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126.修行(マール)


「えー! なんで夜ご飯がおあずけなんですかー⁉︎ ひどい……ひどすぎますっ!!」


「いやいやいや…もう魚5匹は食っただろ? とにかくこれ以上食ったら確実に寝るだろ? だからもう我慢しろよ」


「……ひどっ……ひっ……う、うわーんっ」


「マールかわいそう。ねぇ、なかないで?……ぅっぅええ……」


「えっ⁉ メイごめんね? メイまで泣かないで⁉︎ これは嘘なのっ! 嘘泣きだから安心して?」


 分かってたけど速攻で白状しやがったな。

 

「レオ兄さんっ! メイが泣いちゃうからハッキリ言わせてもらいますけど、これだけじゃ足りなくてお腹が空いて眠れませんっ! そして死んでしまいます!」


「えっ……マールしんじゃうの? ぃゃぁーー!」


「あっメイごめん。嘘だよ? 嘘だから! そんな食べなくても死ぬわけないじゃんっ!」


 分かってるけど嘘までつきやがったか。

 しかも即座に自白してやがる。

 まったく純粋なメイを心配させやがって。


「……とにかくルッカに言われてるから今日からしばらく我慢しろよ。そのかわり朝たくさん食えばいいじゃん」


「っ!! なるほど。そういえばそうでした」


 納得すんの早いな。

 っつーかさっき説明した時はルッカに指導してもらえるって小躍りしてたくせに食いもんが目の前に現れると豹変するからなー。まったくやれやれだぜ。


「じゃあ、あとはデザートだけ…えへへ……いっただっきまー」


『却下』


「残念だがマールよ。たった今ルッカから却下された。昼間あんだけ食ってただろ? 我慢しようぜ?」


「ええ〜っ! ルッカ先生〜……」


 ルッカはこの機会に「ルッカさん」「ルッカ先生」「ルッカ師匠」とマールからどう呼ばれるか真剣に考えた結果「ルッカ先生」に決めていた。

 マールは食いしん坊だし寝相もとんでもなく悪いが、意外と礼儀正しいところがあるからすんなりと受け入れている。

 俺の事も呼び捨てでいいって言ったのに「命の恩人だから」とレオ兄さんと呼んでいる。

 ま、それも俺だけに限った話じゃないんだけどさ。

 実年齢を考えると確実に俺たちは年下なんだけど、これもマールのケジメらしいからもう好きにすればいいと思うようになった。


「あっアイリスはもっと食うんだぞ? 果物しか食べてないだろ? ほら、魚も食え。いつもマールに横取りされてるもんな」


「えっあっ……ありがとうございます。兄様」


 そう、マールは目の前にある食べ物を超スピードで平らげていくのでいつものんびり食べているアイリスは特にマールの犠牲になっているのだ。

 だいたいアイリスの側にディアーナが付いてアイリスの分も確保してやってるからなんとかなってるけど、だいたい「あっ! アイリスねーねさん食べないの? もらってもいい?」とメイの真似をして上目遣い攻撃で人の食料をかっさらっていこうとする。

