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127.修行(マール)2


結論から言うと、マールの音痴は筋金入りだった。


レッスンには遊びだと勘違いしてメイ達も参加するようになり、毎日にぎやかな楽器の音とともに陽気で楽しそうな歌声が島中に響き渡っているのだが、マールの歌声だけは明らかに外れまくっているのが分かる。

しかし、マールの偉いところは明らかに音が外れていてもめげない心臓ハートの強さだ。

マールより後から参加したメイやリリー、ウーナ達が幼い声なりに可愛らしく歌い上達するなかでマールただ一人だけがしょっちゅう注意されている。

 主にディアーナに。

 目にいっぱいの涙をためながらも頑張って歌う姿に心を打たれたらしいディアーナは、ここにきて姉御肌に火がついてしまったのだ。


「また外れてるわよ! マール。……そうね。あなた一度手で耳を押さえながら歌ってみなさい」


「はっはいぃ…」


「はい! 歌って! ららら〜」


「ら、ららら〜」


 やっぱりあさっての方向にぶっとんでいる。


「どう? 自分の声聞いて音程がおかしいの分かった?」


「はい……でも自分ではちゃんとやってるつもりなんです」


 マールは頑張っている。

 見ていれば分かる。

 その頑張りに、島のみんなも音程の外れまくってズッコケそうになりそうなマールの歌う姿を誰も笑うことはない。

 

 だけど駄目なんだ。壊滅的なんだ。


 ルッカに言わせればエルフたちも産まれた時から両親や仲間が歌う姿を見聞きしながら育つから自然と覚えていくらしい。

 だけど話を聞く限り、マールはどうやら4、50歳の時に人間に誘拐されてしまったんだと。

 エルフでいう4〜50歳っていうのはまだまだ幼児に近いらしくその時点からエルフとしてよりも人間に種族を隠して逃げの一手を選択してきた上に、エルフ自体が定住しない生き物だから家族のもとに帰る事も出来ないっていう状況だったっていうのがそもそもの原因とは思われた。


 もしかしたら逃亡生活中に耳を悪くしたのかと回復魔法を試したりアイリスの光魔法を試したりはした。

 だけど駄目だったんだ。

 鑑定で調べる限りだとスキルは持ってるみたいだから出来るはずなんだけどなあ。


 マールに出会ってからなんやかや慌ただしくてしっかり話を聞いてなかったから、これまでの状況を聞く限りだとよく擦れずに明るくここまでこれたと思う。

 ディアーナはこの話を聞いて更に何か感じるものがあったらしく、より一層マールのレッスンに力を入れ始めた。

 最近は腹の力がどうのとマールに腹筋200回の4セットを課している。

 そして走り込みまで追加された。

 これは、俺もメイ達も付きあっている。

 アイリスまで「私もやります!」と参加した。

 体力についてはアイリスが圧倒的に付いてこれないが、それでも頑張っている。


 ルッカも、マールのやる気は認めているし『そういう状況なら仕方ないわよね〜』と、せっせと一人で夜な夜な呪いをかけに行っている。

 何も出来ないながらも、毎夕よだれを垂らしながら食事の量を自ら制限してルッカにくっついて行こうとするので、アイリスも真摯に参加。ついでに俺も。ほっとけないとディアーナも。そしてルッカと談笑しながら酒を飲みたいボン爺も。

 つまりは毎晩全員参加だ。


 ルッカも夜寂しくないのとみんなが見ているのでとても張り切って綺麗な歌声を聞かせてくれる。

 

 だけど、ルッカも一人で大変そうだよな。俺もスキルを取ればなんとかなりそうなのに。

 俺とルッカだけならみんな寝れるし。


『だめ。それだけは絶対にやめて。私の存在価値がなくなるじゃない』


 そんなの心配すんな。大丈夫だろ。ルッカアイゴンとか虫とかと喋れるじゃん。

 

『いやよ。なんかそれだけだと私の立場が弱い気がする。とにかく私と被りそうなスキルはとらないで! むしろお兄ちゃんとかアイリスみたいな光スキルとればいいじゃない』


 だってあれ一億ポイントもするんだぜ?

