もう一回何か言ってみろよ」
『???? グルァ?』
なんで喋れないんだよ。人以外と喋れるようになるスキルなんだろ!?
開きっぱなしにしていた本をもう一度見る。
スキル説明文の末尾にじんわりと文字が浮かび追加されていった。
”アイゴンは除く” と。
なんだよそれ……思いっきり後出しじゃねーか‼ くそがっ!
『たっただいまー。あーつかれたわ〜。ルッカちゃんひとりで頑張っちゃってたいへんたいへん』
……お疲れ
『なによー。このかわいいかわいいルッカちゃんのお帰りだってのにしけてるわねー。えっ? ちょっとレオ! あんた土みたいな顔色してるわよ? 何か盗み食いでもしたの?』
……ちょっと待ってくれ、今整理するから……。
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『なるほどねー……それはまた……残念だったわね』
俺、クソみたいなスキル取っちまった。
50万Pも無駄にしちまった。
『そうね、そうね。それは本の方が悪いわよ。何て言うか、残念だったわね。それにしてもアイゴンって何なのかしら。見ている感じだとアイゴン同士なら話せるみたいだけど私も何となくの気持ちを受信できるくらいだから』
…そもそもさ。俺、アイゴンの主人なのになんで意思疎通できないんだろうな。
無駄なスキルも取っちまったし……
『そうねー。もうアイゴンの事はおいといて別の方法を考えましょうよ。例えばアイゴンがいる小島に結界を張るとか……』
ルッカ出来るのか、そんなこと。
『ううん。ちょっと思い付いただけ。妖精に一応聞いてみるけど、多分出来ないと思うわ。だってもしそんなことが出来たら私達エルフ族が逃げてばかりの移動生活を送る必要なんてなかったわけだし。だからね、スキルで探そうって言ってるの。あるわよきっと。結界ならまともそうなスキルだし』
……うん。
……えっ…ちょっとまてよ。なんかそれ、妖精も出来そうな気がしてきた。
多分エルフ族がいままで思いつかなかっただけなんじゃね?
なあ、ちょっと聞いてみてくれないか?
『ちょっと……何なのそれ。それって、私達の事を馬鹿にするような物言いじゃない』
いやいやいやいや! 決してそんなつもりはないんだ。
だけどさ、だけど一応だよ。念のため聞いてみるのはいいじゃん。頼むよ!
『そりゃ……聞くだけ聞いてみるけど。でもきっと出来ないからレオも残りのポイントで取れそうなスキルを探しておきなさいよ』
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結論として、妖精はかなり高度な結界を張る事が可能だった。
そして、杞憂していた問題は瞬時にして解決した。
ルッカは……頭を抱えていた。
ルッカ……元気出せよ。今度エルフ族にあったら結界のこと教えてやろうぜ?
『……………………そうね』