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123.宴


 感動の再会を終えると、メイは義理父親おとうさま義理母親おかあさまに俺たちの事を紹介してくれた。

 自然ナチュラルに母国語であるダグロク語に戻って満面の笑みで嬉しそうに。


 それでも話し方は相変わらずのメイ語のままで、「あのね、にーにと、ねーね、ぼんじいと、ディアと、マールだよ! あとルッカもいるんだよ‼」と、拙い言葉のまま言い切ると満足そうににっこりと笑った。


 攫われて見知らぬ土地の言葉に慣れないから舌足らずで幼い話し方なのかと思っていたけど、これがメイなんだな。

 うん、でも逆に良いと思うな俺は。メイにはもうずっとこのままでいて欲しい。

 いや、義理母親おかあさまの様に将来なるのなら、その成長過程はずっと側で見守りたい。

 メイが母親似でマジでよかった。


 メイのかなりざっくりした紹介に加えて、俺の方からこれまでのいきさつを説明した。

 ミラ先生に教えて貰った事がここでも役に立った。流石だ。流石だよ、ミラ先生。

 

 メイの両親は、俺たちが敵ではないという事をすぐに理解してくれた。

 近くで見ていた獣人の村人たちも話を聞きながら歓声をあげたり口笛を吹いたりして喜んで歓迎してくれた。


「……そういうわけで、嵐に巻き込まれて気が付いたらここに辿り着いていたのです。でもメイの故郷だと知ってメイを義理父親おとうさま義理母親おかあさまに会わせる事が出来て嬉しいです」


「ありがとう。君たちにも事情は色々あるようだけどね、我々のもとに愛しい娘が帰って来たことはこれ以上ないほどの喜びだ。ともかく、我々は君たちを歓迎する。さあ、こっちだ」


「ありがとうありがとう……ああ、メイ……なんて大きくなったの」


 義理母親おかあさまに抱き上げられて、すっかり甘えてうっとりとするメイ。

 義理父親おとうさまも寄り添うように仲睦まじく歩く三人に俺たちは付いて行く。


 村人たちも一緒に俺たちを取り囲むように歩く。

 獣人は、様々な動物の姿で全体的に毛むくじゃらでもふもふしているが、メイや義理母親おかあさまのように比較的すっきりしていて耳や尻尾以外は人に近い姿だったりもする。

 そして、ほぼ……まともに服を着ていない。

 男女ともに大事なところを布を巻いて隠している程度だ。 

 メイも最初はだか同然で走り回ってたもんな。

 みな、陽気な性格のようで歌ったり口笛を吹いたり、謎の楽器を持って鳴らしたりと賑やかだ。


 ただ、メイ以外で獣人にこんなに沢山の獣人に囲まれてみるとそれなりに威圧感も感じる。

 もし俺がダグロク語を習っておらずメイとも出会ってない状態でこの島に漂着して今のような状態になったら確実にこれから食われると勘違いしそうにはなりそうだ。


 島は小さく、獣人たちの暮らす集落もそんなに大きなものではない。

 数人の子供の獣人が興味津々に目を大きく開き、遠くから「メイだっ‼」「メイっ‼」と大きく手を振りながら駆け寄ってきた。

 この集落のメイの友達か。たぶんリスと犬の獣人だと思われる。

 もふもふで、めちゃくちゃ可愛い。メイが一番可愛いけど。

 「リリーっ! ウーナっ‼」メイもすぐに義理母親おかあさまから離れると駆けだして、嬉しそうに抱き合いながら飛び跳ねている。


「うう……私だけのメイだと思ってたのに、ちょっと嫉妬してしまいます」


 マール、知らなかったかもしれないが……メイは俺のメイなんだ。

 という発言は心の中に留めておいた。

 せっかくマールの警戒が解けて来たのに迂闊な事は言うまい。


 すぐに、賑やかな音楽や歌と踊りが始まり目の前にご馳走が並べられていく。

 大きな葉で蒸し焼かれた魚にカラフルな果物。

 木をくり抜いて作られたコップには温かく湯気が立つスープが注がれた。

 スープの中には糸ミミズみたいな形状の白い虫が漂っていた。軽く引いた。


 料理の種類はその程度で決して多くはないけど、どれも新鮮で旨かった。

 スープもさっぱりした味で糸ミミズさえなければいける。

 おそらく貴重な蛋白源なんだろうし、ボン爺もマールも平気で平らげていたのを見て、引き気味の俺とディアーナもおそるおそる飲み込んだ。

 糸ミミズは全く味も臭いもないものの、歯に挟まりやすかった。

 一気に飲み干すのがコツらしい。

 口直しのフルーツを急いで食べる。甘酸っぱい食べたことない味だけど後味爽やか。

 ディアーナも「お肌によさそう」と食べまくっていた。


 獣人たちはずっと、歌って踊っていた。

 大切な客人である俺たちの為に行ってくれる儀式なんだそうだ。


 腹も膨れたところで、陽も落ちかけてきた。

 今日はこの村に泊めてもらうんだ。


 アンドレ達を見失ってしまった上にここまでかなりの距離を来てしまったからそのロスを考えると、大破してしまった船の代わりについて話をしたかったんだけど、メイ達家族を見ていたら言いづらくなってしまった。