 それにルッカの言葉を借りれば、そのうち兄貴も取り戻したらスキル被りまくりじゃんか。

 俺はなんか別のスキルで特化した方が得な感じしねえ?


『うーん……じゃあ、私を蘇生できるようなのは?』


 おおっとー! とうとうルッカの成仏願望がなくなったか。


『そういうわけじゃないけどっ! いいのいいの。今のは忘れて! どうせ無理だもん』


 確かに難しそうなんだよな。

 万能そうな光魔法でも姿を見せるだけだったもんなー。

 ま、あとは神様にまた会えれば何か教えて貰えるかもしれないしポジティブにやっていこうぜ。


『はいはい。もう私のことはいいから。それよりさっさと舟もどきを作りなさいよ』


 ボン爺のいう通りで、実際にこの島にある船っていうのは丸太を集めて蔓で縛っただけのまんま筏でしかなかった。しかも小さい。

 魚も筏で少し行ったところに網をはれば簡単に獲れるという食料に恵まれた地域性のせいで、この島の住民は外に出る気もないらしい。

 船を作れるような大木も特になく材料も少ないせいで、器用なボン爺もお手上げ状態だった。

 というわけで、全員乗れるようなでかめの筏の制作中だった。


 ボン爺は酒を飲んでいるだけじゃなくてしっかり仕事をしてくれていたんだ。


 というわけで、俺は日中は遠くから聞こえてくるマールのすっとんきょうな歌声を聞きながら男衆に混じって筏作りを手伝っている。

 

 島のみんなの話を聞く限りだと、ここから少し北に行った所に大きな島があるらしい。

 そこならちゃんとした船があるみたいなんだ。


 だからそこまで辿り着ければいいんだけど、ボン爺は「ベネット族のいう『少し』の感覚が多分違う」と慎重になっており、なるべく舟の形に近いものを作ろうと奮闘している。

 確かに族長が示す方向は、どんなに良く晴れた日中でも水平線の向こうに何も見えない。

 おそらくボン爺の考えが正しいと俺も思う。


 島の木は殆どが果実をつけているし島自体も小さいからあまり乱伐するのも申し訳ないと、なるべく古い筏を解体したり、古木や俺たちの壊れた船の残骸を探してきては拾ってきて作っているせいで沈みそうな気しかしないんだよな。

 というわけで、取ったよ。スキル『物質強化Lv7』なるものを。

 25万Pポイントぐらい使っちゃったけど。


 ま、何か使えそうだしついでにディアーナの剣にも『物質強化』をかけてみて試し切りをしてもらったら、空間がガチでぶった切られた。

 ついでに意味が分からないけどディアーナのレベルも3ぐらい上がった。

 意味がわかんねえ。

 とりあえず、俺も自分の剣を強化して早朝はディアーナと稽古してるんだ。

 空間が切れる様になればレベルが上がるといま俺は信じている。


 2週間ほど経ち、ルッカの作業と俺たちの作業は順調に進みつつ俺たちの為の家も完成してしまった頃に、ルッカが心配そうに俺を呼び出した。


『一応、もうすぐ私の仕事は終わるんだけど……泉を作ってからここのアイゴンが元気になっちゃったじゃない?』


 ああ、ここの奴らははメイ達にもよく懐いてるよな。


『うん。心配なのはね、あの子達が進化して『呪い特化型』にならないかなってこと』


 それはまずいな。


『そうなのよ。あんたのアイゴンがリーダー格なんだから一言命令させといて欲しいの。あとは、アイゴン対策に『呪い吸収返し』みたいなスキルない?』


 いや。それは無いだろ。アイゴンには言っとくよ。

 後はアイゴンが進化しない様に魔物と魔族が入ってこれないようにすればいいだろ。


『そうすると、お魚がいなくなっちゃう……』


 えっ? あの魚って魔物だったのかよ⁉

 あっ…そう……。じゃ、俺もちょっと考えておくよ。

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