 見た目はメイと同じ背格好だからついうっかり間違えてあげそうになるんだよな。

 だけど、違うんだ。

 マールは長年一人で逃げの生活を送ってきただけあって俺達なんかよりよっぽど逞しいんだ。

 マール魅了まやかしに太刀打ちできるのはボン爺かルッカぐらいしかいないんだぜ。

 あのディアーナですら女子には徹底的に甘いからな。


「私、こんなに頂いても大丈夫でしょうか? みなさまは……?」


「何言ってるの? アイリスはもっと食べなきゃだめっていつも言っているでしょう。今日はマールがもう食べられないみたいだから私たちももう一匹ずつ食べちゃいましょう」


「ディアーナさんまでひどいっ。うう……ひもじいですぅ」


 しかし、唯一の味方のはずのメイはもう義理父親おとうさまに大切に抱えられて半分夢の中だ。マールよ、残念だったな。


「まったく。少しは我慢せい。腹いっぱいだと修行にならんぞ」


「はっ!! そうでした! 私にはこの後修行がまっているのですっ! ふっふふーん! 私、頑張りますよ! 見ていてくださいっ! ルッカ先生っ‼」


 天高く腕を上げてガッツポーズを決めると、俺に向かってきらきらした目で決意表明をしたマールだったが、残念。

 ルッカは今ディアーナとアイリスの側で楽しそうに二人の話を聞いているところだ。


 そんなこんなで食事を終えると、皆歌いながらそれぞれの家に入って行く。

 そして間もなく陽も完全に水平線に沈み大きな月と満点の星が現れる。


 普段ならまっさきにテントに潜り込みど真ん中でぐーすか寝始めるマールは今日はいない。

 この島にかけるルッカの呪いの作業はマールとアイリスさえいればいいらしい。

 俺ですら島のはじっこでちょっと距離がある所にとりかかるときだけ近くで待機していればいいんだと。

 でも今日は初日だし俺も含めてみんな興味があるからか全員参加だ。


 さっそくアイリスが光魔法を唱えると、幻想的な光と共にルッカの姿が現れる。


『はいっ! みなさんこんばんは』


「「「「「こんばんは」」」」」


 完全に張り切っているルッカの第一声についつられて全員が返事をしてしまった。


『こっほん。じゃ、早速だけどマール、妖精を呼び出しなさい。他のみんなはちょっとその茂みに隠れてて。妖精は姿は見せないけど、人間が近くにいると嫌がるから直視しちゃだめよ?』


「それを先に言わんか。ほれ、わしらは離れるぞ。嬢ちゃん、魔法の制御は大丈夫か?」


「あっはい。これくらいの距離なら大丈夫です」


『ほらほら、マール。さっさとやりなさい! まったくもー。時間がないんだからね?』


 ルッカのやつ渾身のドヤ顔だ。気分はボン爺かディアーナなんだろう。


「はいっ! やります! せーのっ」


 なぞの掛け声から始まってマールは妖精を呼び出すべく歌を歌い出した。

 前に国王じいちゃんを助ける時にルッカがやっていたように。

 マールの声は少し幼い感じはするが、声質はルッカと同じで綺麗だ。


 だが


『……ちょっと! やめて!! 今すぐ止めなさい!!』


 ルッカが急いでマールの口を塞ごうとして見事にすり抜けた。


「えっ⁉ 途中でやめて大丈夫なんですか? 妖精たちが気分を害してしまうんじゃ……」


「すでにこの辺の妖精達の体調が悪くなっているわよっ!」


 ルッカが慌てて綺麗な声でしばらく歌い上げたあと、マールへの説教が始まった。

 あの年中ふざけているようなルッカが真面目に怒っている。


『あんた……妖精達を殺そうとするなんて……信じられない。一体、いままで何やってたのよ?』


「えっ? ええーーーっ!!」


 マールはとんでもなく音痴だった。 


 翌日から、マールには昼間は声楽のレッスンが課せられた。

 幸い、この島の皆は歌と踊りを愛する民族だ。

 マールの音痴を修正する手伝いを快く買って出てくれたのだ。

 意外だったのはディアーナだ。

 ついでに参加したディアーナとアイリスだったが、ディアーナの歌声はすごく綺麗だったんだ。

 アウトローなイメージしかなかったから凄い驚いたが、ルッカは完全に心酔しきっていた。

 その姿を見て俺は思ったよ。ああ、これが宝塚女子かと。


 そんな中、ルッカは夜な夜な周辺の妖精達に先日のマールの件で平謝りしながら、呪いの理論なるものをマールに座学で伝えている。

 正直あんなに張り切っていたのにルッカの事が気の毒でもあるので、何となく俺たちは夜数時間の間、付きあっている。 

 呪いの理論とやらも勉強になるかと思ったけど、『○○の歌をこういう感じで歌うのよ』とか内容が特殊過ぎてついてはいけなかった。


『どうしよう。やっぱり一人でやろうかな』


「いや。実は船の調達が思う様に行っていなくてな。マールの為にもあの音痴は直した方が良い」


『もー。ボン爺さんったら、いっつも族長さんのところで呑んだくれてるの知ってるのよー?』


「あちゃあ、ばれとったか。がはは。酒が上手くて勧められるとついのう」


『だめよー? まだ若いんだからって飲みすぎちゃ』


「はっはっはっ! わしが若いか。そんなことを言ってくれるのもルッカくらいじゃわい」


 ……なんだこのキャバクラみたいな会話は。


「俺、ボン爺の事は信じてたのに……」


 船の事を忘れてるなんて酷すぎる。


「レオン。大人の会話にガキが入ってくるな。興ざめじゃないか。まったく……この島にある船っていわれるもんが筏みたいなもんしかなかったんじゃ」


『あーあ。せっかく楽しくおしゃべりしてたのにー』


 ……そういやルッカは国王じいちゃんとも楽しそうに話してたしな。


「……なんかごめん。もう俺は寝るよ」


 気まずくなって即座に退散。

 それにしても、船の事はボン爺に任せきりにしてたもんな。

 よし。俺は明日からボン爺から酒を奪いつつ船の調達に参加すっか。

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