 ボン爺ともアイコンタクトでこの件は明日にする事にして、即席で作って貰ったテントに入る。

 集落のそれぞれの藁ぶきの家はどれも小さく、俺たちが入れる場所がなかったんだ。

 今日はメイだけは家に帰って眠る。


 食事の間、これからの旅にメイも俺たちについてくると主張した。

 攫われてからやっと帰ってこれた故郷だ。

 メイ親子の仲睦まじい姿や友達との楽しそうなじゃれあいを見ていると、どうしてもこのままメイはこの村に留まってしまうんじゃないかと少し不安だったんだ。

 もし、メイが「ここにいたい」と言うなら引き止める事はできないし。

 だから「にーにたちといっしょにいくよ」とメイが言った時は、全員が全員驚いたんだ。

 もちろん義理父親おとうさま義理母親おかあさまもメイのことをすごく引き止めたし、獣人たちみなも「だめだ」と言った。

 俺たちは何も言えなかった。

 そして、しばらくもめた後、一貫して譲らないメイの主張が通ったのだ。

 メイの言葉はいつも正直だけど少ないから、その心境まではいまいち図れない。

 だけど、これからもメイと一緒にいられることになって俺はすごく嬉しかった。


 そういうわけで、俺たちはあまり早くこの島を出たいという言葉を言いだしづらい。


 まあ、でも明日。

 明日一日この村に滞在させて貰いながら色々と情報を聞いてついでに船を貰える様に頼むんだ。


 ------------


 深夜、隣で寝ていたマールに盛大に顔を思いっきり蹴飛ばされて目が覚めた。

 マールの寝相は相当悪いらしい。

 俺の顔の上に足を乗せたままアクロバティックな謎の姿勢で安らかに眠りこけている。

 その下で苦悶の表情を浮かべながら眠るアイリス。


「いってー……おいマール、色々下敷きにすんなよ」


「ぐーすぴー……」


 マールの足をどけて起き上がると引っ張ってアイリスと離して寝かせた。


「ぐー……うう〜あ、まだたべれます……」


 夢の中で何食ってんだこいつ。アイリスは、うん、安らかな表情だ。これで安心。

 そういやディアーナがいないな。外か?

 テントの入り口を軽く開けると、近くでディアーナが胡坐をかいて座って空を見上げていた。


「ディアーナ?」


「あら、どうしたの? トイレ?」


「違うよ。マールの奴がさ」


「ああ、なるほどね。私もやられたのよ」


 ディアーナもマールの寝相に耐えかねて外に出てきたらしい。

 次に狭い所で寝るときは、マールは縛りあげておくべきだな。


 なんとなくディアーナの隣に座る。

 空は信じられないぐらい沢山の星が瞬いていた。 


「そういえば、レオン。モルグ族の言葉はミラに教えて貰ったの?」


「うん、そうだよ」


「ちょっと教えて」


「別にいいけど、俺が通訳すればいいじゃん」


「ま、それでもいいんだけど……私も覚えておきたいのよ」


「何で?」


「何でって……あのね、私。貴方のお兄さんの救出が終わったら……その後、旅に出ようと思ってるの。モルグ族の言葉が必要になるかは分からないけど、知らないよりは良いでしょ? 言葉って案外苦労するから」


「へっ⁉」


「レオの剣の修行はまだ終わったとも言えないんだけど、お兄さんが助かればそこまで剣術を磨き上げる必要はないじゃない? 必要最低限の基本は叩き込んだから後はじぶんで修行しても良いと思うし」


「いやそんないきなり旅立つとか言われてもさ…どういう事?」


「やらなくてはいけない事があるの」


「それなら俺たちも一緒に行くよ。ディアーナだけ一人で行く事ないじゃん」


「それは無理よ。貴方たちやっと家族が揃うのよ? 長年離れて暮らしていたんだから家族水入らずで過ごしなさい」


「っていうかもうディアーナも家族みたいなもんじゃん。ずっと俺たちに付き合ってくれたしさ。だから用事があるなら俺達も一緒に行くよ」


「馬鹿ね。家族は一緒にいるべきよ。これは私だけの問題なの。レオもレオの家族も関係ないもの。だから一人で行くわ」


 いつもは簡潔に話すディアーナの物言いが歯切れ悪いのは、きっとディアーナの家族に関係するに違いない。

 前に王都土産で渡したディアーナの母親の剣、トゥールという苗字、西に行きたがっているというルッカの言葉。大蛸に襲われる前の本来の目的地が西だった時も闘気を燃やしていたよな。

 トゥール国はバルム大陸にある。

 ディアーナが行きたいのはそこだと思う。自分の国に帰るんだろう。

 メイが、この島に帰ってきたように……。


 ……どうしよう。めっちゃ聞きたい。

 『ディアーナさん、あなたの本名はエリルさんというのではないですか?』とか『あなたの出身はトゥール国ですよね?』とか…すげえ聞きたい。


『うーん。やめといた方がいいわよ。聞いた後、鑑定スキルの説明が難しいわ』


 確かに。


『きっとそのうち、本人から言ってくれるわよ。何だか迷ってるみたいだし』


 そっか。分かったよ。


「ま、でもディアーナ。これからアンドレの救出のついでにディアーナの目的地にも行くかもしれないじゃん。その時に予定を済ませられるんだったら一緒にいけばいいじゃん」


 多分このあとバルム大陸に向かうし。

 用事ってなんだろう。家族はいないみたいだし、墓参りとかか?


「えっ? レオン、予定……ってていうものじゃないんだけど。いえ、何でもないわ。そうね。とにかく私の用事よりもお兄さんのアンドレを助け出す方が優先よ」

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